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授業の時間

「――それじゃ、いよいよ本格的に魔法の授業と行こうか」

「はい! 待ってました!」


 昼食の後始末を終え、気分もしっかり切り替えて、宣言通りロディに魔法を教える時間とした。

 まずは座学からということで昼食の時のまま、焚火跡(火は昼だし消した)で丸太椅子に座り向き合っていた。

 ハヅキも俺が何を話すのかは気になるそうなので、今は傍で剥いた果物の余りにかじり付いている。


「とりあえずだ、後で揉めても嫌なので、合格の条件をここできっちり発表しとこうと思います」

「うん、ばっちこーい!」


 気合満々といった感じの返事だ。大変よろしい。よろしくない。頼むから達成してくれるなよ。頑張る姿自体はかわいいものだが。


「確認するが、お前に求めるのは死なないこと。敵を倒す術を持っていること。しっかりとついてこれること。いざという時一人で生き残れること。おまけで便利であることだ」

「え、えー……とりあえず、はい!」

「うん、まあ言いたい事は分かる。ので、順に説明してこう」


 この時点でツッコミ所が既にあるようだが、まずは説明を最後まで聞くことにしたようで疑問は一旦飲み込んだ様子。なので説明を再開する。

 まずは一つ目。


「まず死なないこと。シンプルだ、魔物やその他危険に遭遇した時に死なないことだな。一番大事だ。絶対死なれちゃいけないから同行拒否してるんだからな。後で具体的に出すが、主に回避や防御、それに緊急時の対応手段など、危険回避能力を問う項目だな」


 二つ目。


「敵を倒す術。これもシンプルだな。攻撃魔法で敵を倒すだけの火力があること。できれば複数の魔法で。まあ、出来るなら魔法に頼らない手段でも認めるが、二週間じゃ無いだろう」


 三つ目。


「ついてこれること。いや……絶対強行軍になるし、落ち着いて休めないかもしれない訳だからな。まして魔法は体力がごっそり持ってかれる。がっつり戦闘こなしたとしても問題ない程の体力、ないしはそれを補うための手段を身に着けること」


 四つ目。

「一人でも生き残れること……今までの三つを総合して、何かあってはぐれたり単独行動することになっても大丈夫だと思えるほどの強さを持っているかどうか。それとそのための知識が付いているかどうか、だな」


 そして問題の項目。


「で、おまけ。便利であるとなお望ましいなぁって」

「それで便利って何なの!?」

「……俺の適性やスフィアもあって、今の旅は圧倒的不便に見舞われていてな……主に前周比較で。具体的には火も起こすの大変だし水は厳しいし衛生問題大変だし。お前がその辺解決してくれる魔法使えるとかなり助かるなぁ、と」


 スフィアに呪われてるおかげで俺が使えるのは土と若干の水属性の魔法だけ、それもMPも無く何回も使えないときている。


「必須の技能には含めないけど一杯覚えたら、無理して連れてく労力に見合うなっていう判断にするから、多少他の成績におまけしようって訳だ」

「ふむふむ、なるほど。それで、具体的な合格点っていうのは?」

「えーとちょっと待て。概要は後で説明するが」


 立ち上がり、木の棒を拾い地面に文字を刻む。


「まず習得してもらう魔法が攻撃用がコレとコレとコレと……ああアレもか、それとこの辺のと、各属性からは……あと……これも混ぜとけ。それから防御とお得な危機管理ー魔法三種に生存用の便利魔法。そしておまけの生活魔法と」


 ガリガリガリガリ、と木の棒を動かし、ザッ、と最後の一字を書き終えリストアップされた魔法一覧をチェックする。


・攻撃魔法 (合計80点以上取得)

 ――火演舞(火)(必)

 ――灼炎(火)(必)

 ――天焔(火)(必)

 ――インフェルノ(火)(30点)

 ――レヴァニェール(火)(30点)

 ――ニル・ニィア・ベルスィア(1000点)

 ――水流舞(水)(10点)

 ――アクアニードル(水)(20点)

 ――アクアギア(水)(30点)

 ――風弾(風)(10点)

 ――凶風(風)(20点)

 ――グレイブ(土)(10点)

 ――アビスホール(土)(20点)

 ――滅・螺旋塔(土)(60点)

 ――縮・地星の埋葬(土)(160点)

 ――レイ(光)(10点)

 ――フォースセイバー(光)(40点)


・防御魔法

 ――ウォール(土)

 ――バースト・エア(風)

 ――エア・メイル(風)

 ――清流(水)


・緊急回避魔法

 ――ジェット・ステラ(火・風)

 ――土遁・隠行(風・土)

 ――スタングレネード(火・風・光)


