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第三章:姉との戦い

これにて終わりです。

モランを倒し、更に彼の土地を軍門に入れたゼップは次なる目標を定めていた。


「・・・・姉上」


ゼップは地図を見ながら考える。


姉のジャナラはゼップを幼い頃から異端としていた。


そう・・・・ゼップは見ていた。


『貴方はスジール派の人間。何れ私たちを殺すでしょうね?!』


幼い頃に言われた言葉を思い出す。


亡き母の面影を残す姉だが、口調は蓮っ葉な口調で自分に厳しかった。


彼女の言う通り・・・・事実そうなったが、幼い頃に言われた言葉は重い。


今でも言葉は枷となり、自分の胸に刻み込まれている。


だが、それは父のシャー・ジハーナルも自分を余り愛してくれなかった。


母くらいであろう。


分け隔たれなく愛してくれたのは・・・・・・・・・・


姉に詰られて泣いていると何時も母---マサハナは慰めてくれた。


『ジャナラにも困った物ね。でも、貴方は優しい子よ。ただ、少し思い込みが激しくて一本に突き進む所があるわ。だから、ジャナラは貴方を虐めるの』


それを直せば良い、とマサハナは言ってくれた。


しかし、唯一の理解者であるマサハナは死んでしまった・・・・・・・・・


誰も護ってくれる者が居ない。


周りは敵だらけで、味方はスジール派だけ。


言い訳だろうが彼は・・・・宗教にのめり込んだ。


スジール派にとっては彼ほど操り易い者は居なかっただろう。


唯一共和将の息子たちの中で、スジール派であり味方は誰にも居ないのだから。


そして・・・・・彼は母の言葉を忘れて、思い込みで一本道を突き進んでしまった。


もう後には引けない。


「・・・・・・・・」


ゼップは地図を見る。


ジャナラは奥地に近い土地を任されており、広さもモランに比べれば遥かに広い。


ただ、この国は砂漠で国土の半分を支配されている。


つまり作物などが耕せない。


姉の性格から民達が食べる物まで取り上げる事は出来ないだろう。


逆にこちらは首都で物資などに関しては十分だし、民達から取り上げる事も躊躇わない。


徐々に追い詰めて行けば勝てるだろう。


それが戦術・戦略的に見て安全で兵達を無闇に失わない。


しかし、それは逆に言えば長い時間を掛けて姉と戦わねばならない訳だ。


「・・・・ラシーン」


ゼップは小声で暗闇に話し掛けた。


『お呼びでしょうか?』


暗闇から声がしてゼップに返事をする。


「情報は得たか?いや、その前にモランの件・・・・見事だ」


『ありがとうございます。情報に関しては・・・・手に入らない感じです』


「どういう事だ?いや、そうだな。姉上は昔から用心深かった。そのような情報は些細な事でも見逃さんか」


『仰る通りですが、情報を完璧に消すなど無理です。そして私は些細な事でも見逃さず・・・・・仕立てる事が可能です』


「・・・・欺瞞する、か」


ゼップが言えば、暗闇から笑い声が聞こえてきた。


『察しが良くて助かります。しかし、やはり真実性が強い方が良いので、もう少し時間を下さい』


「どれ位だ?姉上は待ってくれんし、私も近い内---数日後には軍を出すぞ」


『ジャナラ殿と会戦するまでには間に合わせます・・・・・・』


「急げ。早く手を打たんと・・・・“他国者”に脅かされるぞ?そなたの地位が」


この他国者とは・・・・長兄を謀殺する前に現れた者達で、ゼップとも面識がある。


見た事も無い衣装に武器を持ち、その力は絶大だが・・・・・どうも胡散臭い。


おまけに参謀、と名乗った者は一目見た時から臭かった。


明らかに自分達を見下している。


後で知った事だが・・・・・肌の色が白くない。


それだけで差別したらしい。


更に隣国のサルバーナ王国から亡命してきた者も居る。


彼等と他国者達は面識があるも仲は極めて悪い。


唯一傭兵が仲介者として取りなしているが、居なければ殺し合いになった事だろう。


その者達も力になる、と言うが止めておいた。


下手に恩を売りたくない。


だから、これをラシーンに告げたのだ。


『・・・・御意に』


最後の言葉は発破を掛けている。


