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魔王を倒したらクリアだと思ってました  作者: アトアル
一章 魔剣があれば楽が出来ると思ってました
12/35

その時あったらしいこと

 その男達は、絶望の中にいた。

 突如として現れた、巨大な狼の群。

 ヴェアヴァルフ。人の背丈にも届こうかという巨体を持つ、滅多に生まれないはずの魔物。

 行動や習性は狼そのものであるが、体内に魔石を持ち、蓄えられた強大な魔力により強化された身体能力と、その体格から繰り出される一撃は、生半可な装備では鎧ごと粉砕するほどの威力を秘めている。

 防御力も高い。魔力が通されたその毛皮は、攻撃を通すだけでも苦労するだろう。

 一体でも危険な魔物として知られる、その狼が、群をなして現れたのだ。


 馬車は止められ、襲いかかって来る狼達。

 偶然乗り合わせた騎士達が応戦しているが、何十匹もいるヴェアヴァルフ達に、5人で戦うのは無理がある。必死の形相で狼達を凌いでいるが、喰い破られるのも時間の問題、そう、騎士達も、私も、みんな理解していた。

 戦う力のない、一介の宿屋の店主でしかない私は、馬車に隠れ、ただその光景を見ていることしか出来なかった。すぐ側まで迫っている、その死に対して、祈ることしか、出来なかった。


