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第一章:兄を謀殺

次は兄---ダハルの謀殺編です。


彼の話は宇喜多直家の謀殺から取りました。


同盟者でしたが、何れは敵対する松田氏の家臣を狩猟に誘い「鹿と間違えた」と称して射殺した話です。


アガリスタ共和国の首都はカスバルと言う。


意味は聖都であり、ブライズン教の創設者であるムザーが名付け神から与えられた地である。


人口は約30万、と言われており住んでいる種族は国内でも最大数を誇るムジ族だ。


このムジ族はムザーの血族と言われており、ブライズン教最大の教徒としても知られている。


ただ、彼の宗教は大きく分けて2つの宗派に分かれているのだ。


一つはブリズンの教えを頑なに守り続けている少数派のスジール派。


この宗派はムザーの血とブリズンを第一に考えており、血と聖書を守る事こそが最大の教えである、と思っている。


だが、時代が変われば人も変わる。


つまり、人の思想とは変わる訳で、最初こそ異教徒は根絶やしにするべし、と考えていた民達も共存を望んだ。


それをスジール派は許す訳も無い。


しかし、民達は共存を望み新しい宗派に行くのは自明の理だ。


多数宗派のジナーズ派である。


こちらは時代と共に生きる宗派、と揶揄されており民達の思いが表されている、と言えるだろう。


ただ・・・・どちらも共通する事はある。


女性の事だ。


スジール派は女性を「堕落の象徴」としており、ジナーズ派は「誘惑の象徴」としている。


堕落と誘惑・・・・どちらも悪しき象徴、と聞こえるだろうが温度差が違う。


スジール派は何処までも女性を蔑視しており、人間として扱おうとしない。


ジナーズ派は時代に合わせているが、女性を出来るだけ眼に当てないようにしつつ大切に扱っている。


これが温度差が違う点だ。


シャー・ジハーナルの息子達は、どちらの宗派に所属しているだろうか?


