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~九十七の巻~ ときめき

 「漸く捕まえましたよ、私の姫君、此れで貴女は私の妃です。」


皇子様は、そう仰られてにっこりと笑んでいらっしゃる。


「えっ、あの・・・?」


私が戸惑うて皇子様と手元を交互に何度も見比べておると、


「あはははは、引っ掛かりましたね、其の様に凄き玉が有るのなら、私も見てみたいですよ。」


「はっ?」


「確かに其の勾玉は、古より受け継がれし大切な玉だと母上から伺っておりますが、残念ながら、其の様に凄き力はございませんのでご安心を。」


とまだ笑われておる。


又からかわれたと解り、私は悔しうて、思い切り手を振り解こうとしたのだが、皇子様には其の様な私の行動など想定していらしたのか、がっちりと両手で私の手を包み込むと、


「漸く捕まえたのです、離して差し上げる訳には参りませんね、貴女が承諾してくださる迄。」


「み、皇子様、ひ、卑怯です、こ、此れではまるで、騙し討ちでござります。」


私が皇子様を睨むと、


「私は酷い男だと、先程教えて差し上げたじゃありませんか?其れなのにまだ騙される貴女は、全く酷い女子(おなご)ではありませんよ、貴女が酷い女子(おなご)なら都中の女は酷い女でしょう。」


「いい加減諦めて、私の妃になると申してくださりませんか?」


手が怠くなって参りましたが・・・。


冗談混じりに茶化して、私の心を解きほぐそうとしてくださる皇子様に、


私は・・・、


「は・・い、」


不束者(ふつつかもの)で・・ござりまするが・・・、どうぞ・・宜しく、お願い・・致します。」


と、頭を下げた。


すると・・・、


「お顔を上げてください。」


と申されるので、顔を上げると、


(チュッ!)


「えっ?えっ?」


私は驚いて唇に思わず手を当てると、


「誓いのくちづけです、此れで漸く婚約は成立です。」


「どうやら非常に残念ですが、初めてという訳では無さそうですね、まぁ其れは致し方ありませんか、斯様に可愛らしい方と長きに渡りご一緒に過ごして何もせずにおられる男など、もし居りましたら、逆に会うてみたいですし・・・。」


「み、皇子様!!!」


私が真っ赤になって抗議の声を上げると、


皇子様は大人の余裕でにっこりと微笑んで、動揺する私を見ていらっしゃる。


「然れど其のご反応から推察致しますと、この続きはまだご存知無きご様子、青馬殿の忍耐力に感謝せねばなりませんね。」


「つづ・・・?」


「皇子様!!!」


私は、美しく聡明で、其れでいて子供の様に無邪気なこの御方に、此れからも翻弄されてゆくのだろう。


まるで己の未来を垣間見た様な気がした。


然れど不思議な事に、其の様な未来を想像しても、全く不安を感じる事は無かった。


寧ろ、ドキドキ、ドキドキ、急に鼓動が速くなり、私の心は何故かざわざわと色めきたち、ときめくのだった・・・。


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