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魔王を倒したらクリアだと思ってました  作者: アトアル
一章 魔剣があれば楽が出来ると思ってました
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二周目、旅立ち

「脅迫とかしてすいませんでしたぁぁぁああああああ!? あとそんな状態にも関わらす助けてくださってなんか本当に申し訳ありません――――――!」


 ジャパニーズ・DO・GE・ZA。ドアを開けて再び入ってきた宿屋の主人に、最大限の謝意を示すために敢行した、日本人の最終奥義。この世界には無い風習だが、きっと魂で感じてくれる。それがDOGEZA。素晴らしき日本の心。ちなみに横でハヅキもした。脅迫に関しては主犯だしな。俺のせいだが。一番の問題児だったスフィアはベットに放り投げてある。剣だし。しゃべらすわけにもいかないし。くそ。



 土下座の力で許しを勝ち取った俺達は、事情を話すべく、場所を変えて食堂のテーブルで、主人と女将の二人と向き合っていた。ちなみにスフィアはベットに放りっぱなしだ。今いらんし。無いと思うが、しゃべられたら困るし。

 部屋から出て気が付いたが、外は日が高く昇っている。昼過ぎ、二時くらいだった。半日以上倒れていたのかと、そう思ったが、女将が言った。俺は昨日丸一日倒れていたらしい。半日なんてもんじゃなかった。


「自分で言うのもあれですが……よく丸一日も置いてくれましたね……?」

 騎士を殴り倒し、脅迫してここまで来たらしい俺。不審者を通り越して間違いなく犯罪者だろう。この町にも騎士の詰め所はある。突き出されて、牢屋のベットで目覚めても、おかしくは無かっただろう。

 そうしなかったのは、女将とフローネちゃんの言葉が大きかったらしい。

 一日過ごしたが、悪い奴には見えなかったと、女将が。とってもいいお兄ちゃんだったから、早く助けてあげなきゃと、フローネちゃんが。それぞれ言ってくれたと。


 ……それから、意識の無い俺の横で、涙目でぷるぷるしてた妖精を前に、そんなことは出来そうになかったと、そう主人は語った。


 ……改めて、主人と、それからハヅキにお礼を言った。



「それで、ええと……こうなった事情なんですが……」

 さて、事情を話さないと、とは思うが……どうしよう、そのまま説明できるような話じゃない。

 俺は勇者だ、とか言っても頭のおかしい奴だと思われるだろうし、女神様にこの世界に送られたんですよとか、いよいよ精神を疑われる。かといって、そこら辺の事情説明も無しに、騎士に追われる理由を説明するのは……あれ、そもそも全部信じてもらえても、追われる理由おかしくね? 王様から逃げましたとか、普通にアホだった。

 えーと、何て説明すれば……


「……信じて貰えないかもしれませんが……俺は、こことは別の世界から来たんです」


 考えた末に、話した中身はこうだ。



 ――変わった服装と黒髪黒目、これは異世界から来たからなんです。


 ――向こうの世界では死んでしまったのを、この世界の神様が拾ってくれてたんですよ。この妖精は神様が、異世界に一人で困らないようにつけてくれました。


 ――この世界に着くと、そこはなんとアーディアの国王の前で、つい逃げ出してしまったんですが、そのせいで騎士に追われるようになってしまったんです。


 ――そこで着の身着のまま王都を飛び出して、ここに辿り着いたのがこの間のことです。こんな事を言えるわけもなかったので事情を誤魔化しました。


 ――町出た後、道を外れて森に入ったら、丸一日出て来れなくなって、やっと街道に戻ったと思ったら、狼に囲まれた馬車を見つけたんです。


 ――神様から貰った力のおかげで、あの狼くらい、倒せる力が手に入っていたので、助けに入りました。


 ――ただ、騎士達から姿を隠すために、魔法であの鎧を作ったんですが、あの通り、意識も失ってしまう程、消耗が激し過ぎて。それで、焦ってあのような脅迫をしてしまい……本当にすみませんでした。



 最後の言葉と共に、俺は頭を下げた。



 聞き終えた二人。主人は、そう言うことだったか、と頷いており、女将は、なんだい、そうやって困ってたんなら最初っからそう言いなよと、肩をバシバシ叩いてきた。


 妖精、黒髪黒目、変わった服の珍しい存在。更に、俺のような普通の子供が、ヴェアヴァルフを倒したという事実もあり、異世界人ということも、神様のことも、信じてくれたようだ。

 女将に叩かれてるのとは反対の肩、そこに乗って成り行きを見ていたハヅキが、ボソリと言った。


(……詐欺じゃない?)

 失礼な。嘘は何一つ言っていないぞ。ちょっと城から逃げた理由とか、スフィアがあるから、もっと騎士に追われる理由があること伏せただけで。


 話しを受け入れてくれた二人。だが、納得のいかない点が、無かったわけではないようで。

「あの鎧……作ったって言ってたけど、それなら、あんな不気味な風貌にしなくても良かったんじゃ……? ただでさえ騎士様に目を付けられていたのに」

 と、宿屋の主人の疑問。

「あ、ごめん。それ私も気になってた……」

 しかも横から、ハヅキまで賛同した。


 ……言われてみれば。あのデザインは無かったか……?

 ……別に、何か考えとか、こだわりがあってあの形にした訳じゃない。っていうか、考える頭があったら、あのデザインで騎士の前に出ようとは思わなかったかもしれない。ただ、顔も隠れる全身鎧と考えた時に、元の世界で見た、アニメのキャラを参考にしただけなのだ。黒かったし。でもそういえばあいつ、狂戦士のキャラだったっけ……? 

 ……思えば、そんなデザインを参考にした時点で間違っているな。そんなの参考にしたから、見事にバーサクったんじゃないのか。ぐ、もっと親しみの持てる、そこら辺の民家から出てくるような黒騎士をイメージすべきだったか――!?


