~七十一の巻~ 混乱
『め、夫婦・・と・・は・・・?』
未だに状況が理解出来ずに、今一度セイに説明を求めると、
『婚儀を終えたと先程から申しておろう?時が無い故かなり省いたが。』
『なっ、突然何を申して・・・、婚儀などと、私は何も伺っておりませぬし、了承も致しておりませぬ。』
『先程私が好きだと、何度も何度も叫んでおったではないか?あれは偽りか?』
『さっ、叫んでなど!あっ、あれは・・・!』
私は余りの羞恥に、直ぐ様、顔にかぁ~っと血が昇るのを感じた。
『お、お戯れも大概にしてくださりませ!!!』
『婚儀などと、いくら何でもお戯れの度が過ぎまする!!!』
『戯れなどではない。』
セイの声はあくまで冷静だった。
『勿論、本来ならば然るべき段取りを経て、佳き日を選び、執り行う厳粛なる儀式であるが、過日も申した通り、私達には其れが出来ぬ、私は年が明け次第、姉上と祝言を挙げねばならぬ身なのだ。』
(あっ・・・、)
私の脳裏に、考えぬ様に致そうと片隅に追いやっておった嫌な記憶が、鮮明に甦ってきた。
『なにゆえ?』
『何故にござりまするか?』
『何故、姉上様と?』
『先にも申したが、此れは既に定められし事、母上と父君が再婚された折に、私と姉上は其の様に申し渡され、承知致しておる。』
『故に何故?と伺っておりまする!』
『セイは、姉上様・・の事・・が、お好き・・なの・・で・・すか?』
『然すれば、何故?何故私に、斯様な温情をお与えくださる様な事を申されるのでござりまするか?』
『私が幼子故、やはりお戯れになられておいでなのでござりまするか?』
最早止められなかった。
斯様な事を申したい訳ではない、然れど後から後から言葉が勝手に口を衝いて出て来て止められぬ。
みっともなく取り乱した己に嫌気がさし、いっそこの場から消えてしまおうかと思うた瞬間、私の唇を、セイが優しく塞いで、私の醜い言葉達を封じてくれた。




