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魔王を倒したらクリアだと思ってました  作者: アトアル
一章 魔剣があれば楽が出来ると思ってました
15/35

隙間 その世界の外側は

 世界の外。その真っ黒な世界で。

「ぶっ、ックク、ふふはっはははははははは!」

 わらわは、そりゃあもう、大爆笑していた。


「ぁー、やはりあやつは違うの。ふ、ふふっ、いきなり、いきなりこんな事をしだすとはのっ、ふふっ……!」

 眼下、地面に映し出した世界の出来事。

 いやっほーうと、ヤケクソになってゴーレムの波をサーフィンする馬鹿ガイア

 一体何を思って行動すれば、こんな状況に陥れるのじゃ。そもそも主、人間じゃろうに、どうしてディス・フィアとか狙いに来た。魔剣扱いされてる奴じゃぞ。というか、何で持ち出せたのか。あと、わらわのあげた腕輪、そういう使い方する道具じゃないからの? そして何じゃその、さーふぃ、サーフィンってっ、ぶっは! 魔力切れてヤケクソで突っ込みおった!


 その後も、衛兵に襲いかかる様や、無駄にキモイゴーレムと戦う姿を、いぇー! と拍手喝采を送りながら楽しく観戦した。いや、見応えたっぷりじゃったの。

 更にその帰り道で、狼に襲われる一団と出くわすとか、流石は勇者。巻き込まれ力が違う。街道で鎧を作って、意識失うのに全力を尽くした場面は腹がよじれそうじゃった。

 笑いの頂点は騎士を殴り倒したところじゃな、いや、あれは見事過ぎた。ガイアが起きていればどんな顔じゃったか、反応が見たかった気もするの。まあ、起きていれば、ああはならなかったじゃろうが。おかげで、大変面白くなった。意識を失っても笑いを取っていくとは、ああ、本当に飽きぬ男じゃ。



 ……さてと、おおよそ片も付いて、ガイアの奴も起きぬしの。

 映していた風景を切り替える。

 新たに映し出したのは、アーディアの王城。

 ヒゲの小僧……国王がどう動くか。それはガイアの起こした結果でもあり、これからのガイアの行動にも影響が強く出ていく事柄じゃ。ここも、観察すべき、愉快な対象の一つじゃな。



 二周目初日、ガイアが逃げた直後は、そりゃあ慌てておったのぅ……

 まあその混乱、半分はわらわのせいなのじゃが。いや、そうでもないかの……まさか逃げるとか予想外じゃし。あやつは本当にぽんぽん神の予想を超えていくの。大好きじゃ。で、何考えてたんじゃっけ、ああそう、ヒゲ小僧の事じゃった。

 あやつには、信託を与えたのじゃよなぁ、わざわざ世界神の奴にも許可取って。中身のチェック厳しかったの……『今日の昼、そこの広間に、世界救える勇者送るから、人間だし、面倒見てね?』的な感じの中身じゃったか。

 ヒゲの奴、そう聞いていたのに、いきなり逃げ出された日には、そりゃあ焦るじゃろうな。いやはや、すまんかったの、ガイアが周回したら必要のない措置じゃった。じゃが、おかげでとても面白い。もっと焦ってくれ。


 その後は大騒ぎじゃった。とにかく騎士達に周りを捜索させて、ヒゲと大臣達は、何で逃げたのだーとか、あれは本当に勇者なのかー、とか、話し合ってはいたが、答えが出る筈もなく大混乱。実際の所、大した理由もないのにの。大変そうじゃった。

 そんな答えも出ないだろう議論しておったから、探索範囲をアーディアの外に広げる判断も遅れたのじゃろうな。

 その遅れ方も絶妙じゃったのう……見事にガイアと遭遇できるタイミングで派遣するとは。おかげで、騎士はボコられる事になったからのう。見事すぎる。大爆笑じゃった、誉めて使わすぞ?


