~二の巻~ 大海皇子
大海皇子様・・・。
皇子様で有らせられながら、武芸にも秀で、其の上、何事にも卓越した知識をお持ちと評判の、第三皇子様・・・。
◇◇◇◇
現在、内裏には四人の皇子様がおいでになられる。
其の四人の皇子様の内、皇太子殿下には既にご正妃様がいらっしゃるが、他の皇子様方にはご正妃様どころかご側妃のお一人もいらっしゃらない。
当然の事ながら都の主だった貴族で年頃の姫君をお持ちの方々は、姫君を入内させたくてうずうずなされておいでだった。
皆様あれやこれやと手を回されて画策なされていらっしゃるらしいが、当の皇子様方が上手く躱されておられるらしく、未だ縁談が決まられたという話は聞こえてこなかった。
中でも大海皇子様は、第三皇子様では有らせられるが、其の端正なご容貌、ご聡明さから、多くの貴族の姫君方が、其の妃の座を狙うておいでと伝え聞く。
勤勉で、一日の大半は書庫でお過ごしになられていらっしゃるとか・・・。
又、先の安芸一族騒乱の折には、唯お一人異変を察知し、密かに内偵を進めていらしたとか・・・。
其の上、謀反の確証を得てからの皇子様の行動も非の打ちどころの無いもので、直ちに陛下と皇太子殿下に言上し、表向き法要との名目で菩提寺に集結して決起を企てておった者達を一網打尽にし、双方共に無駄に犠牲者を出す事無く反乱を未然に防いだ事は、未だあちらこちらで称賛を受けていらっしゃるとか・・・
『今や身分を問わず、都中の娘達の憧れの的でござります!』
とは、私の乳姉妹で普段は冷静沈着な侍女の笹野の言である。
其の様な御方が、何故私など・・・。
私の頭の中は、益々混迷の一途だった。