~七十二の巻~ 出逢うた意味
『珠、済まぬ・・・。』
『私はお前に何もしてやれぬ。』
『お前が淋しいと泣いておっても、病になって苦しんでおっても、お前の傍に居てやる事は、私には出来ぬ。』
『私に出来る事は唯一つ、この地からお前の幸福を、祈り続ける事だけだ。』
『然れど、然れど此れだけは、此れだけは信じて欲しい!』
『お前を愛しく思うておる、この婚儀は決して戯れなどではない。』
『お前とこうして出逢えた意味が漸く解った故、例え共に過ごせるのが後り僅かであろうとも、私は其の僅かな時を、お前と夫婦として過ごしたいと思うておるのだ。』
『出逢えた意味?』
『ああ。』
『結ばれぬ運命の私達を、何故神は、こうして出逢わせ賜うたのか・・・。』
『私も先刻、お前が気持ちを告げてくれる迄は、長く苦しんでおった。』
『だがお前が私に其の答えを教えてくれたのだ。』
『私・・が・・・?』
『ああ、お前が気持ちに気付いてくれたから・・・。』
『私達は結ばれぬ運命などではなく、既に魂で結ばれておるのだ。』
『現世では共に生きられぬ運命なれど、私達は既に魂で結ばれておる。』
『然すれば、此れからも幾度でも生まれ変わり、再び巡り逢う事が出来るのだ。』
『故に現世では、互いに与えられた別々の道を受け入れ、命尽きる迄この生を、精一杯生き抜いてゆく事こそが肝要なのだ。』
『私は、姉上を我が妻として生涯大切に致し、共に生きて行くと決めた、珠、お前にも現世で定められし相手がおる、いずれ出逢う筈だ。』
『然れど幾度生まれ変わろうとも、又現世と同様に交わらぬ運命なのかもしれませぬ、永遠に・・・。』
『ああ、私も同じ事を思うて、故に長らく峻巡しておったのだ、だが漸く解った、だからこそこの婚儀が必要なのだという事が。』
『えっ?』
『二人の魂の絆を確固たる結び付きにすべく、神は私達に婚儀を行う機会を与えてくだされたのだ。』
『此れで漸く私達は、真の魂の夫婦になれたのだ。』
『此れからは私達の魂は常に寄り添うておる、例え其の身が如何に遠く離れておろうとも。』
『魂とは如何なる物なのでござりまするか?』
『魂とは、私達の根本、心の基の事だ、私達のこの身はただの器に過ぎぬのだそうだ。』
『この世に生を受けるという事は、私達のこの身に、私達の基となる魂が宿るという事なのだと、幼き頃、父上が教えてくだされた。』
『今私達の心は、誰よりも近くに在るのだ。』




