表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/130

~十の巻~   互いの事情

 『何のお構いも出来ず、申し訳ありません、此処には私以外の者は余り近づかぬものですから。』


『特に今日は花見の宴で、人手は殆どそちらに掛かり切りですし・・・。』


漸く私の笑いも収まって、一息吐いたところで、其の御方は申し訳なさそうに仰られた。


『いえ、其の様な事は・・・。』


『其れよりも、私の方こそ申し訳ござりませぬ、貴方様も宴を抜けてお出でなのでござりましょう?早く戻られた方が・・・。』


私が心配になってそうお尋ねすると、


其の御方は今迄とはご様子が一転し、渋いお顔をなされて、


『いえ、私は宴に向かう途中でこの玉を無くしてしまい、其れからずっと捜しておりましたので。』


『元々ああいった席は好みません。』


『今日はやむを得ず出席せねばならなくなりましたが、ご挨拶だけで、早々に退席させて戴くつもりでおりました。』


『ちらりと顔さえ出せば、義理は立つでしょう。』


などと仰せになられたので、


『そうでござりますか?』


と私が曖昧にお返事申し上げると、


『今更ながらで申し訳ありませんが、貴女はもしやお迷いになられたのではござりませんか?』


『私は己の事に気を取られて、ご厚意に甘えておりました、直ぐにご案内致しましょう。』


と立ち上がろうとなされたので、


私は慌てて、


『いえ、私もあの様なお席が不得手で疲れてしまいまして、静かに休める処を捜しておりましたところ、あの四阿(あずまや)に辿り着きました。』


斯様に申し上げると、


『其の事を右大臣殿はご存知なのですか?』


と仰せになられた。


私が驚いて瞠目しておると、


『ああ、申し訳ありません、実は皆様がお出でになられるところは、遠方より拝見しておりました。』


右大臣殿とご一緒にいらしたので・・・。


『右大臣家のご息女で有らせられますね?』


『はい、父とは(はぐ)れてしまいまして、私が抜け出した事は、恐らく父は存じませぬ。』


すると其の御方は唐突に、


『貴女は本日の宴の真の目的を、ご存知でいらっしゃいますか?』


と仰られたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