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魔王を倒したらクリアだと思ってました  作者: アトアル
一章 魔剣があれば楽が出来ると思ってました
3/35

この世界で強くなる三つの方法

「んじゃあこれまでの話が終わったところでこれからの話だ」


 俺は崖の向こうに見える町を見下ろし、話す。

「現在俺は王城ど真ん中に召喚され、そこから逃げ出したわけだが」

「そういえばなんだってあんな事したのよ……」

 逃げ出した時の扱いを思い出して半眼を向けてくるハヅキ。うん、穏便な方法を考えつかなかったんだすまない。


「一応あの話を最後まで聞かなかった理由はあるんだそんな眼で睨むのはやめてくれ、仕方がなかったんだ」

「そうなの? どういう理由?」

「話が長い」

「そんなので!?」

「そうは言われても、もう全部知ってることを長々と聞かされるだけだし……いや待てよ、そもそもあいつが魔王倒せとか、奴が諸悪の根元だとか、奴を倒せば世界は救われるとか、よく考えればご都合主義も良いところなクリア条件語ってきたせいで失敗したんじぇねぇのか。そもそも何であんな所でふんぞり返ってるだけのおっさんにそんなことが分かるんだよあり得ないだろ、じゃああれか、決めつけただけか、自分の考えた、世界滅亡のすごいすいり、聞かせて来やがっただけなのか? そういやサンもあのクソヒゲが言ってただけだろバーカっつってたしつまりは……」

「お、おーいガイア?」 


 ふとした話から今まで考ることすらしてなかった事実に思考がこぼれた。だが、横にそれた思考は、その内容故に、止めることなどは出来ずひたすら加速する。その結果が、

「あの野郎……根拠もない推測を、さも世界の真理みたいに俺に吹き込みやがったのか……!?」

 急激にぐらぐらと体を揺さぶる感情。腹の奥からこみ上げてくる熱のような激情。

 あのクソヒゲに対するこれ以上ないくらいの怒りだった。

 いや、誰が悪いかは分かっている。そんな話を自分で考えもせず、そのまま受け取り流された俺が間抜けすぎたのだ。確かに異世界に転生なんて小説のような展開に舞い上がってはいた。だから話されたことも『そういうものなんだな』でそのまま受け入れて疑問にも思わなかった。いや、だからといってだ、『いやそんなゲームじゃあるまいし』とか『何でおっさんににそんなことがわかんだよ情報源ソースは』などいう思考を一回も抱けなかったというその事実が、自分がいかに舞い上がっていたかということを証明しているようで余計に感情を煮えたぎらせた。そう、これは俺のミス……!


 だからといって、奴を許したりなどしないが。

 半ば八つ当たりのような決意を固め、ようやく落ち着きを取り戻すと、おどおどとした様子のハヅキと目があった。

「おーい……あ、帰ってきた?だ、大丈夫?」

「ああうんすまなかったな話の途中だったなもう大丈夫だ。それで今後の予定だが


 あの国滅ぼそう」

「全然大丈夫じゃないわよ落ち着いて!?」

「ああすまん間違えた。滅ぼすのはあのクソヒゲだけで良かったな」

「そういう話じゃないわ!?」

「それで諸悪の根元は取り除かれハッピーエンドだ。止めてくれるなハヅキ」

「いやいやいや何も良くないわよ正気になって!?」

 ちぇー、と不貞腐れながら引き下がる。もとより真面目に提案もしていないしな。

 ただし、

「まあ冗談だ、今は何もしないさ」

「……今は?」

 この旅の中で、必ず思い知らせてくれる。きっちりとこの仕打ちに見合うだけの報復を考えてな……!


 俺の中で世界よりも優先される達成目標が生まれた瞬間だった。




「それで話が大きく逸れたが、俺が逃げた理由は仲間を付けられるからだ」

 何事もなかったかのように元の話を切り出す俺。ハヅキのジト目が俺の印象の悪化と『こんな奴のパートナーで大丈夫かな……』という感情をビシビシ伝えていた。

 ……今後はもう少し信用を勝ち取れるような言動をしていかないと。

「勇者の手助けを、とか言って騎士と僧侶を付けてくれたんだ、あのクソヒゲが」

 そういえばあのクソヒゲ国王、名前なんて言ったか。サンも呼んでなかったし、さっきも聞く前に逃げたし。まあいいか、どうでも。クソヒゲはクソヒゲだ、うん。


「その人たちが何か問題なの? ものすごく役に立たないとか?」

「いや、二人ともすごく優秀な仲間だった。人間的にもいい奴で、最高のパーティーでな、もう一人この後の町で仲間になった魔法使いを入れて最後、魔王城までついて来た。一番の友と言ってもいい」

