~二十二の巻~ 戸惑い
いったい私はどうしてしまうたのでしょう?
私が呼び掛けたまま其の場から動かなくなってしまうたので、青馬様は私の元へ歩いて来てくだされた。
其れなのに私は、先程迄はあんなにお顔を見られて嬉しかった筈なのに、何故か今は直視する事も出来ず、折角傍まで来てくだされた青馬様に、失礼にも下を向いたまま、顔を上げる事すら出来ぬ有様だった。
暑い訳でも無いのに、俯いた頬は、何故だかかあっと火照っておる気がする。
きっと此れは走って来たせいだと、頬に手をやりながら無理やり結論づけた時、
『若君、こちらのお嬢様は?』
という固い声が聞こえてきた。
二人きりでは無かったと漸く我に返り顔を上げると、青馬様の横で立派な体格をした大人の男の方が、私を注意深く見ながら立っておられた。
『珠。』
青馬様はそちらを向きもせずに素っ気無くそう答えると、
私に、
『行くぞ!』
と仰った。
私が訳が分からず、
『はっ?、えっ?』
と、まごまごしておると、丁度其の時、
『姫様ぁ~、速すぎますぅ~。』
という、へとへとになった笹野の声が聞こえてきた。
見ると私が降りてきたところから風矢と共に此方に向かうてふらふらと走って来るところだった。
其の瞬間、私を見ていた男の方が、更に身を強ばらせ、警戒したのが分かった。




