【○月×日金曜日 23:19】
【○月×日金曜日 23:19】
「俺、谷山さんの事が好きなんだけど・・・・」
社内一イケメンで、女子社員なら知らない人はいない同僚に告白された。
告白予想外だった・・・、いや、予想はしていたけど・・・それを裏切られてからの告白。
あぁ・・・あれですね。ライオンが子供を崖から突き落す的な・・・なんか違うな。
目の前では、少し緊張した様子の神山くんが真剣に私を見つめてくれていたのに、私の脳内は予想外な彼の行動にパニックで、いろんな思考が巡っていた。
「よかったら、付き合ってくれないかな?」
私の前まで歩み寄ってきた彼に、 私は、とりあえず鉄仮面を投げ捨てていた顔を急いで整え頬を赤らめた。
「えっと・・・」
「急だったから、返事は急がなくていいから。気持ちの整理がついたら、返事貰えるかな?」
本当に、少女マンガの主人公が恋する相手の様な模範的な台詞。どんな台詞でもイケメンが言うと全て腰にくる。
とりあえず、冷静に考えてみよう。
今日は、上下お揃いの下着だしそこは問題ない。
神山くんが好きかと聞かれれば、ものの数時間前まで恋愛対象とも思っていなかったけど、よくよく考えれば恋愛対象ドストライクだし、こんないい物件は滅多にないからお付き合いするのも問題ない。
優しいし、イケメン、仕事もできる、好きになるのも時間の問題だと思う。今まで付き合ってきた男性の中でも一番いい条件だと思う。でも、”付き合います”と返事をする前に確かめておかないといけない事が一つある。
つまり、体の相性。
どんなにイケメンで紳士でも、ベッドに入れば豹変する事だってある。狼だと思っていた男が、マグロだった時には、縛って目隠しして、ホテルに放置して帰ってやろうかと思ったものだ。
どんなに素敵な人でも、どんなに性格の相性がよくても、体の相性がよくないと恋愛なんて続くものじゃない。それが、今まで付き合ってきた中で私が学んだことだった。
私は、意を決して軽く深呼吸をして神山くんに切り出した。
「私も・・・神山くんの事が気になっていたから嬉しい・・・」
一歩、神山くんに歩み寄り彼の手をとった。指先に感じる彼のふっくらとした甲の血管。
とても、美味しそうで心が躍る。
「谷山・・・さん」
こういう紳士は、深夜に女性の部屋には上がらないというスペックが備わっている。素直に部屋に誘っても上がってくれないはず。でも、ここで逃がすわけにはいかない。
「あのね・・・少し言いにくいんだけど、靴擦れして階段のぼるのが辛いから・・・部屋まで送ってもらっていいかな?」
送られ狼を舐めたらいけない。腐女子は、無駄に男心は分かっている。好きな女性に頼られて断れる男なんていない。
「分かった。ごめんな、足痛いの気づかなくて・・・」
「こっちこそゴメンね。酔っぱらってたから歩き方・・可笑しかったのかな?」
笑う私の手を引きよせ、神山くんは顔を寄せた。
「怖かったらごめん。ちゃんとつかまって」
手を貸してくれると思っていた神山くんは、軽々と私をお姫様抱っこして歩きだす。
小さな悲鳴をあげた私に、微笑み「怖かった?」と囁いた。その囁きのトーンは「愛してる」という時と同じトーンの声に、私の顔はみるみる間に赤く染まってしまう。
無駄にドキドキと五月蠅い心臓が彼に伝わるんじゃないかと思ってしまう。私は、慌てて彼の方に手をかけ、小さく首を振った。
(怖いのは、私の予想を上回る神山くんのイケメン過ぎる行動です!!)
部屋に連れこんで、襲う予定なのに・・・こうして彼の腕の中にいると、そんな事がどうでもいい事に想えてしまう。
送られ狼の牙を抜く神山くんのイケメンスペックの真髄を、この時の私はまだ知らなかった・・・・。