・生存魔法

 ――酸素生成(風)

 ――走る囮君(風)

 ――千里眼(多)

 ――エア・メイル(風)


・おまけ

 ――冷水生成

 ――温水生成

 ――着火

 ――豆腐ハウス召喚

 ――洗浄

 ――脱水乾物(※)



「……まぁ、ざっとこんな感じか? 攻撃用はこの中から幾つか、防御や回避は全部覚えてくれ。攻撃魔法につけた点数は強さと使う難易度でつけてみたので目安にしてくれ」

「はいせんせー! この絶対ノリで突っ込んだ1000点なに! あと160点の!」


 おぉー、と魔法の中身が分からないながらも真剣に眺めていたロディさんからノリの良いツッコミが飛んだ。


「ふっ、その反応が欲しくて混ぜた、察しの通りのただのツッコミ待ちの項目……絶対使えない最強魔法だ」

「はい! はい! それ知りたい! せんせー! その魔法教えてほしいせんせー!!」

「人の話聞いてた絶対使えねぇからなお前!?」

「そういうのを知るためにせんせーについて来たんだよ! これを聞かずして! どうするっていうの!」

「うんまあうん、安易に振った俺が悪いな!? はぁ……まぁ別に説明くらいはするがな……」

「やったぁ!」

「けど、160点の方はともかく……1000点のは教えられんぞ」

「何で?」

「俺もよく知らん魔法だからだ」

「えっ?」

「ま、とりあえずこっち来い」


 地面に書いた文字から少し離れ、湖の傍に移動する。

 そう多くは使えないが……幸い水の傍だし、いくつかは実際に使って見せてやろう。

 ……ていうか今どれくらい魔法使えるんだろ俺。

 改めて自分の能力を確かめるためステータスを開く。


「……おや?」



 天海 水星   職業 ディス・フィアの担い手


 力    2406    技    1272

 速さ   6       精神力  3010

 体力   5       運    100

 目安防御値  3



 パラメータ自体は前回見た時のままのようだ。が、『魔力』と書かれていた部分が『精神力』に変わっている。

 ……そういや魔力が分かりにくいから直しやがれって叫んでたっけ……対応したのかサン。なるほど、魔力を作り世界に干渉するのは意志の力、精神力と言えるか。

 っと、今はロディに魔法教えるんだった。それで体力は……5か……


「せんせー! その透明な板何ですか! その腕輪ですか! その腕輪」

「あー、えー、うんそんな大したものじゃないし話逸れるしまたその内な」

「む、そうだね、今は魔法について聞かないとね。うぅ、せんせーの周りには聞かなきゃいけないことが多すぎる……!」

「はいはい。で、リストの話だが、なんか色々書いたがあそこに書いた魔法は大体やってることは同じでな。その属性の魔法を出す、出した魔法を操作するの二つだ」


 腰のスフィアを構え、剣先を湖に触れさせる。

 そこに魔力を込め、水を持ち上げ浮かせ、操る。

 おぉ、とロディの声が上がった。


「後はこうやって、そこにあるものに魔力を流して操作したり、変化を加えたりな。これを行いやすいように、イメージしやすいように一定の動作に名前を付けたのがさっきの魔法群だ。武術の型みたいなもんだな」


 ぐるぐると持ち上げた水を体の周りで振り回す。棒状に伸ばし、三本に分裂させ、幾つもの球状にして、自在に舞わせる。


「これが水流舞……まあ水を操る動き全般の事だな。ああ、名前は主に俺が適当に付けただけだから大した意味はない。水を操作するだけの基本中の基本な魔法だから10点にした。点数が上がるともっと高度な制御や高い精神力を要求する魔法になっている。こんな、風に!」


 舞っていた水を一か所に集め、チャクラムのような薄い円形に変化させる。その水の輪を高速で回転させ、森に向け、放つ。

 放たれた水の輪は、一切動きを緩めず木の枝を幾本も切り落とし、操作がきつくなる距離まで飛んだあと制御から離れて崩れ、ただの水に戻った。


「わ、わぁ……!」

「ぜぇ……はぁ……はぁ……これ、が……30点のアクアギア。水を円形に圧縮し、高速回転、させることで、なんでも切断する、魔法……駄目だ疲れた……」

「せんせー!? 大丈夫!?」

「やっぱり……体力5じゃ……こんな精神力めっちゃ使う火力の高い魔法、一発くらいしか、撃てないか……いいかロディ、これはお前にも言える事だ。魔法はめっちゃ疲れる。直ぐにばてる。今のお前じゃアクアギアなんて発動もできないかもしれない。これは一朝一夕でクリアできるものじゃないからな、何らかの対応策がないと、はぁ、はぁ……こうなるぞ」


