表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/130

~七の巻~   書庫

 其の建物は数多の柱で支えられた高床式の建物で、入り口は階段を数段登った上にあった。


重々しい観音開きの扉は、風を通す為か開け放たれておった。


入ると直ぐに長い回廊が真っ直ぐに伸びており、此方(こちら)も廂が全て上げられておった。


回廊沿いの部屋には仕切りも扉も何も無く、大広間の様になっておる。


其処には棚が整然と並び、無数の書物が保管されておった。


『凄い書物・・・。』


溜息混じりに呟いた私に、


『書物はお好きですか?』


と其の御方は私に振り向き、お尋ねになられた。


“たま”は腕の中で大人しくしておる。


『はい、己の知らぬ世界を知る事が出来ます故。』


『然れど女人(にょにん)である私は、中々書物を手にする事が出来ませぬ。』


『周囲の者は皆、書物を読む暇があったら、歌を詠むか、琵琶を弾くか、はたまた針物をせよと申します。』


苦笑混じりに斯様に申し上げると、


『ははは、そうですか、其れは勿体ない事ですね。』


『知りたいと思う気持ちは、皆同じだと私も思いますよ。』


斯様に申されて、丁度突き当たった回廊を左に折れて直ぐ右側の部屋の扉を開けられた。



◇◇◇◇


 どうぞ、と通された其のお部屋は飾り気が無く、然程広くは無かったが、廂を開けると気持ち良い風が入って来て、とても静かで居心地の良い部屋だった。


其の御方は、


『そちらにお掛けになられて、少しお待ちください。』


其の様に私に声をお掛けくだされ、“たま”を、日当たりの良い部屋の隅の茣蓙(ござ)の上に降ろすと、ご自分は続き間になっておる奥の部屋に入って行かれた。


私は斯様な奥宮迄付いて来てしまうた事を、早々に後悔しておった。


(あの御方は一体どの様なご身分の御方なのでしょう?)


服装から推察したところでは、何れかの高位貴族のご子息かと思われたが、其れにしては“たま”の事がある。


“たま”を世話しておると仰った話し振りからは、内裏にお住まいなのでは?とも考える事が出来た。


寧ろ其の方が自然だ。


此方(こちら)にご案内くだされたご様子からも其の様に感じられた。


まあ内裏にお勤めの御方なら、内裏内の建物にお詳しいのは当然だし、宿直(とのい)のお勤めもお有りだろうから、この辺りに住み着いておる猫の世話をしておってもおかしくはないのだが・・・。


私は、陽だまりで丸くなって目を閉じておる“たま”の頭を撫でながら、思案に暮れておった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