それにラシーンは重い口調で頷いた。


「・・・姉上は殺せるか?」


自分に尋ねてみる。


長男を三男と手を組み、謀殺して更に三男も謀殺した。


実父は幽閉しているが・・・・・まだ情が残っているのだろう。


赤い城壁に実父を幽閉した。


あそこから亡き母の墓であるマサハナが見える。


しかし、逆に言えば手が届く距離に居るのに届かない・・・・という皮肉の見方もある。


恐らく自分が死ねば・・・・いや、もし、負けてしまえば後世では皮肉の見方、と言われる事だろう。


そうならない為にも勝たねばならない。


「・・・・・・・・」


姉を殺すかは・・・・止めておこう。


今はどう戦いを制するか、だ。


長い戦いをすれば、ジリ貧で勝つも苦しい戦いとなる。


何より奥地もあるから時間は掛けられない。


ここは早期決着が望ましいのだ。


となれば、やはり謀略で姉から兵達の信頼を奪うのが良い。


幸い信頼を奪う噂がある。


その噂の情報を掴めば良い。


ただ・・・・良い気持ちはしなかった。


ある意味では身内の恥を全国に広げるのだから当然である。


それでも神の為なら・・・・神の都を来させる為にもしなくてはならない。


ゼップは地図を見て、どのようにするか思案した。

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アガリスタ共和国には“奥地”という場所がある。


何処の国でも首都から離れた場所などを言うが、この国の場合は異端と言う意味で使われていた。


奥地はムザーがブライズン教を広げに来た時も拒否した前例がある。


そしてスジール派とジナーズ派に分裂して、スジール派が武力で襲い掛かった時などは伝説の獣を使い、彼等を皆殺しにした、と言われている・・・・・・・・・


故に奥地の近くに住む部族達も皆、悪鬼羅刹の仲間と言われてきた。


しかし、シャー・ジハーナルはそんな事を「ただの噂」と断言し、直接赴いて話をした。


そこで何も変わらない事を証明してみせたが、首都などの民はそうではない。


逆に奥地の方も刺激を与え過ぎて爆発するかもしれなかった。


どちらから火が噴き出すか分からない。


考えた末、長女のジャナラに任せる事に彼は決断する。


ジャナラはマサハナとの間に出来た娘であり、生き残った兄弟の中で唯一の女だ。


砂漠の華、と言われたマサハナの容姿を色濃く受け継いでおり、慈愛に満ちた上に政治手腕も優れている、と民達の間では言われている。


ただ、この国では女、というだけで差別されてしまう。


その為、彼女に政治手腕があり、武勇に優れていたとしても・・・・・余り良い顔はされなかった。


更に彼女と父親は・・・・男女の関係である、という噂もある。


これは最愛の妻を亡くして、毎日を泣いて暮らすシャー・ジハーナルを慰める為とも・・・・・父親が亡き妻の面影を残す娘に手を出した、とも言われており真実は分からない。


しかも、噂の内容が内容だけに皆も大っぴらに言えないのだ。


だが・・・・こういう噂ほど根は深く、一度でも広がれば何処までも広がってしまう。


彼女の任された土地周辺も同じだった。


シャー・ジハーナルが次男のゼップに幽閉された時、ジャナラは即座に城を出て逃げた。


そして直ぐに兵を集めて戦おうとしたが、やはり女であり如何わしい噂もある為か・・・・・予想より少ない。


自分の人望など・・・・この程度か?


嘆きたい気分だったが、弟のモランと手を組めば何とかなる、と思い使者を出した。


所がモランは・・・・・あっという間にゼップの魔手に絞め殺されてしまったのだ。


今度は自分だ。


自分がやられる。


「・・・・ジャナラ様、ゼップ様の軍勢が来ました」


兵が一瘤駱駝に跨るジャナラに言ってくる。


「来たわね・・・・悪魔の手先が」


『・・・・・・・・』


ジャナラの発言に兵達は顔を見合わせた。


確かにゼップのやり方は外道、と罵られ悪魔の手先と言われても仕方ない。


しかし、だ。


彼女だって実の父と如何わしい関係があるのでは?


それが頭から離れず、結局はどちらも似たような物ではないか・・・・・・・?


疑問を挟んでしまうのだ。


ゼップの軍勢は優に一万を越えている。


3万・・・・5万、か?


