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~四十三の巻~ 攻防

 私が未だセイの(のたま)った日本語が理解出来ずに硬直しておると・・・、


『何をしておる!早く衣を脱がぬか!其のままでは風邪をひくぞ!』


今度こそ間違いなく、あり得ぬ事を申して私を急き立てた。


『わ、私は火を(おこ)して戴ければ其れで十分にござります!』


『お気遣いはご無用でござりまする!』


そう畏まって返事を申しておる最中にも、セイは囲炉裏の傍に行き、其処に置かれてあったらしい火打石を手に取り、其の脇に積まれておった枯れ草と枯れ枝を適当に中心にくべると、火打石をカチッ、カチッと打ち鳴らし始めた。


そして何度か其れを繰り返すと、枯れ葉を手に取り、そっと石に押し当てた。


すると燻り始めた其の枯れ葉から、糸の様な煙が、のろのろと昇り始めた。


其れを見たセイは、細枝を一本手に取ると其処に押し付けて、フゥフゥと何度か息を吹きかけた。


すると今度は枝の方からも煙が昇り始め、漸く小さな炎が端から顔を覗かせた。


私はセイの傍に行き、其の小さな炎に別の枝を近づけてみた。


直ぐに私の持つ枝にも可愛らしい炎が灯ったので、私は其れを囲炉裏にくべてある枯れ葉に押し当てて、火を移した。


すかさずセイが、別の細枝を其の炎に近付けると、炎がそちらにも移り、囲炉裏内の炎は徐々に勢いを増していった。


点火を確認すると、セイは自身が持っていた枝も中に放り込んだ。


『此処は上に風が抜ける故、煙が籠もる心配は無い。』


其の様に説明して私を見たセイは怪訝な顔をした。


『まだ脱いで無かったのか、早く致せ、夏とはいえ、其のままでは本当に風邪をひくぞ。』


そう申すと、己の衣の腰紐を解くと、おもむろに脱ぎ始めた。


『き、きゃあ!』


『な、な、何をなされていらっしゃるのですか!』


私が手で顔を覆い、早く衣を身に付けて、と訴えると、


『何を申しておる。』


『何処かの水浴びがお好きなお姫様と共に私もたっぷり水浴びを致した故、上衣(うわごろも)迄斯様に濡れておる。』


『私にも風邪をひかせたいのか?』


『ぐずぐず申してないで、珠もさっさと脱いで乾かさぬか!』


そう事も無げに申して衣を脱ぐと、脱いだ衣を茣蓙(ござ)の上に広げて干し始めた。


『私は結構です、お一人でどうぞ!』


『私はあちらに見える窪みのところで乾かしておりますので。』


そう言い残して行こうとすると、


待て、と腕を掴まれた。


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