長男ダハル・マサナ、長女モラン・マサナ、三男ジャナラ・マサナはジナーズ派に所属している。


次男以外は・・・・・ジナーズ派に所属しているのだ。


「・・・・父上も困った物だ」


暗い部屋の中で一人の男が呟く。


声は・・・・沼のように奥底が分からない。


「異教徒と共存・・・・馬鹿な。異教徒と共存など有り得ない。特に奥地に足を運ぶなど・・・・・・・」


それにしても、と男は思わずにはいられなかった。


「どうして兄上と姉上ばかり愛する。どうして私だけスジール派にしたのだ?何故、私だけが・・・・・・・・」


男は不満と言える言葉を幾つも口に出す。


自分は次男だ。


跡継ぎで言えば、自分は2番目である。


弟は3番目であるが、その弟にさえ自分は父から愛されていない・・・・と錯覚してしまう。


「何故だ?私は神に忠誠を誓い続けて、祈りは欠かさない。父上は私に“祈る人”と幼い頃は渾名して敬虔な性格を愛してくれた」


しかし、どうしても他の兄弟に比べれば愛されていない。


「・・・・私は、貴方に愛されたいのです。いや・・・・認められたいのです」


この歳で頭を撫でられたり、抱っこされたりしたくない。


だが、子として父に自分も出来る、と認められたいのだ。


長男と長女は母が死んだ折りから・・・・父を助けてきた。


だからこそ父は認めたのだろう。


三男も今では長男の補佐役をしており、父の覚えも良い。


自分だけが愛されず、未だに認められていない。


それ所か最近は露骨に避けられている気さえするのだ。


違う、と自分に言い聞かせて必死に認められるようにしたが・・・・・それも限界だ。


奥地へ父は向かい、部族達と和解した・・・・と聞いた時点で、もう彼は限界を越えてしまった。


「今日から私は、神の戦士となります。この国をブライズン教の国とします。貴方様は道を誤り、神に反旗を翻した」


ならば・・・・・・・・・


「私が正してみせます」


父が道を踏み外したのだから、息子として正さなければならない、と男は語った。


「先ずは手始めに・・・・・貴方様から大切な者を奪います」


自分を愛してくれなかった報復、と皆は思うだろう。


違う・・・・父を惑わした挙句に後押しする者を排除するのだ。


「・・・・・やってみせます」


男は自分に語り続けた。


それは自分が行う事---おぞましき行動を正当化しているように見える。


「・・・・神の国を創ります。私が」


再度、男は言い続けた。

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とある丘にヤギが居た。


立派な角を持っており、逞しい肉体をしている。


「兄上、立派なヤギですね」


白馬に乗った30代の男が、隣で黒馬に跨った30代半ばの男---兄上と言い指差す。


「そうだな。そなたがやるか?」


黒馬に跨った男は更に隣の茶馬に乗った20代後半の男に尋ねる。


「ここからですか?無理ですよ。私は兄上---ダハル様みたいに弓矢は上手くないんです」


「そなたの場合は槍が上手いからな」


ダハル、と言われた白馬に乗った男は微苦笑する。


その微苦笑を茶馬に跨った男は一瞬だけ憎悪で見た。


『忌々しい。そうやって何時も私を小馬鹿にしている。昔から私は嫌いだったんだ!!』


しかし、それも終わる。


『貴方は死ぬんですよ。そして次は兄上---ゼップだ。私と共謀して長兄を殺す気だが、何れは私を殺すのは眼に見えているからな』


「では、ゼップ。そなたはどうだ?」


ダハルは白馬に乗った男---ゼップに問い掛ける。


「いや、ここは長兄のダハル様がやるべきです。今宵は父上---シャー・ジハーナル様の誕生を祝う日であり、病床から起き上った日。長兄として、あのヤギを献上して下さい」


私と弟---モランはヤギを追う勢子の役割を担う、とゼップは言った。


「そうか。では、私が仕留めるから2人で頼む」


『御意に』


ダハルは黒馬の腹を蹴り、ヤギを追い掛けた。


逆に2人は別方角から回り込む。


「・・・・モラン、手筈は整っているな?」


ゼップは2人切りになると、沼のような声でモランに問い掛けた。


「・・・・何時でも。で、兄上が長兄を仕留めるのですか?」


「そうだ。貴様は勢子としてやれ。私が仕留める」


「・・・長兄を・・・・血族を我が手で殺しますか。何れ、その魔手が私にも向けられるのでしょうね?」


「・・・・行け」


弟の皮肉にゼップは眉を顰めて、強い口調で言いモランは従った。


しかし、皮肉ではないから痛い所だ。


「・・・・・・・」


ゼップは馬から降りて、布に収めていた“合成弓”を取り出す。


合成弓とは動物の骨などで出来た代物で、通常の弓矢より強力で距離もある。


反面で引き絞るのに力が必要だが、彼の弓には凸凹の付いた指輪---キナーナを取り付けており、大した力でなくても引ける工夫がされていた。


更に矢には掠っただけで相手を殺せる猛毒も仕込んでいる。


「・・・・・・・・」


徒歩で素早くモランと考えた道へ行き、長兄が来るのを待つ。


地面に耳をやると馬の蹄が近付いて来る。


矢を弦に付けて引き絞る。


キリキリ、とキナーナが回る音がした。


引き絞ったままの状態で待っていると・・・・来た。


ヤギが最初に来て、そこからダハルが馬に乗り見える。


狙いを定めて・・・・迷わず矢を放つ。


「グハッ!!」


ダハルは矢が心臓を貫いて、馬から転げ落ちる。


「・・・・・」


ゼップは無言で立ち上がり、彼に近付いた。


もがき苦しむダハルの肌は青白く・・・・もう直ぐ死ぬ、と暗示している。


「ぜ、ゼップ・・・・・・・」


「兄上・・・・父上を助ける為・・・・・ブライズン教の国を創る為です」


「な・・・・・・・」


その言葉が最後で、ダハルは死亡した。


享年35歳、という早過ぎる死だ。


ゼップは暗闇のように暗い瞳で、ダハルの亡き骸を見下していたが徐に湾曲した剣---シャムシールを引き抜き迷わず・・・・・・・・・・


斬ッ!!


ダハルの首を一刀両断で斬り落とす。


「・・・兄上」


首だけとなったダハルを抱き抱え布で包んだ。


「・・・・・」


その光景を三男のモランは黙って見ていたが、何れは我が身・・・・・と思わずにはいられず、警戒心を強くした。


そして首都カスバルにおいては・・・・病床から起き上ったばかりの老いた男の泣き叫ぶ声が絶えなかった、と言われている。


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