『倍近くある軍に、どうやって勝つんだ?』


兵達は圧倒的な数に自然と脚が竦む。


軍勢が止まり、やがて使者が来た。


「ゼップ様からの使者です」


「外道の使者が何用?」


ジャナラは舐められないように、と強気な口調で言い使者を見る。


「・・・・見えると思いますがゼップ様の軍勢は5万です。貴方様の倍以上も居ます」


「だから、長兄を殺し、更に三男を殺し、父を幽閉した弟の軍門に下れ・・・・とでも言う気?」


「今、降伏すれば貴方様の領民に手荒な真似はしません。更に言えば貴方様の身柄などは丁重に扱います」


「弟---モランを謀殺した時も、そんな風に言ったの?」


「・・・・これが最後です。それにゼップ様も人間です。貴方様は最後の兄弟。そして・・・・シャー・ジハーナル様の“妾”ですから」


流石に父の愛した妻の面影を残す女を殺すのは忍びない。


「・・・ただの噂よ」


ジャナラは毅然に答えるも兵達は動揺を隠さない。


使者はそれを見て言った。


「噂、ですか?ならば・・・・証拠を見せましょうか?」


「証拠?あるならどうぞ」


強気に答えるジャナラだが、冷や汗を掻いているし、手も汗だくだ。


決して暑さから来ているのではない。


・・・・・真実を明るみに出されるのが恐いのだ。


「では・・・・後悔してもしりませんよ」


使者が手を上げた。


すると、前方から魔術師たちが出て来て・・・・・・空中に映像を流した。


『!?』


ジャナラ側の兵達は驚き、そして絶望し、やがて・・・・・軽蔑する。


映像に映し出された光景は・・・・・5千の兵達をジャナラから引き離すのには十分過ぎる力があった。


「兵士諸君、大人しく武器を捨て投降すれば家族と財産に君等の生命は保障する。ただし、あくまで戦うのなら・・・・・ゼップ様は容赦しない」


「皆、使者の話を・・・・・・・・・・」


「ゼップ様は頭の皮を剥ぎ、両眼を刳り抜き、10本の指の爪を抜き、更に諸君らの“剣”を切り口に入れる。それを家族の前でやり、遺体は腐り果て鴉の餌になるまで放置する。これを聞いても戦う気があるのか?!」


実父と愛し合う女の為に・・・・・・・・・


『・・・・・・・・・・』


「皆、使者の言葉に惑わされるな!!」


ジャナラはそう言うが、ゼップならやりかねない、と思っていた。


モランの死を聞いて、その現状を知っているからだ。


それでも言ったが・・・・・・・・・・


カラン・・・・・・・


乾いた音が砂の海に響き渡る。


その音が何度も何度もした。


ついには・・・・・・・・・・・・・


「ま、待ちなさい!!そちらに行くな!!」


ジャナラは甲高く叫ぶが、兵達は振り返らずゼップの軍に飲み込まれて行く。


一人残されたジャナラは歯軋りをした。


「こっの・・・・卑劣な手を!!」


「卑劣?私の主は事実を公表しただけですよ。己が恥でもあるのです」


何せ実の父と娘が男女の関係にあり、それを国土に見せつけたのだ。


「何て事を・・・・・・・・・・!!」


「何て事?それは貴方様の方です。それに私は予め言っておきましたよ。だが、貴方様は拒否した。だから、我が主の命に従ったまでの事」


怨まれる筋が無い、と使者は冷たく言い切る。


「こっの!!」


ジャナラは左右の腰に手を回し、片刃で湾曲した剣---“ヤタガン”を引き抜こうとした。


ヤタガンは中程度から先端に掛けて、緩やかに刃の側に反りが入っている。


長さは凡そ60から80cmで短いが、行軍中の邪魔にならないようにされた物だ。


更に言えば反りがある為、騎馬に乗り突撃した際には相手の首を難なく斬れる。


柄頭の部分は象牙で、滑り止めの為に溝があり、更に手元から両側へ広がっていた。


しかし、それを抜く前に彼女は動きを止める。


赤い点が四方から向けられており、彼女の心臓を狙っていた。


「動けば殺します」


冷たく使者は言った。


「脅しではありません。何なら証拠を見せましょうか?」


使者は懐から羊の皮を出し上に翳す。


赤い点が一斉に皮へ行き・・・・・穴を開けた。


「・・・・・・・」


ジャナラは見た事も無い攻撃に冷や汗を掻き、自分が先ほど殺されると知り・・・・気絶しそうになった。


「抵抗しなければ殺しません。大人しく投降して下さい。それとも・・・・・ゼップ様の悲しみを増やす気ですか?」


「悲しみを増やす?あんな血も涙も無い男に悲しみなんて・・・・・・・・・」


「黙れ。女」


使者が初めて怒りを見せた。


「あの方を追い詰めたのは貴様等にも理由はある。スジール派、というだけでゼップ様を毛嫌いした。あの方は元来なら心優しく思いやりがあったんだ。それを貴様等が破壊した!!」