「連れていかない理由が見あたらないんだけど」

「あいつらにその記憶があれば、な」

 ――分かってはいたがその事実に少しだけ、悲しみの念を抱くことは避けられなかった。

「二周目を行くにあたって、一周目と同じ旅をするわけにはいかん。あいつらに二周目がどうとか初対面でうまく説明できる自信もない。そうなれば、魔王を倒すものだと思ってるあいつらを引き連れて旅をするのは無理だ。それに今回は情報収集をメインに動くつもりだ、機動力やその場での臨機応変な予定のない旅になるから人数の少ないほうが動きやすい」

 俺は前回の記憶の分、つまりはこの周の未来の記憶がある。

 俺が前回通りに動かない分、その通りにならないことも多いだろうが、そのアドバンテージは大きい。

「例えば、俺は聖剣のある場所も取り方ももう知っているし、魔王城への侵入経路も知っている。あいつらと一緒にいるとこの知識を使った立ち回りがしにくい。そして……会ってしまうと、仲間入りを断るのは……難しそうなんでな」

「ガイア……」

「ま、そういうわけだ。とりあえずは仲間は増やさないで行くつもりだ。それに、仲間ならハヅキがいるんだしな」


 俺は、自分でも意識してなかったが寂しがり屋なのだろうか。自分の頭脳への信用がなかったから、頭脳面で仲間を欲していたと思っていたが……これでは単に一人が嫌だからハヅキをもらったように見えてしまう。なによりハヅキにそう思われた、あれはそういう顔をしている。

「ま、まあこの私がいるんだもの! 前の仲間なんていなくても私一人でばっちりサポートできるわ。任せておきなさい!」

 何か、妙にやる気にさせてしまったような……まあおかげで仲良くやっていけそうなのだし、このままでもいいか。

「ああ、ありがとうなハヅキ」

「ふふん、パートナーだからね」



「んじゃ、改めて当面の行動だが……どうしような」

「どうしようって……何も考えてないの?」

「んー、いや、いくつか候補があってな……とりあせず、現状やらなきゃいけない事がある」

「やらなきゃいけない事?」

「うん……まず俺のステータスが低すぎる」

 俺は左手にはめてある腕輪に触れる。すると腕輪から光が漏れ、宙に文字が浮かび上がった。





 天海 水星   職業 元高校生


 力    6    技   768

 速さ   6    魔力   18

 体力   5    運    50

 目安防御値  3





 これは、一周目の時にサンからもらった転生時の特典の一つで、見ての通りステータスが表示される。

 俺にこの数字通りの能力が宿っているわけではなく、サンの評価でこれくらいは力が出せる……といった感じの目安を出しているだけらしい。この6とか5とかいうのが一般的な高校生レベルというわけだ。技だけは、前周の戦いの記憶で再現できるものとして、若干落ち込んではいるがほぼそのまま残ったようだ。ちなみに職業はパラメータや行動で勝手に与えられる条件の緩い称号のようなものだ。称号によっては獲得したときにそれが職業になっていたりすることもある。そしてレベルとかそういったものはない。当然だ、ゲームじゃあるまいしな。敵を倒して経験値を稼ぐなんてことは出来ない。それでどうやって強くなるかというと、モンスターが持っている魔石を装備するのだ。


 この世界では魔石を加工して、装備者に加護を与える装備を作る職人がいる。その装備があれば、子供でも王宮の騎士以上の力を出せる、という代物だ。

 ただし、魔石は弱い魔物が持っていることはなく、というより強いから魔石が生成されるのであって、強くなるためには強い魔物を倒さねばならない。当然、強敵が落とした魔石を使えば自分が強くなれる。この魔石、質も量も大事になってくるのだ。


 ものにもよるが、魔石から力を引き出す加工は難しく、基本的に一つの魔石を一つの装備にしか加工できない。二つ以上付けようとしても、強度が無くなったり加護がまるで引き出せなかったりするらしい。武器のような力の方向性がはっきりしているものは力を引き出しやすく、腕輪やネックレスなど、ただの装飾品で強い加護を引き出すのは難しいとされている。そのため魔石装備を装備できる数は限られる。武器のほか、鎧がたくさんあっても、装備できる数は限界があるからな。また、魔石自体の希少さもあって一人が持つ魔石装備の数は、大体五個程度になる。故に、その五個の範囲でどれだけ加護を得れるかが大事になってくる。


 そのため、効果の高い魔石は当然、手に入れたものが装備に使うことが多く、一点物として皆愛着を持って使うことがほとんどだ。強力な魔石装備は店にも出回らない。仮に冒険者が古くなった装備を売っても、それはもう、常人には手の届かない値が付く。