「……昔、あんな感じの、正体を隠した人を見たことがあって、自分も正体を隠すわけですし、とっさに参考にしたんです」

 とりあえず、そういうことにした。これも、嘘じゃないし……



 さて、事情も分かってくれたから一件落着、と言うわけにはいかなかった。

 この二人が納得してくれても、俺が騎士に追われてる事実は変わらないのだ。

 既に、ヴェアヴァルフの警戒の為に、騎士達が数名、町にやってきているらしい。ついでに、妖精を連れた黒髪の男も探しているとか。事情を聞くまではと、宿屋の主人達が匿ってくれなければ、とっくにお縄に付いていた。


「……これ以上、迷惑も掛けるわけにはいかないし、騎士に見つかるのも時間の問題ですしね、今夜にでもこっそり出ていこうと思います」





 日が落ちるまでは、宿屋に置いてもらうことになった。まだ体力も戻りきってないんだろうから、せめてゆっくり休んで行きな、と女将が。まとめる荷物も無く、外出て、騎士に遭遇してもまずいから買い物にも行けないとなると、特に準備することもなかったので、言われた通り、ゆっくり休むことにした。実際、まだ軽く目眩もしていたし。


 しばらく寝ていると、フローネちゃんが夕食を運んで来てくれた。この後、もう旅立つ事を伝えると、また、もう行っちゃうの? と、少し寂しそうな顔になった。……そこまで懐かれるようなことした覚えもないんだけどな。それとも懐いたのはハヅキにかな? ずっと一緒にいたみたいだし。

 ハヅキと一緒に、近い内に、また必ず顔を出すことを約束して、何とか、また笑顔になってくれた。うん、幼女悲しませたまま旅立つとかありえないしな。約束もしたことだし、たまにはここに寄るようにしよう。



 携帯で時刻を確認。夜十時。街灯もないこの世界じゃ、ほぼ誰も外を歩かず、せいぜい酒場が盛り上がる程度の時間。

 騎士達から隠れて出て行くにはいい時間だろう。

 スフィアを腰に差す。さっそく例の能力で、刀身を覆って鞘のようにしたのだ。


 最後に女将達に挨拶しようとロビーに行くと、主人が、大きな鞄をくれた。

 中身は、旅に必要そうな道具一式に、この世界の服と、顔も隠せそうなローブまで入っていた。

 外に出れない俺の代わりに、準備してくれたらしい。

 何だかんだあったが、命を助けてもらったんだ、これくらいはさせてくれ、との事だった。

 女将からは、サンドイッチの包みが。フローネちゃんが、旅立つと聞いて作ってくれたそうだ。

 何から何まで、本当にお世話になりっぱなしだった。


 この恩は、いつか必ず返そう。いや、既に一回命助けたけど……あれは、こちらがかなり迷惑掛けたからノーカンで。


 最後にもう一度、深く頭を下げて。俺は宿を後にした。







 星と月だけが照らす、真夜中の街道。

 町から少し離れた所で、さっそくもらった道具を広げ、野営を始めていた。

 騎士達から逃げるために、夜中に出発したはいいが、この暗さで進めないのは、俺もそう変わらない。町から離れたのだし、今日はもうここで夜を明かそうとなった。


 焚き火をぼんやり見つめて、思う。

「あー、王城からこっち、ずっとバタバタ流されたが、やっと落ち着いたかな……?」

 騎士から逃げ、旅をしようにも金も能力もなく、魔剣を抜こうとしたらこの騒動。

「言っとくけど、全部自業自得よ……!?」

「おっかしいな……! こんなはずじゃ……!?」


 全部、合理的な判断で旅が楽になるようにと、動いたのだが、騎士からは完全にお尋ね者。手に入れた剣も、

「おかしいのはー、マスタぁーそのものー? 結局マスタぁー、何者ー?」

 どうも、宝石が本体みたいだし、会話がしやすい用に焚き火の前にぶっ刺してある、スフィア。

 しゃべるゆるふわ天然物騒な、謎の魂付きの、マジ魔剣。全然予定と違うものだし、本当にどうしてこうなった。


 魔剣取りに行けば、楽な旅が出来ると思っていたのに。


「何者も何も……普通の人間様だよ……」

「普通の人間様がー、私持てるわけないしー? あと神がどうとか意味分かんない事ー、言ってたようなー?」

「あー……ええとなー」

 どこかげんなりした気分だったが、話さないといけないなとは思っていたし、異世界の事とか、サンの事とか、二周目だとかを、スフィアに話し始める。


 ふと、既視感を覚えた。

 星空を見上げる。こんな夜空の下。異世界について語った記憶。


 ――ああ、最初の旅立ちの時か。

 最初。一周目の、本当に最初の、旅立ちの時。

 あの時いたのは、二人の人間。

 あの時も、騎士と僧侶とこんな風に、ここの街道で焚き火を囲んで、色々聞かれたっけ。


 視線を戻す。

 俺の横をふわりと舞ってるハヅキと、地面に刺さってるスフィア。

 妖精一人と剣一本。

 変わりすぎだろ、状況。


「……マスタぁー? おーいー?」

「ガイア? どうかした? 急にニヤニヤして……壊れた?」

「笑うしかなくなっただけだ。本当にどうしてこうなったんだ」


 一周目とは、全然違う旅立ち。

 やっと始まった二周目の冒険は、その始まりから波乱と混乱しか予感させなかったが、一周回って楽しく思えたので、もう笑って受け入れていくことにした。

やっとこさ一区切りと言ったところでしょうか。

おまけ一話挟んでから、ガイア君とハヅキの勉強会の時間です。

テーマはディスフィアとか魔法とか。

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