 ……ああフローネ、済まない。父さんは帰れそうにない……

 そんなことを、考えた時だった。

 何か、黒い何かが、騎士と戦っていたヴェアヴァルフの上に飛んできたのは。




 ――その騎士は見ていた。

 視界の端、黒い何かが跳躍したのを。

 それは自分の目の前。牙を剥いて襲いかかろうとしていたヴェアヴァルフの、その頭を踏みつけて着地した。

 着地と同時に、持っていた剣を降り下ろし、下敷きになっていたヴェアヴァルフは絶命した。

 そう、剣を降り下ろした。

 飛んで来た、その何かは、人の形をしていた。

「――――」

 それは、異様な姿だった。


 細身の、長身の、人型。人だと、そう断言できないのは、その人型は、全身を隈なく、真っ黒な鎧で身を包んでいたからだ。

 腕も、足も、胴体も、身を守る全ての物が、この世の物とは思えない漆黒の、甲冑に覆われていた。

 そして頭部も。男か女かも分からない、完全に頭部全体を覆う兜。ただ目の部分であろう辺りに、一本のスリットが入っているだけの、シンプルな兜。

 極め付けは、その剣。

 黒く輝く、両刃の直剣。これもまた、鎧と同じく、漆黒のその刀身。ただ、柄に嵌められた宝石だけが、怪しく、朱に輝いていた。

 その輝きは、見ているだけで恐怖を感じる、不吉さをはらんでいた。

 更には、その全身は、黒い靄のような、謎のオーラで包まれていた。


 新手のリビングアーマー、そう思った。

 こんな不吉な物体が、俺たちと同じ人間だとは、とても思えなかった。





 宿屋の主である男が、ソレが人であると認識するのには、時間が掛かった。

 それは、騎士と違い、馬車の中にいて、距離があったこと。

 全身を立ち上る靄に遮られ、ソレが本当に、黒い何かであるとしか認識できなかったことが理由だった。

 だが、その何かが、音を発したのだ。

「……下がってな……下がっていろ」


 しゃべった。人の言葉を。

 くぐもっていたが、見た目にそぐわない、高い声だ。

 だが、その事を気にしている余裕はなかった。


 黒い鎧が動き出す。ここに来て、やっとあれは、黒い鎧を着た人だと、そう認識できた。


 突然降ってきた黒鎧に、警戒して固まってたヴェアヴァルフ達。そこへ、何の躊躇いも無しに駆けていく黒鎧。

 近くにいた三体のヴェアヴァルフ。黒鎧を危険と判断したのか、一斉に飛びかかっていく。

 危ない――そう思った次の瞬間、狼の首が宙に舞った。 黒鎧は、騎士達が苦戦した、その堅い毛皮を物ともせず、一息で切り裂き、首を跳ねていたのだった。


 呆気にとられる、騎士達と私。

 ヴェアヴァルフ達も、仲間が一瞬でやられたことに、動揺しているようだ。


 次の獲物へと駆け出す黒鎧。

 狙われた狼は、負けじと爪を降り下ろしたが、その腕ごと、一刀の元に切り伏せられた。


 もはや騎士達など襲っている場合ではないと、全てのヴェアヴァルフ達が黒鎧に向かっていく。

 いくら強い黒鎧と言えど、この数は相手に出来ないのか、うまく捌き、避けていくが、次第に追いつめられていく。

 ついには取り囲まれてしまった。

 あれはまずい。騎士達も、助けに入ろうと動き出した。


「危ない! ……来るな!」


 だが、それを制止したのは、黒鎧だった。

 言葉を発しながら、構えを変え、高く剣を構えていた。集まっていく、黒いオーラ。

 只ならぬ気配を感じたのは騎士達も、いや、騎士達の方がより強く、何かを感じ取っただろう。慌てて動きを止めた騎士達。

 その瞬間。



 一閃。世界が黒で分断された。



 黒い閃光が走った。そう感じた。

 思わず目を閉じて、次に開けた時。

 黒鎧の前には、両断された、ヴェアヴァルフの死体だけが、広がっていた。







 呆然とする、騎士達の前に、悠然と歩み出る黒鎧。

「……怪我は?」

 短い問い。声の高い男とも、声の低い女とも取れる、中性的な、高い声。

 見た目も含めて、一切正体が掴めない。命を助けられたとは言え、その不気味さは、拭いようがなかった。


「……いえ、おかげで、あちらの方も守れましたし、我々も無事です。本当に感謝しています」

 彼らの部隊長、そう道中で聞いた男が、進み出て感謝を述べた。

「失礼ですが……あなたは一体……?」

 この場の全員が、一番気になっているだろう事を聞く隊長。目の前の人……人は、その強さも、存在もあまりにも異常だった。

「……ただの通りすがり、だ」

 だが、やはり、この黒鎧は、その風貌通り、正体を明かす気はないのだろう。明らかにはぐらかしたと、そういう返答をした。


「そうですか……いえ、出過ぎたことを聞きました。申し訳ありません」

「……あいつ等は、危険だ。王都に、知らせるべき」

「そうですね……まさか、ヴェアヴァルフがこんな場所に出るなんて……しかも群をなしているなんて初めての事です。もし、近くに巣でも形成されていたら一大事です。直ちに王都に知らせなければ」

 彼らの言うとおり、ヴェアヴァルフの群なんて言うのは、聞いたことのない、異常事態だった。一体でも、恐ろしい程の被害が出る。改めて、あの数のヴェアヴァルフの群に襲われて生きているのは、奇跡としか言いようがない。何者だか知らないが、この黒鎧には感謝しなくてはいけないと、改めて思わされた。その風貌故、少々感謝の念が湧きにくいが。


「……じゃあ、あなた方は、このまま王都へ?」

「いえ、こちらの馬車の持ち主の方はグルフディアに向かう途中でして、我々は同乗していただけですので、ここから歩いて引き返すことにします」

「何を言ってるんです。国の一大事になりかねない大事件じゃないですか。このまま王都までお送りさせてください」

 こんな一大事に、国の騎士に手を貸さないわけにはいくまい。喜んで王都まで引き返そう。

 そう思ったのだが。


「……それは困る」

 黒鎧が、口を挟んできた。

「訳あって、私をグルフディアまで運んでもらいたいの、だ。馬車には、このままグルフディアに向かってもらえないか」

 そう、頼んできた。


 命の恩人でもあるから、頼みを聞くのはいいのだが……正直、この黒鎧は何を目的にしているのかよく分からない。素直にハイとは答え難い、嫌な雰囲気が漂っていた。それに、王都に騎士を乗せていくとも言ったばかりだ。

