2. 飲み込まれた運命 1
2. 飲み込まれた運命 1
ジンは自分の部屋でベッドに寝転んで天井を眺めていた。天井に、試験官の顔が浮かんでくる。
「ふん、なにが『さすがだな、ジン』だよ、くそぉ!」
思い出せば、思い出すほど怒りがこみ上げてくる。
「なんで、魔法が成功したオレが失格で、なにもできないテレスとマルクが合格なんだ。そんなのおかしいだろう?」
家に帰ってきてから、部屋の中に当り散らしたらしく、ジンの部屋の中のあちらこちらに物が散乱していた。特にゴミ箱は、何回も蹴られたらしく、原型とはかなり違う形に変形して、部屋の真ん中に転がっていた。
「くそ!くそ、くそ、くそぉ!」
ベッドの上に起き上がって枕をものすごい勢いで何度も殴りつけてから、それを壁の方に投げつけた。枕は本棚に当たり、その勢いで棚のものがガラガラと音を立てて床に落ちた。
「ちょっと、なにやってるのよ」
その音を聞きつけて、姉のルナがジンの部屋へ飛び込んできた。
「あ~、あ~。なあに?この部屋。ねえ、ママ!ジンの部屋が大変なことになってる!」
ルナは、ドアから廊下に顔を出してリビングにいる母親に向って大声で叫んだ。
「何しに来たんだよ。失格になったオレに嫌味でも言いにきたのか?用がないなら出て行けよ!」
ジンはそういうと、床に落ちているものを手当たり次第ルナに投げつけた。
「こら、ちょっと止めなさい」
そういいながら、ルナはジンが投げつけてくるものを器用にヒョイヒョイと交わしていたが、やがて怒った顔になり手のひらをジンに向けてズンと突き出す。その途端に、ジンが投げたものが全て空中で一旦止まりそこからポタポタと床に落ちた。
「いい加減にしなさいよ、アンタ。失格したのはアンタが悪いんでしょ?」
試験会場の手伝いをしていたルナは、ジンが失格になったいきさつを全て聞いているのだろう。
「うっせえな、いいから出て行けよ!」
ジンはベッドから立ち上がると、ルナをドアに押し戻して部屋の外へと追い出した。
「反省の色なしって感じ。困ったモンね」
ルナはジンの部屋の前でそうつぶやくと、リビングで待つ母親のところに行った。 しばらくして、兄のデュークが帰って来た。たぶん近衛隊でジンが失格したことを聞いて様子を見に来たのだろう。
「俺だ、入るぞ」
デュークが部屋のドアを開けると、ジンはドアに背を向けてベッドの上に寝転んでいた。
「めんどくさいヤツが帰ってきやがった・・・」ジンはベッドの上で目を瞑ったまま、ボソッと零す。
「なんだこの部屋の荒れようは?」デュークは、少し部屋を見回して一瞬立ち止まったが、気を取り直したようにまたジンの方を向くと、口を開いた。
「失格したんだってな?なんでそんなことになったんだ?」
しかしジンは不貞寝をしたまま動こうとも、話をしようともしない。
「ショックなのは分かる。でも失格するにはそれなりに訳があるだろう。説明してみろ」
デュークはもう一度ユックリと諭すようにジンの背中に向って言った。
「失格したわけなんて、知らねえよ」
ジンは、不貞腐れて言う。
「なに?聞こえない」
「だから、わかんねえって言ってるんだよ」
ジンはベッドの上に起き上がり大声を出した。
「お前本当に分からないのか?規約違反の魔法を使ったって聞いたぞ」
「ああ、使ったよ。時の魔法を使ったんだ。 でも、魔法は完璧で誰かが怪我をしたわけでも何でもない。なのになんで、奴らが合格でオレは失格なんだよ!わけわかんねえよ」
そう言い終ると、ジンはまた背を向けてベッドに横になって寝転んだ。
「なにぃ。時の魔法なんか使ったのか?」デュークはジンに向って怒鳴りつける。
「うるせえ。時の魔法を使ってなにが悪いんだ。完璧に使えていればレベルなんか関係ないだろう?
大体レベルで使っていい魔法と悪い魔法があること自体が間違っている。魔法なんて、使えるやつは使えるし、使えねえヤツは使えねえだよ」ジンは、大きな声で怒鳴り返した。
「馬鹿野郎!レベルに見合った魔法を使うことの大事さは、散々教わってきただろう! なんでそんなことも理解できないんだよお前は!だからお前はガキだって言うんだ」デュークが大声で言い放つ。
「なにかっていうと、ガキガキって。うっせぇんだよ!」
「お前自分が何やったのかわかってるのか? 俺やオヤジの顔に泥をするような真似をしておいて、開き直るなんてガキ以下だな」
「なんだと!」
「我が家の恥さらしだ。お前なんか出て行け!」
するとジンはその言葉を受けて、ベッドからすごい勢いで起き上がると、
「分かったよ、出てきゃいいんだろ、出て行きゃあ。こんなうち、こっちから出て行ってやるよ!」
そう言ってベッドからひらりと窓に飛び移り、そのまま表へ飛び出した。