~十三の巻~ 出逢い
時は流れ、伊勢に住まう様になって二年、私は八歳になっておった。
◇◇◇◇
当時、私と乳姉妹の笹野は、まるで真の姉妹の様に何をするのも一緒だった。
遊ぶ時も学ぶ時も、寝る時でさえ。
其の笹野には、風矢という八つ年上の許婚がおった。
春野の夫(つまり笹野の父)は、流行り病で既に亡くなっており、笹野は一人娘だった為、従兄である風矢が笹野の婿となり、本家である笹野の実家を継ぐ事になっておったのだった。
故に風矢は私達の守役として、外出する時は常に私達と共にあった。
其の風矢がある日疱瘡にかかり、移るといけないと離れに隔離され、疱瘡を患った事がある春野だけが近づく事を許され世話をしておった。
笹野はまだ八歳だったが、風矢を慕っておったので、己が何も役に立てぬ事をとても口惜しく感じており、独り泣きながら神棚に手を合わせておった。
其の様な笹野を見ておられなくなった私は、野苺を採って来て風矢に食べさせてあげようと誘うた。
私達は其の前の年、偶然野苺の群生地を見付けて、来年も採りに来ようと三人で約束しておったのだった。
そうと決まれば、早速籠を持って出掛けた私達を、裏の畑にでも行くと思うたのか、誰からも見咎められる事はなかった。
私達は記憶を頼りに其の場所を捜したが、途中の何処かで道が逸れたのか、進むにつれ見覚えの無い場所に出てしまい、あちらこちら動き回ってしまうたのが災いして、もと来た道も判らなくなってしまうた。
疲れ果て途方に暮れて、大きな樹の根元に座り込んで水を飲んで休んでおると、
『斯様なところで何をしておる。』
と突然声が掛かった。
見ると其処には、私達より幾分年上と思しき綺麗な少年が立っておった。
其れが青馬様との出逢いだった。




