~二十五の巻~ 憩い
三人がひたすら頑張った結果、全ての木から梅の実を落とし終える事が出来たので、私と笹野は敷いてあった茣蓙を二人で持ち上げ、実を中心に集めると、予め青馬様がご用意くだされておった数枚の麻袋にそれぞれ入れていった。
たちまち膨れ上がってどっしりとした麻袋が数袋出来上がったところで漸く作業完了。
其の時には皆良い汗をかき、それぞれ其の場に座り込んでおった。
其処で私は風矢に持たせて来た握り飯の事を思い出し、先程の茣蓙を使わせて戴き、笹野と共に其の上に握り飯と大根の塩漬け、そして水入れを並べて、
『ささやかではござりますが、宜しければお召し上がりくださりませ。』
と青馬様方にお勧めした。
すると青馬様は、
『これは有り難い。』
と握り飯に手を伸ばされ、
『旨い!』
『お前もいつ迄も其の様なところに立っておらんで、此方に来て座ったらどうだ?体を動かした後の握り飯は実に旨いぞ。』
と未だ頑なに一人だけ少し離れた場所に立っておられる和哉様と仰る守役に、声を掛けられた。
私は思い切って握り飯を入れてきた竹籠を持って其方に赴き、どうぞ、と差し出してみた。
すると和哉様は、
『私は腹など減っておりませぬ。』
と横をお向きになられたが、其の途端、
『ぐぅ~』
という何とも情けない腹の虫が、静まり返っておった蓮華野原に響き渡った。
和哉様が真っ赤になられて、
『ど、何処ぞで大きな蛙が鳴いておる、全く大きな鳴き声で五月蝿くて敵わぬ!』
と仰るご様子が、先程迄のご様子と余りに懸け離れていらっしゃった為、
つい私は、
『ぷっ、』
と吹き出してしまうた。
其れをご覧になられていらした青馬様は、既に一つ目の握り飯を平らげておられ、
『あははは!』
と笑いながら、
『痩せ我慢致すな、有り難く戴いたらどうだ?』
と仰って、ご自分も次の握り飯に手を伸ばされたのだった。




