~四十七の巻~ 珠の不安
囲炉裏のところ迄戻ると、空いておる茣蓙に適当に座って、パチパチと音を立てて私達を暖めてくれる炎を、ただ黙して見つめておった。
暫くするとセイが、
『あれからもう五年になるか・・・。』
とぽつりと呟いた。
『其れはセイが初めて此処に来てから?』
『ああ、私が初めてこの洞窟を見付けたのは、私が今の珠よりも幼い時だった・・・。』
『其の日両親と諍いになって屋敷を飛び出した私は、導かれる様にこの洞窟の入口を見付けたのだが。』
『中に入り、あの墓を見付けて以来、訪れる度に墓参を欠かした事は無い。』
(セイ?)
セイは遠い目をして、何故か淋しそうに笑うた。
セイは時々とても辛そうな顔をする。
其れはほんの一瞬の事で、次の瞬間にはいつもの横柄(?)な調子に戻うておるので、初めは気のせいかと思うた。
然れど長く時を共にする内に、其れが家族の話題になった時だと気付いた。
さり気なく、本当にさり気なく話題をずらすので最初は気付かなんだが、セイは自らの家族の事を余り話したがらない。
其れに気付いてからは、私も家族の話はなるべくせぬ様に気を付けておった。
偶に場を読まぬ風矢に冷や冷やさせられておるが・・・。
(然れど何故?ご両親と上手くいっておらぬのだろうか?)
◇◇◇◇
この時の私には、セイが背負わざるを得なくなった辛く悲しい過去も未来も責任も、何一つ知る由も無く、漠然とした不安だけを抱え、いつ迄もこの幸せな時が続く事だけをただひたすらに願い、祈り続ける事しか出来なかった・・・。