 答えに困り、騎士の方へ視線を送る。

「我々はそれでもかまわないですが……そうだ、こちらからも数名、一緒に乗せていってもらえませんか? 元々、我々もグルフディアに行くところだったのです。王都への連絡も、3人もいれば十分でしょうし」

 私の懸念の意図を組んだのか、騎士を同行させると言う隊長。この黒鎧が、私に危害を加えると思っているわけでは無いが、それでも、これと二人っきりで馬車に乗るは、少し遠慮したかったので、ありがたい申し出だった。

 だが、これにも黒鎧は異を唱えた。


「……しかし、また先ほどの狼に襲われては、まずいのでは? ここは、五人で、向かうべきだ」

「それは、馬車が襲われても同じ事では?」

「こちらには、私がいる。問題無い」

「……それに、我々では正直、あの襲撃にあえば何人でも歯が立たないでしょう。分散すれば、片方は情報を伝えられます」

「それも、私がグルフディアに伝えておこう。五人で向かった方が、伝わる可能性も高いだろう」


 言っている事は、間違ってはいないのだが。その態度は、どこか少し妙だった。まるで、

「まるで……我々がついていくと困ることでもあるかのような態度ですね?」

「………………」

 黒鎧は、答えない。

「我々の命を救ってくれた貴方を変に疑いたくはないのですが……それでも貴方は怪しすぎる。貴方は何を――グガッ!?」

 突如、黒鎧が騎士の隊長に向かって、見事一撃を見舞った。

 頭を剣で殴られ、崩れ落ちる隊長。

「は、はぁ!?」

 こぼれた声は誰の物か。何か、黒鎧から聞こえた気もするが。気のせいか。


 突然の暴挙に、反応できなかった騎士達。

 その一瞬の隙に、更に二度剣が閃き、併せて三人の騎士が倒れ伏した。

「き、貴様何を!?」

 残った騎士が剣を抜き、叫ぶも、勝ち目がないのは目に見えている。完全に及び腰だった。

 黒鎧は、じっと動かず、なにやらモゴモゴしていたが、やがて、ゆっくりと、こう告げた。


「…………貴方達は、そいつらを連れて帰らせるために残した。全員で、こんな所に倒れ伏したくなかったら、さっさとそいつらを担いで帰れ。血の臭いに釣られた、他の獣に襲われる前に、な」

「な……!?」

「そして貴方、申し訳ないが、同じ目に遭いたくなかったら、さっさと馬車を出せ」

 剣がこちらに向く。

 私に拒否権はない。あの狼を瞬殺するような存在に、刃向かおうと思う気はこれっぽっちもなかった。

 残った騎士二人も、抵抗してもどうにもならないのは分かっているのだろう。悔しげに睨んではいるが、それ以上に何かをする気はないようだ。


 黒鎧が馬車に乗り込む。

 私は言われるがままに、御者台に乗り、馬車を出発させた。












 グルフディア、宿屋の一室。

「そうして私は街道を走りここまで……」

 フローネちゃんと入れ替わりに入ってきた、事件の当事者、宿屋の主から聞いた、事件のあらましが以上だった。



 俺は、話の途中から頭を抱えていた。



 ――あいつ等、何してくれてんの……!?

次回、黒鎧サイド。黒鎧、一体何者なんだー(言いたかっただけ)。

そろそろキリもいいので一章完結として、幕間にちょっと説明すっ飛ばしたかなって感じの所に補足入れる説明回でも予定してます。魔法とか、パラメータとか、ハヅキとか? 書いていると、読み手が分からないだろう部分が分からなかったりするので、もし何かありましたら、言ってくださるとありがたい、です。

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