~七十七の巻~ 邂逅
私が屋敷に近づくと、門番が不審げに私を一瞥して、
『この屋敷に何用でござりまするか?』
と尋ねてきた。
『私は秋人、暁房殿に取り次ぎ願いたい。』
『お館様に?どちらの者だ?どちらから参られた?』
荒げた門番の声を聞きつけ、一旦屋敷に入っておった暁房が直ぐに出て来た。
『如何致した?』
少しの緊張を含んだ声だったが、其のはっきりと通る声はあの頃と変わらなかった。
『お館様!この者がお館様にご面会させて欲しいと申しておりまして・・・、』
『この者?』
暁房がゆっくりと門の外に立っておる私の方を向いた。
『暁房・・・、変わらぬな。』
私が声を掛けると、
少しだけ驚いた様に目を見開いたが、直ぐに笑顔になって其の場に片膝をついた。
『此れは、秋人様!いや、今は右大臣様でしたな、お久しゅう存じます。』
『秋人様もお変わり無く、お健やかなご様子、安堵致しました。』
『余り驚かぬのだな。』
『青馬から珠姫様に再会した旨、聞いておりました故、いつか斯様な日が参るのではと思うておりました。』
『お供の方は?』
暁房が若干警戒心を見せ、辺りに素早く目を向けた。
『供の者達はあちらに控えさせておる、誰一人この場を離れておらぬ故、安心せよ。』
『いえ、私は何も案ずる事などござりませぬ、ただお供の方々も外ではお暑いのではと思い、麦湯を冷やしておりますので、宜しければご一緒に中でお休み戴ければと思うたのですが、如何でしょう?』
『供の者達は構わずともよい、あちらで待つ様に申してある。』
『では右大臣様、狭い屋敷でござりまするが、どうぞ中へ。』
暁房が其の様に申して扉を自ら開けるのを、先程から扉の横で大口を開けて震えておる本来の門番が、ただ呆然と見ておった。
すると、此れまた外の声を聞きつけて、先程の若者が屋敷から出て来た。
先程の衣からは着替えを終えて、すっかり小綺麗な身なりだった。
『父君、如何なさりました?』
そう申しながら外に出て来た若者を近くで見るなり、私はまるで時が遡った様な錯覚に捉われた。
目の前の若者は、私のたった一人の大切な親友・郁馬に生き写しだった。
『郁馬・・・、』
私が思わず親友の名を口にすると、
私を見た若者は、直ぐに其の場に片膝をつき、
『秋人様!お懐かしゅうござります!』
と申して頭を下げたのだった。