「冗談言わないで。あの男は何時も私達にスジール派の素晴らしさを教えていたわ。そして女と見れば誰振り構わず怒った。成長したと思えば宗教ばかり。少しも父上の手伝いをしなかったじゃない」


「貴様等が遠ざけたのだ。貴様のような淫売が!!」


更に言えば・・・・・・・・・・・・


「シャー・ジハーナルがゼップ様をスジール派に入門させた。そしてゼップ様を他の兄弟に比べて愛さなかった!!」


「愛していたわよ!でも、あの男は何時も父を、兄を、弟を毛嫌いした。私なんて、その上位よ」


「それは貴様が幼き頃よりゼップ様を嫌っていたに過ぎん。私は見ていたぞ・・・・・・・・・」


『汚らしい手を近付けないで!!貴女が弟なんて反吐が出るわ!!』


「何で知ってるのよ。いや、それ以前にあれはゼップが馬糞で汚れた手を洗わないで、そのまま・・・・・・・・」


「黙れ黙れ!!それならば、そう言えば良い。それなのに貴様は言わなかった。ゼップ様は貴様を亡き母君の面影を見ていたのだ。それを貴様は拒否した!!」


「貴方・・・・・・・・」


ジャナラは使者の顔を見て・・・・・言葉を失う。


そうだ。


彼は・・・・・・・・・


「思い出したか?私はゼップ様のお守役として仕えた男---ザムザだ。私は常にゼップ様の傍に居た。だから、貴様等の悪行は全て知っている!大人しく降伏しろ!これ以上、ゼップ様の手を血で汚させるな!!」


使者---ザムザは金切り声で叫ぶ。


「ザムザ・・・・もう良い」


白馬に跨ったゼップが現れた。


「ゼップ様・・・・・・・」


ザムザはゼップの隣に移動する。


そしてゼップは口を開いた。


「姉上、大人しく降伏して下さい。私は兄と弟を手に掛けましたが、貴方まで掛けたくない」


「・・・・信じろ、と?悪魔の手先である貴方に」


「貴様!!」


ザムザが剣を抜こうとしたが、ゼップが止める。


「では・・・・これで良いですか?」


ゼップは白馬から降りて、ジャナラの前で土下座した。


「どうか降伏して下さい。貴方様まで殺したくない・・・・・・・・」


この事をゼップの側近、と言われた老人の日記には書かれている。


『ゼップ様は姉を殺したくない。だから、自分なりの誠意として土下座をしたのだろう。もし、それでも信じられないなら望む事をしたに違いない』


と書かれていた・・・・・・・


「・・・・必ず貴方に天の罰が下るでしょう。それを心待ちにするわ。それまでは貴方の軍門に下らせてもらうとしましょう」


ジャナラはヤタガンを地面に突き刺した。


それは彼女が敗北した事を意味する。


「ザムザ、姉上を丁重に扱え。決して無下に扱うでない。良いな?」


「・・・・御意に」


ザムザはゼップの声に哀憫の瞳を見せてから頷いた。


かくして・・・・・・哀憫の謀将、と言われるゼップ・ジハーナルは兄弟を制したが、まだ敵は居る。


「・・・・・・・」


ゼップは遥か彼方の地を見る。


次は奥地だ。


奥地を滅ぼして、初めて自分の夢は叶う。


スジール派だけの国を創る事だ。


『皆の宗派が一緒になれば・・・・・幸せになれる。母上も父上も兄上もモランも姉上も・・・・皆で幸せになる』


実の兄弟を殺し、異教徒、異民族などを情け容赦なく殺し続けた彼だが・・・・・本当は誰よりも幸せを願っていたのかもしれない。


ただ、行く道を誤っただけの事だろう。


そんな彼だからこそ・・・・・・・・・・


                                       哀憫の謀将 完

凄く短く纏めてみました。


お陰で五千文字とかになり、読み辛いな・・・・・と個人的には思いましたが。


私としては彼もまた・・・・リカルド同様に志を持ちながら、道を踏み外したと思っております。


故に彼の最後も・・・・出来るだけ誇りに満ちながらも愛に飢えた男、という感じで書きたいです。


その前に戦闘シーンですが、これを書いていて「何とかなるか?」という感じになりました!!


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