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続 ガイア・ハヅキの反省そして勉強会 『ディス・フィア』

 呆然とその能力を順番に読み上げる。

 ただ何となくの行動だったが、見えてないだろうスフィアに聞かせる意味もあったかもしれない。断定できないのは、それくらい思考が止まったから。

 最後の行を読み終え、一拍息を整え。


 ツッコむ。



「いや、いやいやいやいやいやおい待て何だこれ」

「むぅー? 何か問題ー?」

「ツッコミ所しかねぇよ!?」

「いや、え、な何? 2000? 3000?」

「お前前回この三分の一以下だっただろ何だこのパラメータ……!」

「前って何ー……私に覚えの無いことで怒鳴られてもー」

 いや、アリアの性能を考えれば、それくらいは予想してしかるべきだった。知らないハヅキはともかく、俺はもっと覚悟しておくんだった。


「じゃあお前にも分かること聞いてやるけど何だこの能力欄、ほぼ呪いじゃねぇか!?」

「すごいでしょー、みんないちコロだよー? 効かなかったのなんてー、マスタぁーだけーだよ?」


 これも前に、一周目の時に見たときには、(覚醒)って付いている能力は無かった。その時でも呪いが三個。やばい剣だと認識したものだ。覚醒してびっくり、倍以上に増えてんじゃねぇか!?

 一応聞いてはいたがさ。敵対心反転させるとか、支配するとか。全部能力扱いで、全部呪いか。ビビるわ。呪いじゃないのは魔剣錬成だけか。……って、


「魔剣言ってんじゃねぇか!?」

「私が言ったんじゃないしーっ。ていうか誰ー? こんなこと言った奴ー……? この腕輪ー? 腕輪なのー? いったい何なのこの腕輪ーっ? 腹立つのに解除できないー……っ」

 独占の呪い。ディス・フィア以外装備出来なくなる。

 ……なるほど、怪訝な顔してた理由がこれか。


「この腕輪は、この世界の創造神が作った腕輪だしな。お前の呪いより、何か強いんだろう、多分」

「うぬぬー……っ」

「……ていうか地味に困るなこの呪い!? 何してくれてんの!?」

 スフィアの性能は攻撃と魔力特化。こんなピーキーな剣を、早さや体力の加護補正無しで扱えと!? ていうか防具も使えねぇ!? 死ぬぞ!?

「いや待て……サンの腕輪は付けられるんだ。ならつまり、俺はこの呪いの穴を付いてパラメータを上げられるんじゃ……」

 そうだ、これこそが勇者にのみ与えられた特権。神様からのチート補正。異世界人万歳……!


「むぅー外せないーっ……仕方ないー……加護は打ち消せてるしー……我慢してあげるー……っ」

 ずっと頑張っていたらしいスフィア。ついに妥協点を見つけ……

「マジで何してくれてんのぉぉおおおお!?」

 急いで俺のパラメータを確認する。




 天海 水星   職業 ディス・フィアの担い手


 力    27→2406    技    771→ 1272

 速さ   11→6       魔力   44 → 3010

 体力   15→5       運    100

 目安防御値  13→3




 腕輪の加護分が、すっぱり消えていた。え? 何この速と体? 防御加護0? 服と筋肉だけだよねこの値?

「おまっ……お前、マジか……!?」

「……? 私がいればー、他にいらないよねー? 私があればー、問題なしー?」

「問題だらけだよ!? お前の能力見て確信したよ! これ持ち主高回転で殺すシステムだよ!?」

 速度・体力・防御と生存性能が一つも上がらない加護。いっぱい付いてるスフィアの呪い。

 独占の呪いで他の一切の装備も外され、防御を上げることも許されず。

 そんな状態で、狂化の呪いで暴走させられ。

 支配の呪いで理性を奪われ。

 反転の呪いで同族を襲い。

 強奪の呪いで、加護も失い少ない体力を吸われ、使われ続けて死に至る。魔剣錬成なんか使われたら一瞬でMP飛ぶだろうし、そうでなくても防御力0だ。死ぬ可能性は非常に高い。