 まあ、そのことを知って混乱するのは、もう少し後じゃろうが……



 たった今、映し出した王城には、別の混乱が丁度到着したところじゃ。

 外から、城門に駆け寄っていく騎士の集団。ディス・フィアの祠にいた衛兵達じゃった。

 ガイアを眺める傍ら、あやつ等の事はずっと、動向を注目しておった。

 あやつ等は、ガイアがディス・フィアに精神を呑まれて意識の無い時に、体を操ったディス・フィアが勝手にゴーレムを倒していた、その現場を眺めておったからの。その後、すぐさま逃げ出したが。

 その光景はあやつ等の目にどう映ったか。


 玉座の間、二人の人物が向かい合う。

 ヒゲ……王と面会するのは衛兵の隊長。

「そなた等が帰ってくるとは……何事だ……!?」

 まず驚いたのは王の方じゃった。魔剣の監視に当たってる部隊が、血相を変えて帰ってきたとあれば、そりゃあ慌てるの。

 じゃが、本当に驚くのはこれからじゃぞ?


「報告します、魔剣が、魔剣が奪われました!」

「何だと!? 何があった……一体、何者の仕業だ……!?」

「犯人は、少年でした。見た目、十五、六歳程で、とても魔剣なんて奪えそうにない、ただの少年に見えたのですが……見たことのない、黒い髪の色が特徴的でした」

「な…………!?」

 絶句する王。その風貌は、先日逃げられた、勇者そのものじゃからな。心中、ぷっ、察するぞプフッ。勇者だと聞いていた少年が、魔剣を奪っているとか……! 駄目じゃ、ヒゲの顔見てたら、笑いがこみ上げてきた。


「そ、それで……! その、その少年は!?」

「それが……」

 衛兵の隊長は語った。突如として現れたゴーレムの大群。おそらく、祠のトラップだろうそれに襲われた時、急に現れた少年の事を。助けられたかと思えば、急に襲いかかってきた、謎の行動。おそらく、彼に奪われた装備の魔石の事。

「彼の意図は分かりませんでしたが……ただ、彼は、私たちの命は助けたい、ゴーレムの狙いは自分だ、私たちは巻き込まれただけ、と言っていました。ゴーレムの意味を考えると……彼が魔剣を奪いにきたのは確かでしょう。いえ、既にあの時、もう魔剣を持っていたからこそ、あのような事態になったと見るべきでしょうか」


 だが、と衛兵の隊長は続ける。あの時の彼は、まだ普通だった。言動と頭はおかしかったが、少なくとも自分の言葉でしゃべっていたと。

 報告は終盤に差し掛かる。宣言通りにゴーレムを引きつけた少年。その後、二回の爆音と、地響きが起きたこと。問題は、その二回目の衝撃の後だった。周囲の空気が、どこか変わった。その様子のおかしさに、辺りを探り、見た光景を、隊長は語った。


「そこでは、先ほどの少年が、歪な剣を片手に、虚ろな目でゴーレムを切り伏せ続けていたのです……そこには、感情や意志といったものが見えず、ただひたすらに、剣だけを振り続ける人形のようで……まるで別人でした。きっと、あの手に持っていたのが魔剣で、剣に魂を奪われてしまったのです……!」


 わらわは軽く吹き出した。

 そう。そう見えるよな。そう思うよなぁ、やっぱり……!

 まあ事実、あの時は乗っ取られていたしの。普通はそれで済まないのじゃが。封印が解けた時はわらわも焦った。このまま発狂して衰弱死で、終わってしまうかとな。じゃが、ディス・フィアの能力を思い出して、気が付いた。

 ……まさか、ガイアには、ほぼ効かぬとは、盲点じゃったの。

 呪いのことすら知らなかったくせに、あんな呪いの隙間を突いてくるなぞ、奇跡的過ぎる。これもあの、微妙に高い幸運のおかげか? 世界神の奴め、流石に気が付いていたっぽいの。あの助言も、呪いが来るから逃げろではなく、封印が解けるから使いこなせって意味じゃろ、あれ。

 故に、ディス・フィアに認められ、体も返してくれて、問題なかったのじゃが。


 そんな事情を知る由もない衛兵と、その衛兵から報告を聞いたヒゲの国王は、顔面真っ青じゃった。

 特にヒゲ。魔剣が持ち出されただけでも一大事なのに、その犯人が勇者として舞い降りたはずの人物となれば、混乱も極まるじゃろう。もしかしてこれ、遠回しなガイアからの嫌がらせじゃなかろうかの?


