~五の巻~ 硬玉の勾玉
私が唖然としておる中、ひとしきりお腹を抱えて大笑いされておられた其の御方は、漸く笑いが収まられたのかゆったりと起き上がり、私の方に顔を向けた。
『斯様に笑うたのは元服致してから初めての事です、ありがとうございました。』
と、未だ目尻の涙を拭いながら申され、私の顔をじっと見上げていらっしゃる。
其のお顔は細面で、眉毛がきりりと上がられており、涼しげな目元には知性が感じられ、見つめられると引き込まれそうな強さがあった。
鼻梁は高く、形の良い唇は薄めで、ふわっと起き上がられた際には、仄かに何かの花の香りに似た、芳しいお香の香りがして気品を感じた。
斯様に美しき殿方に見つめられては、己の不器量さが恥ずかしくも情けなくも感じられて、私は思わず顔を伏せてしまうた。
(失礼な事をしてしまうた、お気を悪くされただろうか?)
と、私が気を揉んでおると、
『捜し物をしておりましてね、此方の方こそ驚かせてしまい大変申し訳ありませんでした。』
まるで私が気にしておるのを、暗に何とも思うておりませんと伝えてくださる様に、先程の事への謝罪の言葉を口にされながら、衣の汚れを払うて立ち上がられた。
(私を気遣うてくだされたのだろうか?)
其の言葉に勇気づけられ顔を上げると、見上げる程の立ち姿もどこか優雅で、優しく微笑んでいらっしゃった。
やはり美しい・・・。
目のやり場に困る私であったが、漸く少し落ち着きを取り戻せた事もあり、〔捜し物〕という言葉に気が付いた。
『何をお捜しだったのか、お伺いしても宜しゅうござりますか?』
『はい、実はこの先に付いておりました硬玉の勾玉が、気付いた時には取れて無くなっておりまして捜しておりました。』
と胸元の革紐を手に取られた。
拝見すると、括ってあった革紐が解けてしまうたようだった。
『この辺りで落とされたのですか?』
『はっきりとは申せませぬが、先程あの四阿で読書を致しておりました折には確かにございましたので、恐らく其の後、此処を通った際に落としたのだと思うのです。』
気付きましたのが其の先でしたので、との事だった。
(ん?)
(待って、硬玉?玉?石?)
(もしかして先程の・・・?)