 そして、渇望の呪いにより、死んだその場にいる、今まさに襲っていた同族が、新たな持ち主になるのだろう。


「持ち主が死ぬことで、逆に永遠に続く殺戮地獄……持ち手の命の事は欠片も考えられてねえよ!?」

「私を装備するような人がー、簡単に死ぬ訳無いしー」

「いやいやいやみんな沢山死んでるよな!?」

「んー? 私ー、装備されたのなんてー、初めてだよー?」

「……ああん?」

「私をー、持った人は一杯いたけどー、みんな正気じゃなかったからー、私を装備したのはマスタぁーがー初ー?」


 ……ああ、そう。これまでの持ち主は、むしろお前に装備されてたようなもんなのな。

「だからー、そんなおかしい君がー、死んだりする訳無いー?」

「おかしいってなんだおかしいって!? これでも一般人だよ!」

「……は?」


 ハヅキが真顔で、意味分かんない、と訴えていた。

「いきなり魔剣取りに行くとか言い出す人が何ですって?」

「い、いきなりって言っても俺からしたら一年も冒険した後だし? 結構なベテランだし? ベテラン的に普通の選択だし?」

「封印の対策も呪いの対策もして無かった奴が、ベテランねー……?」

「……結果、何とかなってるし……」

「そんな行き当たりばったりのベテランが何処にいるのよ!? むしろベテランこそあんなアホな真似しないわよ!? ていうかアホじゃなきゃ選べないわよあんなのー!!」



 相当、言いたいことは溜まっていたようで、しばらくの間、ハヅキさんの説教は続いた。





「それで、ガイアがおかしい人だっていうのが分かってくれた所で」

「はい私はおかしかったですスイマセン……」

「結局、何でガイアに呪い効かないの? 既に頭おかしいから?」

「そろそろ泣くぞ……」

「私はもう泣いたわよ!?」

「マジスイマセン……」

 説教に負け、完全にハヅキの方が立場が上だった。


「まあ、頭おかしいからって大丈夫なものでも無いだろうし……無いよな? 何で効かないかは気になるところだよな。そこんところ、呪いの張本人なスフィアさん、見解は?」

「さっぱりー。私がー、聞きたいー?」

 ですよねー。何度もそう言ってるもんな。

 ステータスに出たおかげで呪いについては分かったんだし、真面目に考えてみるか。


「まず……俺が呪いを受け付けない体質とかそう言うことは無いよな。いくつか、呪い防げてないし」

 独占の呪いがモロに効いているのはさっき確認した通りだ。あと、俺の体も好きに使われている。あれは強奪の呪いで、体内のエネルギーを操作されるからだ。これも防げてない。


「種縛の呪いは魔族じゃないから関係ないとして……いやそもそもこの呪い何だ? 魔族の為の剣って言ってなかったか、お前。何で魔族限定の呪い何か付いてんだ? ……それと、力の全てを吸収って、何すんだ?」

