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魔王を倒したらクリアだと思ってました  作者: アトアル
一章 魔剣があれば楽が出来ると思ってました
2/35

ここまでプロローグ

「……おぉ…天から人が……」

「あれが……勇者……」

「……静まれ……落ち着くのだ……」



 体を包んでいた光が消えていく。

 見えてきたのは大きなホール。

 地球では見れもしないだろう、石造りに赤い装飾の煌びやかな空間。周りには、今の光にざわめく甲冑の列。目の前は何段も段差があり、上からこちらを見下ろすのは、一際豪華な中年。

 俺には最早、馴染みの場所となったアーディア王国……その首都アーディアの、城の玉座の間。

 俺が前の時も、最初に降り立った場所だ。

 そこに今、俺はもう一度、降り立った。

 その景色はおおよそ一年前と、自分を含めて何も変わりなかった。

 ただ一つ――俺の肩に新しく妖精が乗っていることを除けば。


「おお……そなたが神に遣わされた勇者殿だな」

 目の前、やや頭上から威厳に満ちた声音で王が呼びかけてくる。

 ――ちなみに転生したとき、俺の魂は女神の奴に弄られ、この世界の言葉は文字込みで自動翻訳されるようになっている。日本語で書いたり話しているつもりだが、向こうの言語になっているらしい。

 殿、なんて言い回しで呼びかけられたのは、俺の翻訳がそう言う意味だと認識する為らしい。


「そなたのことは天よりのお告げに聞いておった。半信半疑ではあったが、こうして天より現れるとは」

 ああ、何となく記憶にある台詞。だが、俺の抱いた感情は懐かしさとかじゃなく面倒さだ。何せ、この話を聞くのは二回目だから。


 故に、俺はまだ言葉を続けている目の前のおっさんに手を上げ、

「申し遅れたな、我が名はアーディア王国国お――」

「あー、自分そういうあれじゃないんでこれで失礼しますね?」

「え?」「え?」

 驚愕の言葉がおっさんと、そして俺の右肩から上がった。

 その声にうっかり忘れかけていた新しい相棒を、落とさないよう懐に入れ、踵を返し。

 ――全力で広間を駆け抜けた。

 後ろから動揺した騎士の「な!?」とか、国王っぽい声の「貴様、何を!」とか聞こえるけど聞こえなかったということにした。

 城内の構造は勝手知ったるもの。不意打ちのダッシュと合わせ、俺は騎士に止める暇も与えず城を後にした。

「本当に何してんのあんた――――――!?」

 ……説明する暇がなかったので、一緒に混乱したままの妖精の悲鳴をバックに。





「さてっと」

 ふう――と一息つく。走り続け、やっと落ち着ける場所まで到達できた。

 王都の城下町から少し外れた山の中、町を一望出来るちょっとしたお気に入りの場所だ。ここなら人ともそう出会わないだろう。

「う、うう……揺れた……」

 そういって懐からフラフラと飛んで出てきた妖精だったが、おぼつかない感じで揺れていた。走り回った衝撃で酔ってしまったのだろうか。ほぼ初対面だというのに悪いことをした。

 目の前でゆらゆらしてる妖精を改めて見る。

 身長は二十センチくらい。色素の薄い緑髪をポニーテールにして、まとめている。緑を基調とした薄めのワンピースのような服を着て、背中からは4枚のきれいな羽を羽ばたかせている。

