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これからこーする

「例には挙げたがとりあえず霊峰はなしだな」

「まあ大変そうだけど……なんで?」

「アリアが抜けるわけでもないのにあんなとこに行ってもな……それに」

「あんな奴の住処にー、どうしてわざわざ行かなくちゃー……っ?」

「というわけだ」

「……そういえばそういう仲だったわね」



「狼も気になるがー、やっぱり騎士達の近くはないよなー……」

「私も断固反対するわ」

「んー? 一緒にー、ずぱーってやっちゃえば早」

「はいヴェアヴァルフは放置ね!」



「やっぱりここは一回パラメータ上げるべきだって……」

「しかし何かいい称号あったかな……条件だって碌なもんじゃないし……」



「やはり称号取りつつ他国を目指すか、他国に向かいながら称号を狙うかが基本だな」

「どっちをメインにするかってことね」

「何回も言ってるが片手間で取れるものじゃないからな、称号は……大幅に寄り道してでも取るか、適度に条件狙いながら、進むのを優先するか……」



「もうめんどくさい。決めきれてない選択肢出すからやはりじゃんけんで……!」

「だから考えてー!?」






――――――正午



「……だからアーディアが仲のいいドワーフや亜人連合は無理だな、騎士達もやってきているかもしれない。称号も魔族も……魔族の問題を解決するとは言ったが、そのために必要なのは、他種族の意識の方が大きそうだと思うし、行先としては妥当じゃないと思う。」

「という事は、残ったのは……」

「エルフ・獣牙族・竜人族、だな」

 二時間ほど話し込んだだろうか。

 ついに、この長い議論の決着が見えた。


「エルフはあまり情報がない……人との関係が良くないしな。ただ住んでる森に結構物騒なモンスター地帯があると聞いた気もする。称号狙うならそこだろうか、結構不確定だな。獣牙の国は秘境とか未踏のやばい地帯がかなりあるから、称号も狙っていけると思う。その他の問題が多いが。竜人は……称号になりそうなところは、とりあえず知らんな。まあ知られてないだけで何かしらはあるとは思うが。あんな空気感違う場所で称号が取れないと思えんし。道中も、そんな問題の起きない道のりになりそうかね」

 とりあえず行き先を考え、その途中にある称号獲得ポイント次第で、判断を下そうという事になった。

 結果、残ったのがこの三か所だった。


「先に言っておくが、俺としてはどこも一長一短あり、適度なメリットとデメリットが満ちていて、後は個人の性格次第で決まる場所だろうと思っている」

「どれだけじゃんけんで決めたいのあんたは……!?」

「もう疲れた……どうせどこ行っても問題しかないんだからさっくり決めてしまってもいいんじゃないか?」

「そうやって考えるのをやめたせいで、いつも重要な事見落とすんじゃないの……!? 今回も何か忘れちゃけない大問題抜けてるんじゃないの」

 ……ハヅキの言葉は大変その通りな話だ。確かに、候補を減らせる様な大問題をうっかり見落とすのが俺じゃないだろうか。

 だがしかし、


「安心しろ、ハヅキ。――そもそも他の種族とか全然詳しくないから忘れる以前に何も知らない――!」

「何の安心材料にもならないわよー!?」

「観念して行先を決めようか……!」

「いえ、せめて、もうちょっと話し合いをね……!?」




 結局。

「じゃーんけーん」

「……じゃーんーけーん……」


「「ぽん」」





―――― ―――――― ―――――――――――――――











 何もない、平和な街道をひた歩く。

 グルフディアから真っ直ぐ続く、ミョルディアに向かって。

 というのも、

「それはそれとしてだ、通り道にもなったことだし、少しだけミョルディアに寄ろうと思う」

「へ? えっと、色々と大丈夫なの?」

 色々と。

 例えば騎士に追われてる事、そのせいで人の多い場所というだけで危険な事。今周では会わないようにするといった仲間の一人、魔法使いがいること、など。


「まだヴェアヴァルフの対処とかで騎士たちはミョルディアまでは行けてないはず。少し立ち寄るくらいなら、まあ問題ないだろう。ちょっと無理してでも、一回称号の事とか調べておきたいしな」

 教会にある称号目録は、俺自身が謎の称号ばかり取るのもあって、何回か調べに行ったりはしたが、それでも全部覚えていたりはしない。もう一回、ちゃんと目を通しておきたいと思ったのだ。