 ヒゲも限界だったのじゃろう。直ぐにでも対処に当たるべきじゃろうに、この日は衛兵に、堅く口止めをして下がらせると、自室に引きこもりおった。

 まあ、ディス・フィアの事は、王国の中でも一部の連中しか知らぬし、下手な対応は混乱を招くだけじゃしの。迂闊には動けないと言うのもあるのじゃろうが。対応できる人材も、今直ぐは呼べぬようじゃし。あ、酒かっくらって寝たの。やはり、単に限界か。


 まあ、明日には、もっと面白くなるのじゃがの?



 翌日、早朝。

 街道でガイア……というかディス・フィアにボコられた部隊が城にやっと着いた。

 彼らが持ち帰ったのは、ヴェアヴァルフなんて厄介事と、黒鎧なんて言う更に厄介な人物の話だった。昨日に続いての、更に頭を抱えたくなる案件じゃな。さてさて、一体どんな反応をするのかの?


 ――ヒゲは、限界を超え、感情を無くした虚ろな目で天を仰ぎ、深く溜息を吐き出していた。

 ……完全に魂が抜けておる。無じゃ。感情が一切無い……人って、こんな顔が出来るのじゃな……まだまだ、神でも知らない事が、いっぱいあるものじゃ……


 感慨に耽っていると、ヒゲが再起動し、カッと目に力を込めると玉座から飛び上がり、人を集めに走った。

 主立った大臣や騎士団の隊長達、王国の重鎮達を召集し、告げた。

「実は昨日、王国が密かに封印を守ってきた魔剣が、強奪される事件が起きた」

 魔剣の封印を知るもの、知らないものそれぞれに、別々の衝撃が走った。

 ヒゲは更に告げる。その直後、王都付近で目撃されたヴェアヴァルフ、そこに現れた黒い鎧の人物。


「間違いなく、この黒鎧の人物こそ、魔剣を強奪した犯人……この王城に降り立った、勇者殿だろう」

 ヒゲは、黒鎧が魔剣の持ち主だと断言した。普通に、正体がバレてる。

 そりゃあ、そうじゃろう。ガイアは本当にバカよの。どれだけ顔隠して、魔剣偽装して変装しても、魔剣盗まれた直後にそんな不審者が現れたら、関係無いわけ無いじゃろ? 普通関連付けるて。あと、主の作った鎧と剣、印象悪過ぎるし。何の為に変装したんじゃ。結局魔剣じゃろあれ。形違うとか些細な問題じゃよ? 結局騎士殴り倒してるし、黒髪だってバレた所で何も変わらんかったと思うなぁ、わらわ。そういうあほな所が気に入っているのじゃがな。

 こんな風に、大事件に繋がっていくからの。


 ヒゲは、事件のあらましを語ると、王国の方針としてこう告げた。

「仮に、彼の者が本当に勇者であったとしても、こうとなっては、やむをえまい。魔剣を強奪し、騎士に刃を向ける重罪人として、各国に指名手配する……!」


 やったのガイア! 正式にお尋ね者じゃ!


「魔剣は精神を浸食するおぞましい剣と聞く。勇者も、襲われた騎士の話では会話する理性もあったようだが……その後の行動を見ても、やはり、既に魔剣に意識を汚染されたものと見て掛かるべきだ。皆も、仮に持ち主を押さえられても、魔剣には迂闊に近づいてはならぬ」


 ヒゲは各隊長の顔を順に見て、

「まず、騎士団団長、副団長は第一と第二隊の騎士をまとめ、ヴェアヴァルフの捜索、掃討に当たれ。第四の待機班もこれに加われ。五番隊は、既に各国に出した勇者の件の、伝令・捜索隊を追い、勇者の捜索から指名手配に変わった旨を通達、そのまま各地に留まり、情報を集めよ」