 能力欄でもっとも不可解だった一文だ。


「だってー、魔族憎んでる奴らをー、思い知らせてやらなきゃいけないのにー、魔族に持たれてもー、困るしー?」

「……まあ、それはそうだが」

「だからー、魔族が持ったらー、その存在全部を魔力に変えて吸収……」

「そこ装備不可くらいでよかったよな!? どうして跡形もなく消した!?」

「私の力になってるからー、跡は残ってるーよ?」

「そう言う問題じゃなくてな!?」

「魔族の力はー、私の力にー。その私がー、魔族の敵をー滅ぼすー。ばっちりー」

「それでいいのか魔族の為って……!?」

「そしてー、マスタぁーはー、私を使ってくれるって事はー、魔族の敵をー、滅ぼしてくれるんーだよねー?」

「いやちょっと待て誰がそんな物騒な事をするか!?」

「……違うのー?」

「違うよ!? ……いや違わないか?」

「ガイア!? ヒゲの人に恨みがあるからってまさか人間を……!?」

「違うよ!? 何でどいつもこいつも物騒なんだよ落ち着けよ!?」

「だってー、魔族の為にー、使ってくれるってー……嘘ー?」

「世界と全種族救うって俺言わなかったっけ!?」

「? 魔族とー、それ以外の敵種族とでしょー? つまりー、世界を救うって言うのはー、魔族を救って言うことー」

「そんな極端な世界してねぇよ!? そもそも戦争してる訳じゃないんだから敵とかいないし!?」

「……ふぇ?」

 ふぇ、じゃない。


「お前のいた時代じゃないんだ。今この時代じゃ、種族同士での戦争は起きていない」

 ……もっとも、今、起きていないだけで、種族で関係の悪い所もあるし、ちょっとの出来事で容易に起きるが。というか起きる。

「まあ、それでも魔族はほぼ全種族に嫌われてるしな……今回の異変も魔族のせいだろうって決めつけられてた節もあるし」

「やっぱり滅ぼそー?」

「待て結論が早い!?」

「みんないなくなればー、安心ー、平和ー、安全ー」

「それ以外のみんなが平和でも何でもねぇよ!? そんな物理排除以外にも、解決できる手段は色々あると思うんですけどね!?」

「そんなのー、あるのー……?」

「あるよ!? 別に仲良くすりゃいいだけだろうが!?」

「仲……良く……?」


 まるで言葉の意味が分からないと言うように、深く疑問を乗せた声。こいつにとっては、そこまで突拍子もない意見だったか。


「仲良く、だ。全員が仲よきゃ、そもそも誰も倒さなくていいだろ。全種族を、魔族と有効的な関係にする。これでも、魔族の敵は滅びるだろ」

「お、おー、おおー?」

 ……どうにも、仲良く、という概念が理解できないのか、いまいちピンと来てないよな、曖昧な返答しかない。


「俺だって、人間なのにお前と仲良く出来てるだろ。それをみんなもすればいいってことだ」

「おぉー、なるほどー。つまりー、無理言ってるんだねー?」

「よっしどうしてそうなった!?」

「マスタぁーみたいな人がー、二人も三人もいたらー、怖いー……」

「お前本格的に何だと思ってるんだ俺の事!?」

「やっぱりー、滅ぼして回るのがー、一番ー、魔族の為ー」

「ええい……もう面倒くさい……! ああもうじゃあ分かったよ見てろよ、魔族の敵なんて俺が全部無くしてやるよ……!」

「お、おおー? ほんとー?」

「任せろ。ただし俺のやり方でやるから手出し口出しするなよ。それと、時間はかなり掛かるかもしれないから、そこは大目に見てくれ」

「が、ガイア? そんな事、出来るの?」

「魔族と全種族の仲を友好的にするくらい……ま、まあ、なんとかなるだろ……」

「また行き当たりばったり!?」

「ま、まあ元から何とかしたくはあったし、さっき言った通り、敵って言うようなくらい関係が悪い訳じゃないし。きっと大した問題じゃないさ……! たぶん」

「最後!?」

「じゃあ約束ねーマスタぁー? 絶対魔族の敵は滅ぼしてねー?」

「あ? ああ、分かった約束だ」

「嘘だったら魔力全部吸い取るーねー?」

「さらっと脅すなよ!?」


 ま、まあ、約束を守ればいいだけのことだが。それに最悪、俺がもしループの条件を満たして三周目に入れば、この約束もなかったことになる。本当にスフィアに殺されるようなことはないだろう。


