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~三十二の巻~ 仲間入り

 神々の沐浴場(もくよくじょう)に到着すると、今日も青馬様と和哉様は、剣の稽古をなされておる真っ最中だった。


私達はお邪魔せぬよう、適当な岩の上に持参してきた茣蓙(ござ)を敷き、其の上に荷物を広げて落ち着いた。


私と笹野は、本日の午前中に教師から出された歌の課題に取り組もうと話し合うておったので、早速紙と筆を出し思案を始める事にした。


ちらと風矢を見上げると、ちらちら、ちらちら、青馬様方の剣の稽古に目をやっておる。


よく見ると、体がうずうずして、無意識なのか自身の剣の(つば)に手を掛けたり外したりを繰り返しておった。


加わりたくて仕方ないのが丸分かりだ。


(真に素直じゃないのだから・・・。)


『くすっ。』


風矢という人は、結局、お人良しで憎めぬ人なので、まだ八歳ではあるがしっかり者の笹野と、いつか似合いの夫婦になるだろう。


私は其れが嬉しかった。


『姫様?』


既に歌詠みに夢中に取り組んでおった笹野が、独り笑いしておった私を怪訝そうに見ておる。


私がこっそり風矢を指差せば、利口な笹野は直ぐに合点がいったようで、


『姫様、本当に此処は剣の稽古にうってつけの場所でござりますわね~。』


『風矢様も、私共は此処で大人しく歌詠みの練習などしておりますので、折角でござりますから、あちらの方で素振りなどしてらしてくださりませ。』


風矢に大声でそう声を掛けると、


『わ、私は姫様をお守りするのがお役目であって、わ、私は別に剣の稽古などは屋敷でしっかり・・・、』


などと、しどろもどろになっておる。


すると青馬様があちらから、


『良ければ相手をして貰えぬか?』


と声を掛けてくだされた。


『若、お相手なら私が。』


『あの様な者に相手をさせても上達など致しませぬ。』


和哉様の横やりに、単純な風矢は直ぐに乗せられ、


『ぶ、無礼な!』


『わ、私はこう見えてもだな・・・!』


と頭から湯気を出して風矢が反論しようとすると、


『和哉は先程から息が上がっておるではないか、少し休んで水でも飲め。』


と青馬様が割って入り、


もう一度、


『和哉が休んでおる間、私の相手をしてくれぬか?』


と風矢にお声を掛けてくだされたので、


『そ、そこ迄申すのなら、少しだけならお相手して差し上げても構いませぬが・・・。』


などと勿体付けて、漸く青馬様達の方に向かうた。


私と笹野は其れを見て、顔を見合せて吹き出したのだった。


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