 俺が前回の功績を使って得た、旅の共だ。


「そ、それで、話がさっぱりなんだけど聞かせてもらっていい?」

 どうやら回復してきたらしい妖精に尋ねられた。

「うん、そのためにあいつに頼んだんだからな、色々話すことがあるんだが……そもそもまず、お前はどれくらい状況知ってるんだ?」

「えっと…あんたが勇者様? で女神様にサポートするようにって生み出された、のよね?」

「ああ、俺の相談相手が欲しいと思ってな……もしかしてそれくらいか、知ってること?」

「ええ……特に知識とかそういうものは与えられてないわ。あそこで生み出されてから、ちょろっと聞いたのが私の全てよ」

「まじかー……ええとじゃあどこから話したものか……まず、お前の生まれた経緯なんだが」






「もう一度……だと?」

 ひたすらに天も地も真っ黒い空間で、俺は女神の声を聞いていた。

「うむ、もう一度、じゃ。もう一回世界を救いに行って欲しい」

「いや待て、もうどうやっても世界は救えないんじゃなかったのか」

「今回の世界は、の。主が頑張ってくれたおかげでな、世界神から許可を取ることができた。主に限り、わらわの力で時間を戻し、最初からやり直してもよい、という許可をな」

「やり直し…!」

「そうじゃ。今までの戦い、冒険、魔王倒すまでに至った偉業、それらの主が得てきた経験を糧として、主を最初の、アーディアの王城に降りたあの時、あそこにもう一度送り直す。この術に使うのが主の経験故、得てきた力も特殊技能も一切初期値に戻る。持っていけるのは記憶くらいじゃ」

 女神は椅子から降り、こちらの横まで歩いて。

「……酷い頼みをしておるのは分かってる。だが、わらわには他に方法はないのじゃ。頼む、天海水星。もう一度、世界を救ってはもらえないだろうか」

 そういって女神は、さっき止めようとした土下座を、今度は止める暇もなく俺にした。

「酷い頼み、ねぇ」

 言いたいことは分かる。これは世界が救われるまで俺は解放されないということだ。それに実質拒否権もない、頼みを断れば俺は死ぬ未来にしかいないのだから。女神の言いなりになっていいように使われるしかない、というとこでもなくはない。

 だが女神は馬鹿なんだろうか。

「命二回も救ってもらって、更に失敗までやり直させてくれるのに文句もクソもあるわけないだろうに」

 俺は土下座をしてる幼女の脇に手を入れ無理矢理持ち上げる。あ、これたかいたかいの図だ。

「こっちが土下座してもう一回やらせてくださいって頼む方だろうに何してんだ馬鹿。そこは踏ん反り返って『何失敗してんださっさともう一回行きやがれ』って言う場面だよ」

「こ、これ、分かった。わらわが卑屈だった。だからはよう下ろせ、こ、これ! 調子に乗るでないばか!?」

 は は はと、せっかくだからそのまま、たかいたかいで振り回し満足してから椅子に下ろしてやった。



「それじゃあ改めて受けよう。今度こそ、世界を救いに行ってこよう」

「こほん。……うむ、よろしく頼むぞ」

 いくら見た目幼女でも神様、流石に子供扱いは恥ずかしかったのだろう赤く染まった頬を、落ち着けるように幼女は頷いた。

「しかし、それなら、俺はいっそ世界を救うまで何度でも失敗できるのか?」

「今度こそ救いに行くと行ったそばからそれか主よ」

「まあまあちょっとした疑問って奴だって」

 ……本当は正直言って次では無理だろうと思ってる。女神の話せない伏せられた中身。その全てを知るのはきっと、簡単なことではないだろうから。

「まあこのような結末を迎えた主が次の一回で何とか出来るとはわらわも思ってないが」

「自分で分かってても人に言われると腹立つもんだなこれ!」

 どうせ二周程度で終わらないというのは共通見解でしたかははは、くそっ!


「やる気があるようなのはわらわにとっても救いじゃがの。いっそ最後に世界を救ってくれるというならいくらでも、好きなだけ周回してもかまわんぞ?」

「なんと」

「うむ、このやり直しに回数制限はない。じゃが、やり直すには条件があるからの。それが満たせなければそこでおしまいじゃ」

「条件とな」

「さっき言った通り、やり直しには主の経験を使う。その経験が術の発動分に足りなければやり直すことは出来ぬ。あと主が死んでしまった場合も……基本どうにも出来ぬと思え」

「なるほど……」

 世界は滅んでしまったが俺は魔王の討伐は成功していた。そのおかげで経験値が増えこのやり直しに繋がったということか。

 そうか……失敗ではあったが、無駄ではなかったんだな……良かった……最初から道間違えたあげく無駄に世界ごと死んだ勇者とかになった訳じゃなくて良かった……!


