~五十四の巻~ 対面
侍女に迎え入れられて部屋に入ると、御簾で仕切られた部屋の奥に、女の方が小さな赤子を守る様に添い寝しておられるのが目に入った。
御簾の前には侍女が一人、控えておる。
『小夜奈殿、失礼致しまするぞ、お加減は如何かな?』
父上が声を掛けると、小夜奈様と呼ばれた女の方は、
『此れは郁馬様!斯様なところ迄申し訳ござりませぬ。』
と慌てて起き上がろうとなされた。
『ああ、其のまま其のまま、此方が無理を申して、押し掛けておるのだ。』
『小夜奈殿のお加減が優れぬ中、押し掛けて参った我々が悪いのだ、秋人はすっかりご立腹だが、どうしてもこの子を、早く未来の花嫁に引き合わせたくてな。』
と父上が茶目っ気たっぷりに申されて、父上の後ろに隠れておった私を、前面に押し出すと、
『まぁ。』
小夜奈様は嬉しそうに私をご覧になられて、
『青馬様でいらっしゃいますのね?』
ようこそお出でくださりました、とにっこり微笑まれた。
『青馬、こちらが秋人の愛しい細君、小夜奈殿だ、姫君ご誕生以来、体調が未だ回復なされておられぬ故、残念だが今日は余りお邪魔は出来ぬが、ご挨拶申し上げよ。』
『初めまして小夜奈様、青馬にござります。』
『まぁ、ご子息様の前で、おからかいになるのは、お止めくださりませ。』
『何を申す、私が幾度、貴女の元に文を届ける秋人に付き合わされた事か・・・。』
『まぁ、其の甲斐あって、今日を迎えられた訳だが。』
『兎に角、此れ程めでたく、嬉しき事はない。』
『さぁセイ、早う許婚殿に初対面のご挨拶をせぬか。』
父上に促され戸惑いながらも一歩前に出ると、
『どうぞ御簾の中へお入りくださりませ。』
と小夜奈様が微笑まれ、控えておった侍女も、御簾を少し手に取って、
『どうぞ、此方へ。』
とにこやかに私を促してくれたので、私は御簾の中に、失礼致します、と声を掛けて入ってみた。




