【○月×日金曜日 23:04】
【○月×日金曜日 23:04】
街の灯りもまばらになり始める時間。神山くんと他愛もない話をしながら家路についた。
といっても、何を話していたかあまり記憶にない。
”誤解されてもいい”からの”谷山さんは、可愛いよ”は、私の中で、告白のフラグが立っていたから。でも、神山くんに気に入られるほど会社で話した記憶はないし・・・。一目ぼれしてもらえるほど、美人でもない。そんな事ばかり、ぐるぐると考えていたら気がつけば、家の前に着いていた。
「神山くん、ありがとう。私の家ここだから」
一人暮らし用のマンションを指さした。だいたい、一人ぐらしだと知ると「まだ帰りたくない」とか「トイレを貸して」と家に入り込んでくる男が多かったけど、そういうのに限って体の相性はよくないと相場は決まっていた。
「へー。ここなんだ」
「うん。遠いのにありがとうね」
「気にしないでいいから」
そう言って、神山くんは名残惜しそうに繋いでいた手を離した。ひんやりとした夜風が手のひらを滑る。離れたばかりの手が、神山くんの温もりを恋しがっていた。
「谷山さん・・・・」
神山くんが、優しい声を私の名前を呼ぶ。
心の中で「きたーーーーーー!!!」と叫びながら、可愛さを全開にアピールして小首を傾げ彼を見上げた。
真っ直ぐ私を見つめる瞳が、微かに熱を帯びている。ゴキュと唾を飲みこんだのを気づかれない様に、私は笑顔を作る。
「なに?」
体中が心臓になったように、心音がやけに響く。告白からの部屋になだれ込み?今日は、部屋片付いていたかな?
「心配だから、先にマンションにはいって。俺、見届けたら帰るから」
「(ん?)」
(ぬわーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)
告白じゃないのか!!?こっちは、今日履いてる下着まで心配したっというのに。さっきまでドキドキしていたイケメン顔さえ、今は憎らしくみえる。
「はは、神山くんって本当に優しいね。今日は本当にありがとう。気を付けてね」
「そんな事ないって、谷山さんにだけだよ。じゃ、月曜日に」
谷山さんにだけ・・・どれだけ期待を持たすつもりだ。その気もないのに。無駄に期待して立てたフラグは、彼によって蹴り倒されたのだ。この場合、期待を持たせた彼が悪いのか期待をしてしまった私が悪いのか・・・・。
あくまでも、笑顔の鉄仮面は崩さないまま、心の中で舌打ちをして、さっきまで繋いでいた手を左右に振り彼に背を向けた。
「あのさ、谷山さん」
呼ばれて振り向いた刹那、彼は既に蹴りおったフラグをもう一度たてた。
「俺、谷山さんの事が好きなんだけど・・・・」
彼に背を向けた途端、脱ぎ捨てていた鉄仮面。イケメン紳士に告白されるという素敵なワンシーンなのに、私はきっと酷い顔をしていたと思う。
どうせなら、下着の色を心配していた時に言って欲しかったよ・・・神山くん。