~一の巻~ 縁談
「珠、大海皇子様が、お前を是非とも妃に迎えたいとの仰せだそうだ。」
思うてもみなかったお父様のお言葉に、声も出せずにおる私に、
「入内は来春早々と決まった、其れ迄にやらねばならぬ事が山積みぞ!」
「時間が無い、誰か宮中の作法に詳しい者を招いたほうが良いやもしれぬな。」
「支度は全て右大臣家の威信にかけて最高の品を揃えてみせようぞ!」
「おおそうだ!まずは最上級の絹を取り寄せさせよう、何処の品が良いかの、こうしてはおられぬ。」
などとお父様は一人興奮していらしたが、私には何もお返事する事が出来なかった。
ただ一言、
「何故・・・?」
としか・・・。
其の零れ落ちた私の呟きとも申せぬ小さき声に、
「お前には黙っておったが・・・、」
と、実に気まずげにお父様は切りだされた。
「いや、実は陛下からのお達しでな・・・。」
「先だって催された花見の宴だが・・・、あれは皇子様方の妃選びを兼ねておったのだ。」
「陛下は、なかなか妃をお迎えにならぬ殿下方に痺れをきらされ、あの様な場を設けて殿下方を後押しなされたのだ。」
「故に年頃の娘がおる我々に、娘には内密にして共に参内するようにとの命が下された。」
「其の上で殿下方にもそうとは伝えず、忍びで参加せよと命じられたのだ。」
「聡明な殿下方は、陛下の思惑など直ぐにお気付きになられて、当初は参加をかなり渋っておいでだったらしいが・・・、同時に陛下思いでもあられる殿下方は、最終的には敢えて気付かぬ振りをなされて、忍びで参加される事を承知なされたそうだ。」
「特に大海皇子様は・・・、」
其処でお父様は、言葉を一旦お切りになられて、
「そなたも皇子様のご功績の数々は聞いておろう?」
と思わせ振りに仰って、私の反応を窺っていらっしゃる。