~三十六の巻~ 二年後
『カツ―ン、カツ―ン』
『やぁ―!』
『ほぉ、漸く少しは様になってきたようだな。』
和哉様が口角を上げて、風矢を見つめていらっしゃった。
『はぁ、はぁ・・・、な、何を、申す・・・、』
『わ、たし・は、初め・から・・・、はぁ、そなた・より・も・・・はぁ、』
『ははは、どうした?』
『息が上がっておるぞ?』
『ではお遊びは此れ位にして、行くぞ!』
『たぁ―!』
◇◇◇◇
『ガツン!』
『きゃあ!』
『余所見をしておられるとは、随分と余裕になったものだなぁ、た・ま!』
『セイッ!』
『何処を叩いておるのですか!!』
◇◇◇◇
あれから二年の月日が流れ、私と笹野は十歳に、風矢は十八歳になっておった。
後で教えて戴いたのだが、セイ(青馬様)は私より四歳上だったので、十四歳、和哉様はセイより十歳年上との事だったので、二十四歳になられておいでの筈だ。
風矢と和哉様は相変わらず口喧嘩ばかりしておるが、何だかんだ申しても、会えばどちらからとも無く剣の手合わせを始めるので、実はかなり仲が良いと私達は思うていた。
まあ口喧嘩と申しても、直ぐにむきになる風矢が、和哉様にからかわれておるだけなのだが、風矢は全く気付いておらぬが・・・。
私はと申せば・・・、
『えぃっ!たぁ!』
『カキィ―ン、カキィ―ン』
『珠もだいぶ見られる様になってきたなぁ。』
そこそこ剣の方は出来る様になってきた・・・、と思う。
歌や針仕事は相変わらずだが・・・。
女性としてどうしたものか、とは、まだ十歳なので良いという事で納得しておる(己だけ)。
そうそう、セイの呼称についてはあの後散々悩んだのだが、やはりどうしてもセイマとは呼べず、結局間を取って(?)セイで落ち着いた。
セイは最近・・・、益々素敵に成ってきた・・・と思う。
上から目線の性格は相変わらずだが・・・。
元々整った顔立ちの少年だったが、今は少年らしさが抜け、より精悍で逞しい青年に成りつつあった。
『よし、少し休憩にしよう。』
斯様に笑顔で声を掛けてきたセイは、汗がきらきら光って眩しかった。




