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~二十三の巻~ 蓮華野原

 『若、此方(こちら)の方々は?』


其の男の方は益々警戒心を顕にしておられるご様子だった。


『大事無い。』


『然れど、若!!!』


冷静な青馬様の返答とは裏腹に、青馬様の守役と思しき其の男の方は、ぴりぴりなされて、青馬様に詰め寄っておられる。


私がどうして良いか判らず、二人のやり取りをはらはらと見ておると、青馬様と目が合うた。


すると青馬様は優しく微笑まれて、


『そろそろ来る頃と思い、待っておった、行くぞ!』


と再度仰って、今度こそさっさと歩きだしてしまわれた。


『何をしておる、早く来い!』


と仰る青馬様の後を、私は慌てて追い掛けた。


『ひ、姫様?どちらにお出ででござりますか?』


小走りで青馬様の後に続いた私に、笹野と風矢もよろよろと付いて来た。


『若君!』


『若君、お待ちください!』


其の男の方が大声で青馬様を呼びながら追い掛けていらしたが、青馬様は気にされたご様子も無く、ずんずんと歩いて行ってしまわれた。



◇◇◇◇


 気が付くと私達は森を抜け出て見知らぬ場所に来ておった。


其処からは開けた一面の野原が続いており、見渡す限り何も無かった。


若葉が芽吹く季節となった今は、私が大好きな愛らしい蓮華の花が其処かしこに咲き乱れて、蓮華の花園となっておった。


私は目の前に広がる綺麗な光景に目を奪われておったが、青馬様には見知った光景でいらしたらしく、迷う事なく、更に其の野原を奥へと進んで行かれた。


私も黙して青馬様の後を付いて行くと、何本かの木が立ち並ぶ一角を目指されていらっしゃるのだと気付いた。


何故か其の木の下には何枚もの茣蓙(ござ)が敷き詰められておった。


近づくにつれ、其の木には青々としたたくさんの実が()っているのが目に入ってきた。


『梅の木だ。』


『よし!丁度良い頃合いだな。』


青馬様は其の木を見上げられて仰った。


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