「今回は十分じゃったな、随分勇者的に振る舞っておったものな。神の奴も結構認めたようじゃ……ふむ、おかげでやり直しに使っても余るの」

 むむ、となにやら考え込む女神。しかし世界の方も神がいるらしいし神とか女神とか紛らわしいな。

「唐突だけどあんた名前とかないの?」

「……うじゃから……む?何じゃと?」

「いや他にも神様いるらしいし、紛らわしいから名前とかないのかなって」

「ふむ、基本わらわが絶対神という感じで神といえばわらわじゃからな。世界に作った方の神には名前がある故そっちを名前で呼び、わらわは神と呼べばよいのではないかの」

 そうか、確かにこいつが名前を呼ばれる機会とかあり得ないか。他の世界に神がーとかそういうのはこの様子だとないのかな。


「それであやつの名前はの、   ……ええと、   じゃ。……   」

「…………おい?」

「すまんの、非公開情報じゃった…」

「何で!?」

「む、むぅ…………おおそうじゃ! 主よ、わらわに名前を付けてもよいぞ!」

「はい!?」

「うむ、これならわらわを名前で、あやつは神と呼べば解決じゃ。神に名前を付けるなんぞありえぬ機会じゃぞ? 光栄に思い喜べ主よ!」

「いやいやいやいや光栄過ぎるわ神に名前付けるとかどういうハードルだよ無理だろ!?」

 神がどうとか抜きに女の子に名前付けるとか、うん、無理だ。

「何、気にするな。どうせ主くらいしかその名を呼ぶ機会なぞないのじゃ、主が好きなように名付けてよいのじゃぞ!」

「いや、えー……?」

 目の前でなっまえーなっまえーとはしゃぐ幼女。こいつ本当に神か。しかしこの雰囲気、もはや名前を付けないと収まりそうにない。

「はぁ…どんな名前でも文句言うなよ」

「はっは! よい名を期待しておるぞ! 期待しておるからな? 期待しとるのじゃぞ!」

 妙なテンションになりはしゃぐ幼女、若干うざい。もういっそ変な名前でも付けてやろうか。うん、そうしよう。しかしふざけ過ぎても怒られるだろう、それに呼ぶの俺くらいだし、変すぎても困る。そうだな、水星ガイアくらいの変さ加減がいいだろう。くそ、自分で自分の名前を変と認めなきゃいけないとは……! まあ、ずっと変だと思っているが。何が水の星でガイアだ、水星じゃ別の星じゃねーか。マーキュリーじゃねーかもう。そうだ、これだ、いっそこいつにも同じ思いをしてもらおう。とすると……ええと……


「火の星……火星と書いてサン、よし、これだ」

「ッその名前は……クッ、ふふ、そうかそうきたか!」

 どうやら神様にもちゃんと伝わったようだ。サン、太陽の名を付けといて字は火星。日本人が見れば絶対にツッコまれるイタイ名だろう。

「こちらの意図は伝えられたようで何よりだよ。しかし……くっ、異世界の奴にはこの名前の恥ずかしさは伝えきれなかったか……!」

「くっく、まあ似た名前を付けられた仲じゃしの、主が嫌だというなら今後はふるねーむ呼びはやめてやろう。しかし、同じ命名則じゃと兄妹みたいじゃの、いっそお兄ちゃんと呼んでやろうか?」

「お前はこれ以上俺にどんなレッテルを貼る気だ」

「まあそれでじゃがお兄ちゃん」

 聞いてねえ。聞く気ねぇ。知ってたが。


「良い名も貰った事じゃしの、先ほどから考えていたが、もう一度旅立つ主にぼーなすをやろうかとの」

「ボーナスとな?」

「主を送り直しても経験を変換した力が余るのでな、その分で叶えられる範囲で、願いを何か叶えてやれるぞ?」

 なるほど、ゲームクリアの二周目特典のようなものか。

「それは今後も……仮に三周目に入ってしまったときでも貰えるだろうか」

「まあ余っておれば叶えてやるのもやぶさかではない。ただ余剰分もやり直しで一緒に消えるので持ち越しは出来んぞ。毎回しっかり貯めてもらうことになるの。さて、それで何を願う?」

「いきなり言われても悩むな……どれくらい叶えられるんだ?」

「そうじゃの……わらわの感覚で言うと主の経験……功績値とでも呼ぼうかの、今回りせっとした功績値がおおよそ10500ぽいんとくらいかの。やり直しに使うのが10000ぽいんとじゃ」

