【○月×日金曜日 22:27】
【○月×日金曜日 22:27】
カタンコトンと電車が揺れる心地よいリズムと同調するように、私の心臓もリズムを打っていた。
吊革に掴まり、時折私を気にするように神山くんは視線を落とし”大丈夫?”と気づかってくれる。繋がれたままの手がとてももどかしい。
(神山くんは、どういうつもりで手を繋いだままなんだろう)
脳内でぐるぐると思考が巡る。大して意味なんてないのかもしれない。本気で、同僚が酔っぱらって危なっかしいから手を繋いでる・・・とか。漫画やアニメのカップリングの先読みなら得意なのに、この場合の先読みは全くできない。
(家まで送ると言ってるけど、まさか送り狼になるつもりでは!!?)
ふっと、そんな事を思って神山くんを見上げてみるも、彼は涼しげな顔で広告に視線を向けていた。
爽やかイケメンが、送り狼ってそれはそれで、ギャップ萌えだなと心の中でニタニタ笑っていると、思わず口元が緩んだ。軽く咳払いをして、顔を整える。ガラスに映る私たちの姿は、まるで・・・
「カップルに見えるかな?」
「え?」
私の心を読んだ様に、神山くんが言葉を紡いだ。ガラス越しに、彼と視線が重なる。
「俺たち、周りからみたらカップルにみえるかもね」
「はは。手繋いでるし、そう見えるかもしれないね。あっ!神山くん知り合いにあったら勘違いされちゃうよ。手、離さなくて大丈夫?」
私の問いかけに、ガラス越しに重なっていた視線が反らされてしまった。
(やっぱり誤解されるの嫌だよね)
自分で言ったものの、微かに彼からの好意を感じていたから、胸が痛い。
「ごめん。手離すね」
彼の手からすり抜けようと手を動かした時、神山くんはそれを拒む様に私を手ごと自分の方へと引き寄せた。
驚く私の目の前には、神山くんの胸板。黒に近い紺色のスーツから、居酒屋の残り香か微かに煙草の香りがした。
「谷山さん」
耳元で聞こえる低く囁くような彼の声。その声色から、色香を感じ体の芯がゾクリと震えた。
「俺は、勘違いされてもいいよ」
「!!!」
甘く甘美な麻薬のように、私の脳を痺れさす。
それって!誤解されてもいいって事ですか?ってか・・・私にここで爆死しろっと!!
目の前に居るのは、社内一イケメンで紳士の神山くんですよね?
私の目の前にいるのは、有名なホストクラブのナンバー1じゃないですよね?
混乱する私は、少し照れたように頬を染めた神山くんの姿を見逃していた。