~七十三の巻~ 責務
私達は魂で結ばれておる。
然れど現世では、セイと私がこうして過ごせるのは、あと僅か。
新しい年を迎えたら、セイは元服して、そして・・・。
◇◇◇◇
つい先程、恋情を自覚したばかりのまだまだ初心者の私には過酷な程の辛い現実。
今は、セイの言葉を何とか咀嚼しようと、セイが申した事を、一つずつ整理するのが精一杯だ。
人を愛する幸せを知り、恋する女子のときめきを実感した正に其の直後、今私は、真っ暗な洞窟を一人で彷徨うておるのと何ら変わらなかった。
(私はセイが申す様に、セイと離れて他の方と生きてゆくなど、果たして出来るのだろうか?)
(私達は来世で再び巡り逢い、其の時こそは共に生きる事が、真に出来るのだろうか?)
何よりも!
(セイが現世では姉上様を伴侶として、仲睦まじく共に暮らしてゆくのに、私は耐えられるのだろうか?)
涙がいつの間にか、ぽろぽろぽろぽろ、止めどなく溢れて流れてくる。
『ひっく、ひっく、セイ以外の方など、ひっく、嫌でござります・・・、』
『来世などではなく、私は今、セイと共に在りたいのです!』
『セ、セイが、例え姉上様と言えども、他の女人と夫婦になるなど、嫌でござります!』
心に湧き上がった真っ黒でどろどろした醜い思いを、泣きながらセイに吐露すると・・・、
『私もだ。』
『お前に他の男が触れるなど、考えただけで相手の男を八つ裂きにしてやりたくなる。』
『漸く心が通じ合えたのだ、出来るならこのままお前を連れ去りたい。』
『然すれば、然すればそうしてくださりませ。』
私はセイと一緒なら何処にでも付いて行きます、とセイにしがみつくと、
『然れど其れは出来ぬ。』
『何故に、何故にござりまするか!』
『私には責務がある。』
一族の者を守り、導いていくという長としての責務が。
『私は其れを父上から託された。』
『其れを投げ出して、己の幸せのみを追う事は許されぬ。』
初めて私は、未だ十四のセイが担うておる責務の重さを知った。
セイはこの歳で様々な重荷を一人で背負うておるのだ。
然れど私には、其れを軽くしてあげる事は出来ぬ。
恐らくこの世でセイの傍でセイを支え、共に其の責務を担う事が出来るのは・・・、
『・・・』
瞬く間に又涙が込み上げてきた。
『うっ、うっ、私は、私はセイの為に何も出来ぬ己が・・・、己が!情けのうござりまする!』
すると、
『何を申しておる!』
『其れは違うぞ!』
『お前がこの世の何処かで、元気に明るく暮らしておってくれる事こそが私の支えぞ、申したであろう?私達の心は常に寄り添うておると、お前が喜べば私も明るい気持ちになれる、逆にお前が悲しめば私も辛くなる。』
『其れに・・・、お前は何も解うておらぬ。』
『私はお前が思うておる程、お人好しな男ではない。』
『寧ろ・・・、恐ろしく身勝手で傲慢な男だ。』
『何を申して!セイが其の様な人で無い事は、私が一番よく存じております!』
『故に解うておらぬと申しておる。』
『私はお前に、現世の相手と幸せに生きろと申しておきながら、真にお前を其の者に渡すつもりなど初めから無いのだ・・・。』
『えっ?』
『私は先程お前に呪いをかけた、一生逃れる事が出来ぬ呪いを、な・・・。』




