~八十一の巻~ お伽噺の恋物語
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『成る程、其の様な事が・・・。』
『・・・』
『た・・ま姫?』
其の御方に話を進めておるうちに、私の頭は、すっかり時空を遡り、いつの間にやら、長い長い、時の迷路を彷徨うておった。
『・・ま、・・め、』
『た・・ひめ、』
『たま・・ひ・・め、』
『珠姫!』
『はいっ!!!』
『あっ、も、申し訳ござりませぬ!』
『つい感慨に耽ってしまいまして、もう長きに亘り幼き日の事を、斯様に思い起こした事など、無かったものでござります故・・・、あ、あの、どこ迄お話し申し上げましたでしょうか?』
『いえ、私の方こそ、立ち入った事をお伺いしてしまい、申し訳ありませんでした、青馬殿に剣術の指南をお受けになられて、だいぶ腕が上達されたところ迄です。』
(良かった!私とした事がつい腑抜けて、危うくあの洞窟の事迄、口を滑らせてしまうところでした、あの場所での事は二人だけの秘密、あの場所は秘密の場所、危ない危ない。)
私が余計な事を口を滑らせておらずにホッとしておると、
『ハハハ、まさか貴女が剣を扱われるとは驚きました、此れは是非一度、お手合わせをお願いしたいものですね。』
『と、とんでもござりませぬ!おからかいにならないでくださりませ、幼子の戯れなのです。』
『ハハハ、其れは又いずれという事で、然れど、辛い事をお伺いして申し訳ありませぬが、其の様に楽しくお過ごしでいらした貴女方が、何故離れねばならなかったのですか?青馬殿は都には?やはり身分の事が?』
『詳しくは存じませぬが、セイ、青馬様は都には来られぬ事情がお有りとの事でござりました。』
『其れに・・・、セイには其の時既に、定められたお相手がおいでだったのです・・・、其の当時私はまだ其の事を存じませんでしたが・・・。』
『定められたお相手が?そうでしたか・・・、其れはお辛い事でしたね。』
『では其の後貴女は、其の様な事も有られて、此方に戻られたという訳ですね?』
『はい、其れからひと月程してお父様が私を迎えにお出でになられた事もござりまして、其の年の晩秋、上京致しました。』
『右大臣殿が?』
『はい、いつ迄も斯様なところに居っては嫁に行けぬと暑い盛りに突然お出でになりまして・・、其のまま共に戻る様にと仰るお父様を何とか説き伏せて、其の年の晩秋迄の猶予を戴き、雪が降り出す前に上京致したのです。』
『そうでしたか。』
『はい、青馬様が斯様に申してくださいました故、私達は結ばれぬ運命なのでは無く、既に魂で結ばれた伴侶なのだと。』
『現世では結ばれぬ運命なれど、私達は既に魂で結ばれた伴侶、必ず再び出逢えるのだと。』
『故に私達は、二人の魂の絆を確固たるものにする為、二人だけで婚儀を行い、来世で再び出逢えたなら、其の時こそは共に生きてゆこうと誓い合うて、別々の道を歩んでゆく決意を致したのです。』
『二人だけで婚儀を?其れはまた何とも・・、清廉で、まるでお伽噺の様ですね、其れ程想い合えた貴女方が羨ましい・・・。』
『いえ、其の様な事は・・・、今はセイに託された望みを叶えるべく、研鑽に努めておるところです。』
『青馬殿の望み?』
『はい、私の様な者が申し上げるのもおこがましい限りなのですが、セイの望みは、私が都で一番の姫になる事だったのです。』
『とても有り得ぬ事ではござりまするが、僅かでも其れに近付ける様に勉学に勤しんでおるつもりなのですが、やはり分を弁えぬ愚かな望みだったと今更ながら恥じ入っておるところなのです。』
『其の様な事はありませんよ、貴女は私が今迄にお会いしたどの姫君よりも輝いておいでだ。』
『まぁ、おからかいになるのは止めてくださりませ。』
『本心から申しております、然れど立ち入りついでにもう少しだけ伺っても宜しいですか?』
『無論、お答えになられたく無き事は、お答えくださらなくて結構です。』
『最終的にはお互い別々の道を歩まれる決心をなされた筈の貴女が、先程、意にそまぬ婚姻と申された。』
『やはり其れでも他の方との婚姻はお嫌ですか?』
『まだ青馬殿の事をお忘れにはなれぬのですか?』