 ちなみに、その魔石装備の強さを測るために使われるのが教会だったりする。

 教会では、その人が持つ加護を知ることができる。それを利用して、魔石装備から受けている加護の量を調べる方法が確立されたのだ。

 尚、本来教会で調べられていた加護とは神から授けられたという称号のことだ。称号にも加護が付いており、肉体の強化や、特殊なスキルに目覚めたりと恩恵が受けれる。実際に神様から与えられてるそうだし、称号を取るに至ったご褒美だろうか。ちなみに、基本的に獲得難易度はおかしい。

 ちなみに俺の腕輪と違って加護の性能は具体的に数字で出たりはしない。この腕輪、流石に女神様からの贈り物だけあって性能も段違いだ。ただし、数値で出されても基準が無いから高いのか低いのかが分からない。おかげで全部、自分でどの程度の強さか調べる必要があったがな! 5とか100とか言われてもどれくらい違うのかわっかんねぇよ! ちなみに、力だと100もあると、そこらによくいる熊のモンスターくらいは一撃で倒せるようになってくる。


 話を戻すと……つまり俺がこの世界で強くなる方法。それは、その貴重な強い魔石の装備を手に入れるということだ。

 更に、俺にはもう一つ手段がある。このステータスの見れる腕輪、これ自体が魔石装備と同じで加護を秘めている、現状の(・・・)効果は魔力+10、たったこれだけだ。

 だが、この腕輪は、魔石を食わせる(・・・・・・・)ことができる。

ドロップした魔石を与えることで、この腕輪の能力値を強化できるのだ。

 経験値稼ぎは出来ない、とは言ったが、この能力を用いれば、魔石を落とすギリギリの強さの敵でも、理論的には狩り続けることでいくらでも強くなれる。



 といったことを、ハヅキに簡単に説明しながら、考える。

「今後を考えるとパラメータは上げておきたい。危険度の高い道程、通れると近道になったりするからな。というわけで、強力な魔石か、その加工装備かを手に入れたい」

「なるほどね……一周目の時はどうしたの?」

「……そういやあのクソヒゲから結構いい装備もらって、それ一本でしばらく何とかなったな……今にして思えば国王が寄こす装備だけあってそこそこ上級装備だったな、あれ。それ使って、倒した敵からドロップした魔石腕輪に食わせて順調にパワーアップしてな」

「ねぇ本当に逃げてよかったの!?」

「う、ぐ、ま、まあ今あいつらパーティーに入れるわけにはいかないし? こ、断るにはこれが最善だったからしょうがないし?」

 一瞬後悔しかけたが、それでもあそこで残るという選択肢はなかった、何より今となってはあいつに手助けなどされたくもない。うん、そうだあの選択に何ら問題はなかった。

「それに、そんなまっとうに強くなるような方法じゃ間に合わないしな」

 あの武器も確かに高性能だったがあくまで一般的な価値観で、だ。魔王やそこに至るまでの常識破り共の事を考えると必要というほどでもない。魔石を食わせる方法も長期的に見れば最も効果が出るが即効性がなく、今は役に立たないといっていい。今は前回を超えるためにも迅速に強くなっていきたい。


「そんなこんなであんなザコ武器はいらないという結論が出た」

「あんたがそういうならいいけど……」

「まあまあ、実はあんなのよりよほど強く、今入手できそうな魔石と装備には心当たりがある。前回の記憶でな」

 そう言って俺は指を順番に三本立てた。

「一つ、ある強力なモンスターを倒してその魔石を貰う。

 二つ、とある場所にある魔石を取りに行く。

 三つ、祠や遺跡に眠る秘宝の装備を手に入れる」


 この三つは基本的な強力な装備の入手手段でもある。

「この三つ全部でそこいらのより強力な物がある場所を知っている」

「いやちょっと待ちなさいよ、取りに行けるって言っても一つ目のとかどうするのよ、モンスターの場所知ってても倒せなかったら魔石手に入らないじゃない?」

「流石相棒、ちゃんと分かってるようで何より。一つ目と言わず、なんと三つ全部――死に掛かってもどうにもならない難易度だ」

「ダメじゃん!?」


 非常に残念なことに、そして非常に当たり前なことに……強力な物を手に入れるには、それ相応の実力が求められるというものだった。

「とは言え他に手段も無い。欠片も気が乗らないがこの三つのどれかで行くぞ。一応突破口が無いわけでも……まあうん多分突破口あるはずだから何とかなる……といいね? どれか一つ、特別にハヅキに選ばしてやろう」

「行きたくないわよどれも全部!?」

「なぁに遠慮するな……決して俺は中身知ってて自分じゃどれも選びたくない中身だから無理やり決めてもらおうとなんかしてないぞ……!」

「絶対いーやぁぁあー!!?」

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