 だからまあ……死にはしないだろうし、出来る範囲で頑張ってみよう。これもまた、世界を救う事に繋がるかもしれないしな。





「話が大きくそれたが……反転の呪いも、効く訳無いのは十分に分かったな」

「おもいっきり魔族の味方についたものね……」

「……うん? でも、この、同族を殺害対象と認識する、とかって物騒な呪いは掛かるんじゃないのか?」

 反転の呪いは全部で三項目。その二つ目の部分。


「……まあ確かに人は襲ったが、半分俺じゃないし。それに町でも暴れるようなことはなかったし、おかしな感じもなかったし……何で効いてない?」

「やっぱり人間じゃなかった……?」

「おいやっぱりって何…………人間……同族……?」

「……ガイア? 急に黙って……まさか、本当に……」

「いや違うよ!? 人間だよ!? ……人間だけどー」

 気になるのは、この同族という部分。


「俺と、この世界の人族は……果たして同族なのか?」

「……え?」

「ほら、俺、異世界から来てるわけだし。しかもサンにいじられてるらしいし。もしかして、俺の同族って、この世界にいないんじゃ……」

 ハヅキと話して至った結論、珍獣。

 それがまさか、世界的にもその通りだったら……


「憎むべき対象がいないから、この呪いの掛けようがない?」

「……そんなのあり?」

「いや、でも他に防げてる理由も分からないし……」

 分からないものは他にもある。


「他には渇望と支配と狂化……これも防げてる理由が分からない呪いだな」

「渇望は……別に力欲してないとか?」

「お手軽にパワーアップしたくね? なんてモロに引っかかりそうな馬鹿っぽい理由で、スフィア欲した記憶があるが」

「そうよねー……本当に異世界人には全部効かないとか……一部効いてるんだったわね」

 ううん、と首を捻る俺とハヅキ


「反転は、さっきの仮説が正しいとしても……後の精神に作用しそうな三つは本当に何でだ……」

「私、効いてるところ見たこと無いから知らないんだけど、この呪いって、強いの?」

「あの時に、その場にいた騎士の奴が、うっかり装備して、凶暴化して暴れる事件が起きた」

 懐かしい事件だ。ちょっと俺が魔剣から手を離した間に、ノルグリッドの奴がふらふらと魔剣に近づき、掴んだ瞬間襲い掛かってきた。パーティー全員で何とか取り押さえ、俺が魔剣を取り上げて事なきを得た。俺が大丈夫だったから、呪いとか消えてんのかな? なんて思ったら、そんな事は無かった。


「立派な騎士の中の騎士、みたいなあいつがあの様だったからな……呪いのやばさと、俺が無事な事への疑問を強く認識した。何かしらの理由で無効化出来てないと、俺に防げる理由はない」

「そうは言っても、特に今のあんたなんてほぼ一般人だし、異世界から来たって以外に、この呪い防げそうな事なんて……」

 そこまで言ったハヅキが、突然、何かに気が付いたようで、ハッと顔を上げ、


「……暴走すると幼女が守れないから……!」

「おい待て何だその理屈!?」

「だってガイアだし……えっとじゃあ、真面目な話、〈幼女の守り手〉持ってるから、幼女の為に精神耐性が付いたって事とかは?」

「い、いや、流石にそんな事はないんじゃないのか……?」


 いくら称号とはいえ、アレにそんな効果は書いていないし。そもそもアレだし。あんな称号でそこまでの強い効果が出るなんてっていうか、その理屈は何か嫌だ!?

 だが。ここまで大人しく聞いていたスフィアも、何かに気が付いたようで。


「そういえばー、マスタぁーの精神にはー、一度入ったけどー、そもそもそれがおかしいんだよねー。普通ー、入るまでもなく既に狂ってるからー、干渉し放題だしー。入った後もー、マスタぁーの思考とかー、まるで干渉できなかったー。確かにー、呪いを掛ける事を想定してない種族って言われたらー、納得がいくかもー」

「つまり、やはり俺が異世界人だから、呪いが効かない、と?」

 なんだ、やはり〈幼女の守り手〉なんて関係無いんじゃないか――


「でもー、狂わせるのとかー、誘惑とかー、効いてた筈なんだよねー? ていうかー、今も何となく掛かってる気がするんだよねー? 触れもしないのと違ってー、触ってるのに効いてない感じー? だからー、おかしいなーってー、精神の中に行ったのー」

「……やっぱり効かないのは幼女のせい――」

「いや!? だからあれそんな効果じゃないし!? 幼女の為に発狂しないって何だその字面!? やばいだろ!?」

「〈幼女の守り手〉の時点で元々やばいでしょ」

「俺としてはまずその称号に異議を申し立てたい……!」


 ……こうして、他に理由も思いつかなかったので、精神耐性は、異世界出身だからうまく作用しなかった、ないしは〈幼女の守り手〉のおかげ、ということになった。別に問題がある訳ではないが……微妙に釈然としない。



「そう言えば〈幼女の守り手〉で思い出したけど……」

 職業欄、以前は幼女の守護者とか、盗掘者とか、ふざけた職業にしやがってくれてたが……

「ディス・フィアの担い手、ねぇ?」


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