~四の巻~ 猫の導き
其れではやはりあの御方が・・・。
(珠の回想・花見の宴)
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私の膝の上で其れ迄ゴロゴロと喉を鳴らして目を細めておった猫が、突然膝から飛び降りて何かに突進した。
驚いて何事かと目で追うていたところ、猫は何か小さき石の様な物に戯れて、手で弾いてはまるで狩りをするかの如く、腰を振り振り其れに狙いを定めて、飛び掛かっては又弾いて遊んでおる。
私は其の無邪気な姿に、顔を綻ばせて暫く見入っておったのだが、其の内に、夢中になってどんどん茂みの方に追いかけて行ってしまい、とうとう猫の姿は見えなくなってしまうた。
私が慌てて、
『猫ちゃん!待って!』
と思わず茂みの中に入って行くと、其処にあった何か大きな物に躓いてしまい、其のままそれに覆い被さる様に倒れ込んでしまうた。
『大丈夫ですか?』
と言う声に我に返った私は、其の大きな物が人で、然も身分の有りそうな貴族風の男の方だと分かり、慌てて立ち上がったが、慌てたせいで、更にお腹をおもいきり踏んずけてしまうた。
『も、申し訳ござりませぬ!お怪我はござりませぬか?』
其の時私は、顔から火が出る思いだったが、何とか未だ其の場に転がっておられる其の御方に其の様にお声掛けさせて戴くと・・・、
『ぶっ、』
『あははははははは。』
突然其の御方はお腹を抱えて大笑いされ始め、私はどう反応してよいものやら、ただただ困惑してしまうたのだった・・・。