冒険者
「いっつ……」
体につけられた傷は七戸を苦しめ続け、数日間洞穴から出ることができずにいた。
さらに食べ物の貯蓄は底をつき、貯めていた水もなくなって空腹が七戸へ追い討ちを掛ける。
不幸中の幸いというべきか死闘のあと、バクーレンは七戸の前に姿を見せなくなったほか、洞穴に他の野獣がやってくることはなかった。
それはきっとバクーレンがこの森の頂点で、ここの洞穴は元々バクーレンの住処だったのだろう。
実際バクーレンはこの森の野獣の中では他とは比べ物にならないぐらいの強者だった。
そのおかげで野獣の襲撃を恐ることなく回復に徹する事ができ、十分に動けるようになっている。
相変わらず空腹は体の動きを制限するがバクーレン程の相手でなければ苦戦することなどまずないといっていい七戸は洞穴からでて森の中へ歩きでるのだった。
途中木の実がなっている木を見つけ、それをかじりつきながら歩いていた。
空になっている胃の中へ急に食べ物を入れたことにより胃が驚いたようにキュルキュルと鳴る。
それが七戸を至福の時を与える。
「食べることはこんなに素晴らしいことなんだな」
満足げにそう呟きつつ、まだ何かないかなと辺りを見渡した時ある異変に気づく。
所々で感じる野獣の気配が皆同じ場所へ向かっているのだ。こんなことは今まで一度もなく、異様に嫌な予感がしてその野獣が向かっている方へ駆けた。
少し食事を行い体力が回復していた七戸は木や草むらを掻き分け走っていると高さ180cm程の二足歩行の生き物とぶつかる。
森の中の動物に二足歩行のものはそう多くない、その生き物を見る。
それは前世でいやほど見慣れた生き物、
人間だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
冒険者のダルクは仲間のクラウス、ベルンハルト、ハラルドの4人は怪我を負っている女性リナを馬に乗せて森の中を歩いていた。
元々ダルクたちはクラウス、ベルンハルトの三人のパーティーだったが途中ハラルドとリナのパーティーがリナの足の怪我を理由に合流をした。
本当ならばすでに森を通り抜け目的の街へついている頃なのだが怪我人が一緒なので遅れてしまっている。
ダルクは悩んだ。
ダルク自体は気にしてはいなかったが他のクラウスとベルンハルトは遅れていることが嫌なのか近道を使おうと提案してきたのだ。
近道としての道は確かにある、しかしその周辺の森のモンスターたちは凶暴性が高く、レベルほかとは比べ物にならないぐらい高い。
正規ルートで見かけるのはせいぜいホーンラビットなどのDクラスのモンスターだけなのだが近道を使うと見かけるモンスターはCランク程度まで跳ね上がる。
ただし、個体数はそこまで多いわけではなく遭遇する確率もそう高くない。
それにダルク、クラウス、ベルンハルトは冒険者の中でも中堅程度実力で平均レベルは70、突破することは難しいことではないが今はけが人がいることを考慮しなくてはならない。
リーダーのダルクは悩み、これ以上二人にも負担をかけさせるわけにはいかないと近道を使うと言う結論に至ってしまった。
「くっ……こんなはずでは……」
10体ほどのモンスターに囲まれダルクは一人で剣を振るっている。
いくらダルクが強かろうと数の前には無力であり、体には無数の傷ができて血だかけになり、片目も血でふさがってしまっている。
すでに立っているだけで精一杯のはずなのだが、冒険者としての維持なのか、それとも見ず知らずの女性を守るためなのか決して倒れることなく剣を手放さなかった。
もうこの場にクラウス、ベルンハルト、ハラルドはいない。
クラウスとベルンハルトはダルクを、ハラルドはリナを見捨てて逃げてしまったのだ。
リナは怪我で動けず、連れのハラルドに見捨てられたことで涙を浮かべすすり泣いている。
ダルクはリナを背中に回し剣を構えるが足はおぼつき始め体はかすかに痙攣を始めている。
「申し訳ないが私はあなたを守ることはできないようだ、この馬に乗って今来た道を急いで戻り逃げてください」
「そ、そんな……できません。あなたはどうするのですか」
「ただ逃げるだけでは追いつかれてしまうでしょう、誰かが囮にならなくては切り抜けれませんよ」
「……どうして見ず知らずの私にそこまで 」
「私には体を張って戦うことしか能がありません。冒険者とはそういうものです。だからこんなピンチでも冒険者として貫き通したい、これが私の信念……いやワガママなのかもしれませんね」
「……」
弱々しく会話するダルクとリナへオークが棍棒を振るう。
ブウゥン!
剛腕によって振るわれ棍棒空気をならす。
ダルクはそれを両手で剣を掴んで受けるが足は地面から離れ空中へ投げ出されて2回転ほどして地面に落ちる。
「きゃああああ!」
リナが悲鳴をあげ、馬から降りて足をかばいながら駆け寄った。
しかしダルクはそれでも折れなかった、剣を地面に突き刺し立ち上がる。
「なん……で、逃げないん……ですか?」
「あなたを置いて私一人で逃げることはできません……」
「まったく……強情ですね……」
そう言うと二人は微笑みあった。
オークのほかに虎のようなモンスター、狼のようなモンスターが一斉に止めを刺そうと向かってくる。
リナは諦めたかのように目を閉じ、ダルクはリナを守ろうと前へ進み出る。
ドゴォン!
鈍い音が響き目の前にいたモンスターたちの数体が吹き飛ばされた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まだ少し人間が怖い、前世の記憶がフラッシュバックする。
すべてを奪われ、途方に暮れた自分とは対照的な冒険者であろう男と怪我をしている女のやりとりを見て、羨ましく思えた。
助け合い、この絶望しか見えないだろう状況で笑い合えたのだ。
前世でこのようなことをしてくれる人、もしくはしてあげられるような行動をすればなにか変わったかもしれない。
「あんな微笑ましい光景を見せられて黙っていられるわけないよな」
身を潜めていた木の陰から出て、冒険者の男へ視線を向けてこちらに気づきもしない間抜けな野獣どもを蹴り飛ばす。
目はバクーレンの時と同じように光をさしていた。
「僕が相手してやるよ」
そう言うと野獣の集団に対し挑発するするように手招きをした。
お読みいただきありがとうございました。
次の話は私の勝手な都合によりすぐに投稿できない状況になってしまいました。体調を崩し、倒れてしまいました。
申し訳ありません。