「今後人の街に寄れる機会はあるかも分からないかしな……」

「まあそれもそうね……それで、それだけ?」

「……それだけ、とは?」

「他に、理由は?」

「学園の体質とかどうでもいいけどあのガキだけはボコにする」

 ぶっちゃけ、こっちが主目的だった。


「これだからロリコンは……とは思うけどいいんじゃない? 私も聞いててイラっときたし」

「待ちなさい、仲間だった奴が今もゴミみたいな奴に絡まれ、虐げられているのを助けようとするのが一体何がおかしいのですかね」

「そんなおかしな口調になってるってだけで、説得力十分じゃないかしら。あとおかしいなんて言ってないわよ。ただのガイアよね」

 ……もはやガイアが悪口になってませんかハヅキさん?

 あまりにシンプルな回答に何も言えなくなってしまったので、そのまま無言でただ歩き続けた。






「……で、静かになったと思ったらさっきから何やってるの、それ?」

 数時間続いた沈黙は、みょーん、みょーん、と、手で黒いものを伸ばし続ける、俺という不審者に声をかけてしまったハヅキによって破られた。


「何って、見ての通りだろう」

「もしかしたらその通りかもしれないけど、完全に意味が分からないから聞いてるのよ?」

「私としてもー、聞きたいー? マスタぁー、私で何してるのー?」

 私で、とスフィアが言う通り、俺がさっきから弄り回していたのはスフィア――正確に言うと、そのスフィアから魔剣錬成で作り出された、黒い物体だった。

 俺はその形の決まり切ってない魔力体を、ひたすらに、うにょーんと、細く伸ばし続けている所である。

 ちなみに、魔力で操作して形を作れるので、手で伸ばす必要はどこにもない。


「真面目な答えをすると……まあテスト?」

「てすとー?」

「魔剣錬成、魔力で刃を形成して、好きな形状の武器を使用できる……だったっけ。刃とか言ってるけど、鎧にだって出来たし、どこまで自由の利く能力なのかなー、と」

「……で、その行為の意味は?」

「材質としてはどこまで融通利くのかなと思って。見ろよこれ、金属っぽく固い物しか作れないかとも思ったが、鞭みたいにも、糸みたいにも色々応用が効くみたいだ」

 俺は左手に持った黒い塊を目で示す。

 ちょうど大きめの毛糸玉くらいの、丸い塊。そこから二本の黒い線が伸びている。

 片方は、腰に差したスフィアの鍔に。どうも、分離させるのは出来ないらしく、どこかしら本体であるスフィアとつながっていないと駄目みたいだ。

 そしてもう片方。俺がうにょうにょと伸ばしていた部分。俺の手から細く垂れ下がったその黒い線は、俺の歩みに合わせて、糸のようにヒラヒラとなびいていた。


「こんな完全に糸みたいな柔さになるとは驚いた。しかも魔力を通して作り直せば即座に金属の様にも出来る。かなりの便利能力じゃないか?」

「……それで、楽しくなって、ついついやり過ぎたのね?」

「正直無心でぼーっとしていてな……」

 垂れ下がった糸を持っている右手。

 うにょるのが楽しくなって、ひたすら伸ばし続けた黒糸を巻き続けたそれは、左手に持っている塊よりも大きい糸の束になっていた。ちなみに、ちまちま伸ばしてないで左手の塊に魔力を通すことで、一気にばらばらにすることも出来る。手で伸ばした意味は特にない。

 完全にただの暇つぶしだった。


「意味がないだけならいいが伸ばす工程で少しずつ俺のMP減ってくからただ疲れるだけなんだよな……」

「そこまで分かってるなら途中でやめなさいよ!?」

「いや待て。称号で維持するのにMP消費はないのだから、この作った糸の塊は出しっぱなしにしておける訳で、ロープのように使えて便利なものが消費0で使えるんじゃないか?」

「そんな量どこにしまうのよ……それに糸はスフィアから切れないんでしょ? 使うのに邪魔になるだけじゃない?」

「うん、言ってみただけだ……結局魔力で動かすなら結局MP消費するから、そのまま使えるものでもないと、作っておく意味もないな。まあ、発想は言うほど悪くないかもしれないが」