「500しか余ってねぇっていうか結構ギリギリだな!?」

「加算の条件は特殊での、500でもすごいと思うぞ。このぽいんとも、ほぼ魔王撃破分じゃ」

「差し支えなければ内訳を聞かせてくれませんかねぇ?納得いかねぇ……」

「1000ぽいんとになりますじゃ」

「高ぇし買えねぇしつーかポイント要求!?」

「世界の秘密はそう安くはないと言うことじゃの……ひんとくらいで良ければ100ぽいんとじゃ」

「…………もういいか、聞く。聞いておこう」

「うむ、では100ぽいんとで伝えられる範囲の情報じゃ、100ぽいんとも結構高価じゃ心して聞くがよい」

 サンの空気が少し引き締まった。ポイントまで使ったやり取りの以上神として真面目にやらねばならない仕事ということだろう。


「貢献値には三種類ある。主の冒険で得た能力のりせっと分が一つ、偉業をなした評価分が一つ、そしてえんでぃんぐを迎えた分が一つじゃ」

「最初のは分かりやすいが後の二つ、特にエンディング分って何だそれ?」

「そうじゃのう、どのようにどれくらい世界を救ったか、という感じかのう。今回じゃと魔王を倒したが世界の寿命までは救えなかった、といった感じの評価じゃ。細かい部分は今回の情報外じゃ」

 全然わからん……まあ総合評価みたいなものなのか?

「偉業というのは簡単に言えば称号じゃ」

「うん? 称号ってあれか?」

「あれじゃ」

 この世界ではその人の行いで、神から称号を授かるという話だった。気がつくとステータスに追加されているのだ。


「主の称号は〈幼女の守り手〉じゃったか」

「他にもあったからな!? 変なものだけピックアップすんじゃねぇっていうかこれあんたの仕業だろ絶対!?」

「称号は全部神の奴が管理しておるのじゃ。言いがかりはよしてもらおうかの」

「本当かよ……というか本当に神がくれてたんだな称号」

「本当じゃ。その神に頼んだのはわらわじゃが」

「やっぱ手前ぇじゃねぇかよ!?」

「神も納得したからこそ授けたのじゃし、主の幼女信仰は神をも動かすということじゃの。とまあ称号というのは神も認めた、という分かりやすい偉業というわけじゃ」

「断固として異議を唱える……! 俺が何をした……!」

「幼女を助けまくったじゃろ。そりゃあもう全て完璧に。偉業クラスに無茶までして」

「人として当たり前なことをしただけなのに……!」

「誰がどうみてもそれで納得できる気迫ではなかったのじゃ……まあそれはさておき話せる情報はこんなところじゃ。ぽいんと集めを意識するなら、すてーたすを伸ばし、称号の獲得を意識し、より良く世界を救うということじゃな」

 〈幼女の守り手〉の件は必ず抗議を入れるとして意識を切り替える。100ポイント払った情報だ、大事にしなければいけない。

 100ポイントで貰える情報がこれだ。この話の重要さがポイントの基準になりそうだが。


「400ポイントを情報集めに使っても大したことは聞けそうにないな……」

「わらわもそう思うぞ。情報料は圧倒的に高くなっておる。主が知った事実については、説明も出来るし情報を買うにしても安くなる。自分で頑張ってくれと言うことじゃの。後はそうじゃの、初期の筋力上げてほしいとか、魔法一つくらい覚えておきたいとか、簡単な道具持っていきたいくらいが400で出来る事じゃの。どれも高い効果はあげられんが」

「そうだな……」

 今から行くのは一年前の世界。一度通った旅路。

 もう一度旅をする上で重要な点を考えると何を望むべきか。

「それじゃあ……」








「と、いうわけで、400ポイントで貰ったのがお前という訳だ」

 木の生い茂る山道。俺は身体の調子を確かめながら言った。

 一時間程かけ、大体の事情の説明を混ぜながら、この妖精の生まれを話した。


「うわー、なんか微妙な数字……」

「俺も400がどのくらいかはわからんが……まあ、あのポイントは1ポイントでも結構価値がありそうだし、大分貴重品だろう」

「物扱いなの!?」

 石を拾い適当に森に向けて投げる。八メートルくらい離れた木に当たり、カコンと軽い音を立てて地面に落ちた。

「実にステータス初期値な結果。普通の……普通以下の高校生並の力ってのは懐かしさを覚えるな」

「ちょ、物扱いなのはスルーなのね!?」

「悪い悪い冗談だって。これからの大事なパートナーなんだから」

「ほ、本当なのよね……」

 不審そうにジトっとした視線を向けてくる妖精。うん、大事な第一印象を面白さと一緒に投げ捨ててしまったかもしれない。


「そこはほら、説明の通り。状況はわかった?」

「あんたが勇者で、何か二周目の冒険で、異世界人で死んで生まれ変わってこっちに来た人らしくて、ロリコンで、そのあんたにループの話し相手として女神様に作られた400ポイント妖精、よね?」

