~十七の巻~ 青馬
永遠に続くかとも思われた其の道は、意外とあっさり私達を出口に導いてくれた。
森を抜けると其処は、見覚えのある村に続く一本道だった。
遅くなってしまうかと思うたが、日もまだ沈んではおらぬ。
『もう帰れるな?』
そう申されて村とは反対方向に行こうとする少年に、
『あ、あの・・・、』
『今日は本当にありがとうござりました、申し遅れましたが、私は珠、おじゅずの“ず”で“たま”、そしてこの者は乳姉妹の笹野と申します。』
『宜しければ貴方様のお名をお聞かせ願えませぬでしょうか?』
『・・・』
すると其の少年は口をきゅっと結び、躊躇っておられるご様子だったが、
やがて小さく、
『青馬・・・。』
『青い馬と書いて、“せいま”だ。』
と答えてくだされた。
『また・・・、』
『またお会い出来ますか?』
私は自分の口から零れた言葉が信じられなかった。
青馬と名乗った其の少年も、眉を上げ其の黒く大きな目を見開いてじっと私を見ておられる。
『何故?』
『何故会うたばかりの私に其の様な事を申す?』
其の声音はまるで私を警戒しておる様だった。
『解りませぬ。』
勝手に口から出て来てしまうたのですから・・・。
私が正直にそうお答えすると、暫く私を凝視しておった青馬様は、
『ぶっ、』
『あはははははは・・・。』
とお腹を抱えて大声で笑いだされた。
『お前、面白い奴だな。』
目尻の涙を指で拭いながら、
『ああ、腹痛ぇ~。』
とまだ笑うていらしたが、急に真顔になられて、
『そうだな、ならば解ったら其の答え、必ず教えよ。』
と強い眼差しで私をご覧になり、
『私は毎朝あの“神々の沐浴場”で剣の稽古と釣りをしておる。』
『別にあの場所は私の物という訳では無い、他の者が来たところで、拒む理由は有るまいな。』
そう独り言の様に呟かれて背中を向かれると、僅かに右手を挙げられて、今度こそ歩いて行ってしまわれたのだった・・・。