 どさりとその場に座り込む。

 いや、本当に疲れた。体中のエネルギーが持ってかれたんじゃないかってくらい疲れた。いや、大げさだが。

 偉そうにロディに言ってる場合じゃないな、対応策が必要なのは俺だよ。


「こういう訳で……160点と1000点の奴なんかは圧倒的に魔力量が足りなくて絶対に使えねぇって話だ」

「せんせーでも30点の魔法でこうなるんだもんね……それはそれとしてっ」

「あーはいはい。160点、『縮・地星の埋葬』は俺の使ってた大技だ。こう、挟み込むように地面を持ち上げてな、圧縮して潰した後に持ち上げて空いた穴にそのまま沈めてくっていう」


 言いながら、両手を手のひらを上にしてくっつけ、パタンと閉じる。

 こうやって土の壁で圧殺する魔法がこれだ。


「魔力っていうのは自分から遠くに行くほど消耗が激しく、操作しにくくなるものでな、この魔法は広範囲の地面そのものを持ち上げる荒業だから、精神力も消費魔力も半端ないんだ。あと、この規模の魔法を使うには土属性との相性が高くないと難しいな。俺だと素でも大丈夫だが、ロディは何か触媒がないと使えないと思う」

「ふんふん、相性のいい精霊は自分を通して会話できるけどそうじゃないのは間を通す物がいると」

「そんな感じ。で、1000点の魔法なんだけど、ごめん、ぶっちゃけよく知らないんだ」

「えっと、どういうこと?」

「ニル・ニィア・ベルスィア、これはお前が一人で作り上げた魔法で、どんな術理で何をやったのかを俺は知らないんだ。使ったのも一回だけで、詳しく聞くこともできなかったからな」

「私が……ぅん? 詳しく聞けなかった? そんなことあるの?」

「ああ、聞く暇がなかった。この魔法を使ったただ一回っていうのは魔王との戦闘中の事だからな」


 ニル・ニィア・ベルスィア――模倣・竜の息吹。そう名付けられた極大魔法。

 凄まじい閃光と熱波が魔王城ごと邪龍をぶっ飛ばした様は、あの戦闘での忘れられない一幕になっている。


「旅の途中ずっと作ろうとしていたんだ、ドラゴンブレスを再現してみたいって。何か一押し足りないって言って未完成の魔法だったんだがな。その時は炎を中心に、光や風も使ってたな。俺も協力はしたが完成系はあいつのイメージにしかないから、大した役には立てなくてな。だが、あの最終決戦の時、邪龍の使ってきたブレスを見て、何かを悟ったらしい。完成したソレは、正に究極と言っていい、格が違う魔法だったよ」

「~~~~~~へぇ…………!」


 未来の自分が、究極の魔法、なんてものに至ったと聞いて本当に嬉しそうに身震いをしている。


「いつか、お前なら必ず到達できる。だが、一級品の装備で身を固めて、過酷な冒険を幾度も経験して邪龍のブレスを間近で見てやっと到達した魔法だ。まずは手の届くところから着実に進んでいこう、ってことで実践授業始めるぞ」

「はい! 頑張ります!」

「さっきも言ったけど攻撃魔法は80点分、防御関連は全部覚えてもらうつもりでいる。まあ多少は無くても何とかなるかもしれないが……余り目こぼしする気は無い。これらの習得が出来た上で、丸一日、魔法を使いこなせるかのテストを行う。そこで戦いながら行軍もこなせる実力がある、と俺に示せたら同行を許可しよう」

「そのテストの基準は?」

「俺の感覚」

「……誤魔化して絶対不合格にとか……しないよね、せんせー?」

「まあ、そう思うよな……とは言ってもこの試験内容あまりいいの思い浮かばなくてな。絶対嘘偽りなく真摯に採点すると……〈幼女の守り手〉にでも誓おうか?」

「あ、じゃあ信じます!」

「いいのか!? 自分で言っておいてだがいいのかそれで!? はぁ……いや、じゃあ、そういうことでいいや……んじゃとりあえず体力尽きるまで炎の操作練習でもしようか。魔力操作のコツやイメージの仕方も出来る限り伝えよう。魔力が作れなくなったら、残りの魔法の説明って事で」

「分かったせんせー!」


 そう言って早速もう手に炎を出すロディ。その炎は小さいが、既に淀みなく安定して炎を生み出せている。

 ……非常に喜べないことだが、何とも教えがいがある生徒だ。



 この日は付きっきりで授業を続け、そして夜中になっても質問攻めから解放されることは無く、ほぼ一日ロディの授業に時間を費やしたのだった。

魔法のリストの部分後で付け足したり変えたりするかもしれません。

と保険を張っておく

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