~七十四の巻~ 呪い
『えっ?何を申して・・・、』
『もしもこの命尽きたら、私の魂がお前を捜して惑う事が無きよう、お前と共に逝ける様に・・・。』
『私も・・共に?』
『ああ、そして其の逆もしたり。』
『恐らくお前が何処におろうと、どんなに離れておろうと、お前に何か有らば、私も共に逝く。』
『私と・・共に?』
『ああ、決してお前を誰にも渡さぬし、お前は私から逃れられぬ。』
『お前の魂は、我が魂がこの身を離れし時、其の指輪に封じ込めし古の呪いの力により、同時にお前の身を離れる。』
セイは其の様に申すと、私の薬指に輝く黄金の指輪を指差した。
『そして我が魂も、お前の魂がお前の身を離れし時、この指輪に封じ込めし古の呪いの力により、我が身より出づる。』
私は姉上と祝言を挙げて夫婦となろうとも、尚お前の事も放すつもりは無い、傲慢で身勝手な男だ。
私は最早溢れてくる涙を止める事は出来なかった。
セイは私の涙を誤解したのか、
『漸く解ったか、私が如何に酷き男か・・・。』
と苦い顔をして笑うておった。
然れど其れとは逆に、私の心は喜びに打ち震えておった。
(此れ程嬉しき事があろうか!!!)
(もしも真に其の様な事が可能なら、セイの魂は常に私の傍に在るのだ、姉上様と添うて尚。)
私は其の様な事は有り得ぬと思いながらも、セイがそう申してくれた事が何より嬉しかった。
『はい、よう解りました、私が如何に酷き女子かという事が・・・。』
『珠?』
『私は嬉しくて仕方ないのでござりますから、セイと共に逝ける事が!』
『セイの魂が、姉上様では無く、私の魂を求めてくれる事が!』
『珠・・・?』
『私は嫉妬深き恐ろしき女子でござりましょう?』
『然れど今更悔いても、もう遅うござりまする。』
『貴方は私から逃れる事は、最早出来ぬのですから。』
私はセイにそう告げて、艶然と笑うておった。




