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~二十六の巻~ 胸の鼓動

 『青馬様、申し遅れてしまいましたが、過日は真にありがとうござりました。』


『此れは今朝採ったばかりの筍でござります、お荷物になって申し訳ござりませぬが、お召し上がりくださりませ。』


『本来、もっと早くにお礼にお伺いさせて戴くべきところでござりましたが、私達二人だけでの外出が叶わず、風矢の回復を待っておりました故、遅くなってしまいました。』


『誠に失礼して申し訳ござりませんでした。』


私が頭を下げて筍をお渡しすると、


『此れは旨そうだ!』


『皆喜ぶので、有り難く頂戴致す。』


『お前達が出て来られずにおった事は解っておった故、気にせずとも良い。』


『あの日は家の者達に黙って出て来たのであろう?』


見上げると意地の悪い笑みを浮かべて此方(こちら)を見ていらっしゃる青馬様がいらした。


其の笑みを見た途端、何故かまた胸の辺りが、きゅんと痛くなった。


意地の悪い笑顔なのに、青馬様の瞳はとても優しい色を映して、私を見ていらっしゃるから。


たちまち先程と同じ様に恥ずかしくなって、思わず俯いてしまうた。


また頬も火照ってきて、何故だか鼓動がもの凄く速く、ドクンドクンという其の音が、青馬様にも届いてしまうのではないかと思う程だ。


何故(なにゆえ)?心の臓が苦しくて、息が詰まりそう・・・。)


斯様な自分自身の変化が理解出来ずに火照った頬を両手で押さえて下を向いておると、


『顔を上げよ。』


という青馬様のお声が掛かった。


私が恐る恐る顔を上げると、今度は面白そうに私をご覧になっていらっしゃる。


『お前を見ておると飽きぬ。』


斯様に仰って、また快活にお笑いになられた。


其の時、


『若君、そろそろお戻りになりませぬと・・・。』


という和哉様のお声が聞こえた。


青馬様は、


『ああ、分かっておる。』


と簡潔に返事をされて、


私に、其れを一袋持っていけと梅の実が入った麻袋を指差した。


『ですが・・・、』


と躊躇っておると、


『お前達も共に収穫したのだ、遠慮は無用だ。』


『本来なら一人に一袋持たせたいが、お前達には運ぶのは難しかろう。』


『此れは良い干し梅になるぞ、毎年私も収穫を楽しみにしておる。』


嬉しそうにそう仰るので、


『この様に立派な梅は、私は今迄見た事がござりませぬ、さぞ立派な干し梅になるのでござりましょうね、帰りましたら早速干す事に致します、私もとても楽しみでござります。』


『今日は真に楽しゅうござりました、ありがとうござります。』


とお礼を申し上げた。


すると青馬様は真っ直ぐに私をご覧になられて、


『一つだけ頼みたき事がある。』


『私達の事は、口外無用に願いたい。』


と申されたのだった・・・。


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