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~九十五の巻~ 求婚

 「あはははは、先程から何度も申し上げておるでしょう、貴女のお考えになられておられる事は、直ぐに分かりますと。」


「貴女の可愛らしいお顔に書いてありますから。」


「はっ?」


私が驚いて頬に手をあてると、


「あはははは、ああ、やはり・・・、私は貴女しか欲しくありません。」


そう仰って、お腹に手をあてて、体を折って大笑いされていらっしゃる。


からかわれたと解り、頬がかあっと火照るのを感じて両手で頬を隠した。


そう言えば、セイにもよくからかわれていた事を、ふと思い出した。


私はからかい易い女子なのだろうか?


「幾度でも申し上げますが、私は貴女しか妃に望んでおりません、ですから、貴女が私の元にお出でくだされば、貴女以外、妃を迎えるつもりもありません、例え子が出来なくとも。」


「み、皇子様!其の様な!?」


「良いのです、私は、貴女が生涯私の傍にいらしてさえくだされば、其れで良いのです。」


「珠姫、私は右大臣家の後ろ楯を求めておる訳でも、貴女の境遇に同情した訳でもありません、あの日貴女に運命を感じたのです。」


「青馬殿を無理に忘れる必要もありません、私は其のままの貴女が好きなのですから。」


「ですからどうか私を信じて、此れからの日々を、私と共に歩んで戴けませぬか?」


「皇子様・・・、」


皇子様の真摯なお言葉は、セイと離れてから出来た私の心の隙間にすとんと納まり、そして胸を熱くした・・・。


然れど其れは・・・。


「然れど其れは・・・、皇子様のお気持ちに甘えてしまう事で・・・。」


「良いのですよ、其れで。」


「私も同じなのですから。」


「いいえ、違いますね、私の方が遥かに貴女より狡い。」


「私が私の名の下に正式に求婚すれば、貴女が断れぬ事は、百も承知しておりながら、敢えて右大臣家に正式に申し入れましたから。」


「其れは皇子様が私の事をご心配くだされて・・・、」


「いいえ、其れは詭弁なのですよ、そういう建前の元で、貴女が逃げられない様に、他の男に攫われない様に、早々に私の懐の中に閉じ込めたのです。」


「其れなのに私は、貴女の身の安全を思うて、などと親切ごかしに申す事が出来る酷い男なのですよ。」


皇子様はそう申されると、うっすらと自嘲気味な笑みを浮かべられた。


「ですから、貴女は何もお気になさる必要はありません、私が其れで良いと申しておるのですから。」


「私の傍で貴女のお気持ちが、僅かながらでも安らいでくだされたら、私は其れだけで嬉しいですし、私も貴女が私の傍で微笑んでいてくだされば、此れ迄に味わう事が出来なかった安らぎを、味わせて戴く事が出来るのですから。」


「勝手な申し分ですが、私達はお互いに欲しておる物を補え合える、この世で唯一無二の存在なのです、お互いにとって、此れ程に良き相手は、他に居らぬのでは無いですか?」


「珠姫、私の元にお出でくださりますか?」


皇子様は其の様に申されると立ち上がられ、私の目の前に跪き、穏やかな微笑みを向けられて、私に手を差し出された。


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