 国内の防衛の為にあり、滅多に国の外には出ないが最強の第一隊。その補佐の第二隊。次いで強い騎士が揃い、遠征に出す時などに使う第三隊。既に伝令に出ていた、雑務を何でもこなす第四隊と、それを追う、同じく何でもやる第五隊。じゃったかの、この国の騎士団。


 呼ばれなかったのは、第三隊。この隊も、本来は伝令に出ていた、

「さて、第三隊隊長」

「……はっ」

「そなたには、改めて……ミョルディアに向かってもらう」

 そう、魔法都市ミョルディアに伝令を出すため、中継地点のグルフディアを目指し……ガイアにボコられた、あの小隊長の部隊じゃった。

「ミョルディアに向かい、情報を伝えると共に……彼の者の消息を追え。探し出し、捕縛せよ」

「はっ!」

「先にも述べた通り、魔剣の呪いは危険だ。故に、対策として、王宮の僧侶を数名付けよう。初代の聖女様の魔法が、唯一の対抗策だったらしい。そなたの隊と併せ、捜索隊を結成して任に当たれ。魔剣を野放しにするわけにはいかぬ。殺害してでも、その脅威を食い止めよ」

「……承知いたしました」

「隊の編成には時間も掛かるな……先にヴェアヴァルフの対応だけはせねばならんか。第五隊は、グルフディアにも伝令と、ヴェアヴァルフに備えて警護隊を出せ。ただ、ヴェアヴァルフの危険もある時に指名手配犯の事まで伝えては混乱も大きいか……事態が解決するまでは、引き続き重要人物とだけしておけ」



 騎士達が慌ただしく散っていく。それぞれの役割を果たす為に。

 その光景を眺めながら、わらわは、口元を、大きく歪ませた。

「……ふ、っふふ、ふふふっ……!」

 笑いが、堪えきれなかった。

 ああ、こんなにもワクワクする事になるとはの……!

 あの第三隊の隊長がガイアを追うという事。予想は出来ていた。その第三隊という、彼の役割は知っていたから。

 それは例えば、世に、魔王なんて存在がいたら、討伐に向かわせる時に、一番適していて。

 例えば、誰か重要な人物を長期間に渡り護衛しなければならない時、一番適していて。


 それは例えば……世界を救う勇者なんて奴がいたら、連れていかせるのに、最も適した男で。

 何の事件も起きなければ、今ガイアの横にいた筈の男。


 騎士・ノルグリッド。

 一周目、ガイアと共に魔王を討ち果たした、かつての仲間の一人。


 その男が今、ガイアを捕らえるために、動き出した。

 予想は出来ていても、いざ目の当たりにすると、結構興奮するものじゃな!


「ああ、ガイアが一体どう対処するのか……今から楽しみでならんの」

 きっと、いや間違いなく面白いことになる。だってガイアじゃもの。一体どんな遭遇を果たすのか。いや、ガイアなら、最後まで出会わずに逃げきるって事もあり得るの? くく、あやつなら、何をしても驚ける自信があるぞ。


「……まあ、どう転んでも、何故か最終的には丸く収まってるのじゃろうがな」

 今回のディス・フィアの件も、微塵も何とかなる気がせんかったのに、結局は死者も出さずに、見事に奪いせしめたからの。どうして毎度あの調子でで何とかなるのか。

 きっと、あやつの起こす事件を、楽しく見守っていられるのは、そういう理由もあるのじゃろう。あやつが、バッドエンドで終わる未来を、想像することが出来ぬ。いや、もうバッドエンド踏んでるが。まだ終わってないしの。うむ、セーフセーフ。これから絶対救ってくれるからの。


「まあ、あやつが、はっぴーえんどにたどり着くのは、一体、いつの事か分からぬがの。今周も、この調子ではどんな結末を迎えるやら」

 こんな事になっているとも知らずに、とても気持ち悪そうに寝てるガイア。



「ふふ、先の予想がさっぱりつかぬの。起きたら、今度は何をしでかしてくれるのか」

 期待を胸に抱きつつ、今は、ゆっくりと休むガイアの寝顔を眺めることにした。

主人公以外で男の名前が出てきたのは初めてでしたね……そういや。


活動報告にも書きましたが、この後は一旦、一章の修正作業をしようと思っています。

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