「おーけー大体あってる、がちょっと待て一個おかしかったぞ」

「生み出してくれたことは感謝するんだけど……そこまでして話し相手って重要だったの?」

 至極真面目に、ただ単純に他の選択肢もあったんじゃないかと疑問に思っている様子の妖精。その真面目さで、俺の疑問は耳に入らなかったようだ、くっ。

 しかしまあ、そういう時に選択肢を増やすために、相談相手というのが重要だと俺は思った訳だ。


「サンと話してた通り、俺は二周したくらいで世界をちゃんと救えるという気はしていない」

「聞いてただけでも大変そうだものね」

「何が問題なのかすら情報が足りてない。サンは話せないことが多いし、仕方ないが協力は薄い。魔王倒しても駄目だった。こんな状況で一発で正解を探せるわけがないだろ。せっかく周回出来るなんてチートが許されたんだ。じっくり全ての情報を探し出すべきだ、と俺は思う」

「……そうね、使えるものを最大限活用するっていうのは良いと思うわよ、一応」

 何か引っかかる言い方だが、まあいい続けよう。

「そこでだ、俺一人だと見落とす情報とか気づかない事実とかがあると思うんだ。他の人を頼ってもそいつ等はその周の出来事しかわからない。だから俺と一緒にループして記憶を引き継いだ上で相談出来る相手っていうのはとても大事なことだろう――と、言うわけだ」

「おお……私重要ポジションなのね」

「そういうわけだ、よろしく頼むな相棒」

「まっかせてね! ばっちりサポートしてあげるんだから」


 やっと妖精と情報の共有も出来てさあスタートだ、と意気込んだところではたと気が付いた。


「あ、そうだ。お前にも名前がないと不便だな」

「ああ、そうそう、サン様の名前もあんたが付けたんでしょう? 私も付けて貰おうと思ってたのよ。ある意味あんたが親でもあるし」

 妖精からも名付けを期待されていた。これはちゃんとした名前を付けないと。

「そうだなぁ……どんな名前が良いか要望があれば聞くが」

「え、それ本人に聞くの」

「むしろ聞くだろ。本当の子に付けるのとは違ってちゃんと話せるんだ」

 後からこんな名前付けやがってという悲劇は起こしてはいけない。絶対にだ。話し合うだけで回避できるのだ、素晴らしい、しない道理はない。

「それにほら、俺は異世界から来てるわけだしどっちのネーミング取ればいいのかも悩むしさ」

「なるほど。じゃああんたのセンスで適当に! 漢字使ってもカタカナでも何でも良いわ!」

「…………それ何の参考にもならねぇよな!?」

「私はあんたに考えて貰った名前が良いなーって、強いて言えばそれが要望ね」

 く、くそ。俺の気遣いを! 変な名前になって悲しむのはお前なんだぞ! ど、どうなってもしらんからな!? 


「後悔するなよ……」

 ええと、そうだな……俺の相棒なんだし……ガイア、サンと来てるんだから……あれか。

「月からとって……月子? ルナ……クレセント? そうだ髪緑だし緑っぽさも入れて緑の月……緑……はっぱ、葉月? ……ハヅキでいいかなぁ」

「あら、決まったかしら」

「うん、ハヅキでよさそうかな……よし、じゃあお前の名前はハヅキ、で」

「ハヅキ、ね。なんだ、良い名前じゃない、やっぱりあんたに任せて正解じゃない」

「そういう問題ではなくな……まあいいや、気に入ったのならそれで良いんだ」

「うん、気に入ったわ! それじゃあ改めてガイア、これからよろしくね!」

「ああハヅキ、よろしく頼むよ」



 そうして、俺は、まる一周分の冒険を経て、やっと本当のスタートラインに着いたのだった。

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