~四十四の巻~ 素肌
『何故逃げる?』
セイが私の顔を覗き込んでくるが、顔を向ける事など出来る訳がない!
セイは下衣を身に付けておるだけのあられもない姿だ。
お父様でさえ斯様ななりで、私の前に姿を現す事など無かったのだ。
下を向いたまま、
『は、離して。』
私が必死に手を振りほどこうと暴れると、逆に強い力で引き寄せられて、私とはまるで違う少し骨張ったがっしりとした腕に包まれた。
(な、何?)
離して、と申しながら、頬に当たったセイの素肌は、あれ程濡れたにも拘らず、心地好い温かさだった。
ドクン、ドクン、
耳に聞こえてくる一定の間隔で刻まれる心の臓の響きは、安らかな微睡みの世界への誘いだ。
私はつい目を閉じて其の温もりに身を任せそうになっておったが、
(ん?素肌?)
『き、きゃあ~!』
我に返り身じろぐ私を、セイは更に深く包み込むと、
『やはり!』
『体が冷えきっておるではないか!』
斯様に申すと、突然私の腰紐に手を掛け、いとも容易くしゅるりと其れを解いて下に落とした。
『なっ、何す・・・!や、いや、止めて!』
『私は大丈夫だと申しておるではありませぬか!』
必死に腕を押さえて、此れ以上させぬ様に頑張ってみるが、押さえておるつもりのセイの腕は、いとも簡単に私の手を擦り抜ける。
焦った私は破れかぶれで叫んだ。
『は、離さぬと、囲炉裏に飛び込みまする!』




