~九の巻~ ”たま” と ”珠”
『改めまして、先程は本当にありがとうございました。』
『この硬玉は母の形見の品で、常に肌身離さず身に付けております大切な品なのです。』
『見付からなかったらどうしようかと、正直、困り果てておりました。』
本当にありがとうございました。
心底ほっとされたご様子で、そっと玉に触れられた。
『お母上様の・・・、其れはお役に立てて私も嬉しゅうござります。』
『然れど、真のお手柄は“たま”でござります。』
『後で何かとびきり美味しい物を、ご馳走して差し上げてくださりませ。』
斯様に私が申し上げると、
『はい、今日は花見の宴という特別な日でもありますし、恐らく“たま”が喜ぶ物も何か有るでしょう。』
と目を細めて“たま”をご覧になられていた。
私がつい、
『たま・・・。』
と呟いて、くすくす笑うておると、
『如何なされました?』
と困惑されていらっしゃったので、
『申し訳ござりませぬ、笑うたり致しまして。』
『実を申しますと、私も“たま”なのです。』
『お数珠の珠で“珠”です。』
とお伝えすると、
とても慌てられて・・・、
『そ、其れは!』
『其れは、大変失礼な事を・・・!』
と、あたふたされていらっしゃるご様子も又可笑しくて、私は笑いが止まらなくなってしまうた。
『猫に“たま”はよく有る事でござります故、どうぞ其の様にお気になさらないでくださりませ。』
私はこの名前がとても気に入っておりますし・・・。
斯様に申し上げても、いつまでも頭を掻いて恐縮なされておいでの其の御方に、私は益々笑いが止まらなくなってしまうたのだった。