~八十三の巻~ 疑問
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もしも、あの御方が大海皇子様だとして・・・、
何故わざわざ皇子様が私の様な者を・・・。
然も皇子様はあの折、まだ自分は婚姻などする気持ちにはなれぬと申されていらした筈だ。
珠は大海皇子の気持ちを図りかね、途方に暮れておった。
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「珠!珠!聞いておるのか?」
するとお父様のお声が部屋に響いて、我に返った。
「申し訳ござりませぬ、お父様。」
「やはり花見の宴の折に皇子様とご面談させて戴いたのだな?」
珠の様子を見て、あの日何か有ったのだと察した父の言葉につい反応してしまうた。
すると・・・、
「珠、ようやった!」
「お前はのんびりしておる故、気を揉んでおったが、取り越し苦労であったようだな、済まなんだ。」
「中々どうして、此れ程迄に高い理想を持っておろうとは!」
お父様は上機嫌で、私にそう申されて、
「左大臣家は今頃、地団駄踏んで悔しがっておろうよ、わはははは。」
と珍しく豪快に笑われた。
お父様は普段、どちらかと申せば物静かな方で、私が斯様に興奮なされたお姿を拝見したのは、弟の誕生以来の事だった。
(左大臣家?)
お父様から、其の様な他家への対抗心を匂わせる言葉を聞いたのも初めての事だった。
私は其の時、いい知れぬ不安が胸に広がり始めたのを感じた。