 こんな糸を伸ばすだけでもそこそこのMPを消費したのだ。最初から何らかの形に伸ばして作っておけば、いざという時に役に立つかもしれない。


「剣を振るときに邪魔にならず、普段から使えるもので、持ち運びも簡単な形状のものでもあるかな……」

 言ってはみたが、そんな便利なものがポコポコ思いついたりすれば苦労はない。

 まあ、昨日今日手に入れた剣の能力をいきなり使いこなせる方がおかしいのだし、のんびり考えて行けばいいや。

 そうしてぼんやりと、黒い魔力体をうにょうにょしながら、何事もなく街道を歩き続けた。







―――― ―――――― ―――――――――――――――







「お、見えてきたな……」

 本当に何事もなく、二日程歩いた俺たちの前に、建物の影が見え始めた。 

「へぇ……あれが……あれが?」

 近づくにつれ、見えてきた街の景色。


 魔法都市ミョルディア。

 いかにもファンタジーらしい、石造りの白い建物群。アーディアと同じ様式だが、バタバタしていたので、ハヅキは初めてじっくり見ることになった、大きな人の街。高校生の貧弱なイメージでしかないが、ヨーロッパの国々の街並みとかこんな感じなんだろうなぁ、と思わせる美しい街並み。

 ……に、色々ぶち壊す素敵アートの群れが素敵にひしめく、素敵都市の姿が、ハヅキの前に立ちはだかった。

 まず目立つのが入口。街の雰囲気に全くそぐわない、仄かに発光する謎の文様が刻まれた不気味な、柱状の物体、それが等間隔に街を取り囲んでいる。

 街の中に目を向ければ、見える範囲、どの屋根の上にも何かしらのものが置かれている。彫刻のようなものはまだいいとして、アンテナのような物体や、レンガを積み重ねたようなよく分からないもの、もう表現しようのないメカメカしい何か、等々だ。

 更には、窓から魔法陣のような絵柄が書かれた布を垂らしている家。壁自体に文様の刻んである家。家の前をタルや魔道具らしい謎の小物で埋め尽くしている家。そして各地から上がるカラフルな煙と爆発音。

 道行く人々の服装は異常に高いローブ率でおしゃれも何もあったものではない。偶におしゃれなデザインの服着てるな、と思っても、それも結局ローブをデコレーションしたものだったりする。

 その全てが、優雅な都市デザインと真っ向からぶつかり合い、混沌を生み出していた。


「相変わらず酷い風景だ……」

「なに、あれ? いえ、まあ、ある意味とっても魔法都市らしい外観だと思うけど……」

 街の入り口まで来て、その混沌とした雰囲気に眉をひそめながら、ハヅキが呟いた。

 腰に下げたスフィアからも、興味、驚き、意味不明が1:2:7で構成された「おー……おぉ?」が聞こえた。


「……芸術家の作った謎アート、研究者たちによって作られた魔道具、過去の魔導士たちによって築き上げられた防衛装置……などがそこかしこに複雑に配置され、何とも言えない芸術作品に仕上がったのがこの風貌だ」

「いや、こんな意味不明の空間に芸術とか言われても」

「芸術ってのはそういうものだ。深く考えちゃいけない」

「…………そう」

 俺の発言に、というより完全に投げやりな俺の態度と、目の前の異様な雰囲気に、ハヅキも深くツッコむ気力を失ったようだった。


「まあこんなに酷いのは一部の変人たちが住む区画……特にこの入口近くくらいだ。何故肝心の入り口の通りがこれなのかと、かなりツッコみたいというか最初ツッコんだが。まあ、奥には普通の街並みも広がっている場所もある……逆にもっと酷い場所もあるが。俺たちの目的地は基本もっとましな雰囲気の場所だから安心してほしい」

「あー……そう……」

 ……街に入る前から既にハヅキが疲弊してしまった。

 やっぱり長居するような街じゃないよな……さっさと用事済まして立ち去った方がハヅキの精神衛生にもよさそうな気がする。

 元々軽く寄るだけのつもりだったが、高速でこんな町立ち去ろうと決意を改め、俺たちは足早にミョルディアへと踏み込んだ。

じゃんけんはガイアもハヅキも、チョキとチョキの相子でした。

二人とも、強いて選ぶならここかな、という国を自分の勝った方に選びました。つまり、二人して、別に言うほど行きたくないなぁ、という国に決まったわけです。

何で候補から外さないんだろうこの人……

行先は、そのうち。

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