14.ヒーローの生還 5
14. ヒーローの生還 5
「よう、遅かったじゃないか」その日タカヤとアッシュが学院の門をくぐると、ジンが待っていた。
「あれ?ジン。こんなところでなにやってるの?」
「なんだよお前、早く来たなら先に行けばいいじゃないか」会うなりいきなり、遅かったといわれてタカヤは少しムッとしながら答えた。
「お前らが来るのを待ってたんだよ。ほら、行こうぜ!」
「え?なんで?」ジンは、アッシュの質問に答えることなく、二人の肩に手を置いて、大学のアーチをくぐった。
アーチをくぐると女学生の一団が、大学の敷地へと伸びる並木道で待ち構えていた。しかも、その数は、一組や二組ではなかった。そして、女学生たちは、ジンの姿を見つけるや否や、ジンに向かって駆け寄ってきたのだ。
「な、なんだこれ?」
「俺に聞かれても知るか!初めて登校してきた日から、ずっとこの状態でもう2週間だぞ。だれだよ、そのうち収まるって言ったのは?」ジンはジロッとアッシュを睨みつけた。
「ぼっ、僕だって、まさかこんなことになるなんて!あ、ジンってば……」アッシュが言い終わらないうちに、ジンは、タカヤとアッシュの手を取って、「走るぞ!」と言い放ってダッシュを始めた。
「え?おい、なんだよ。待てよ!」
「こんな状態で待てるか!」ジンは、タカヤとアッシュを盾にするようにして、女学生の中を猛ダッシュで駆け抜ける。しかし、連日その手でジンに撒かれている女学生たちは、今日は逃がさないとばかりに追いかけてくる。
「ねぇ~~、な、なんで僕たちまで逃げてるんだよ~。ぼ、僕、授業に行かないと~~」情けない声を発するアッシュ。
「お前ら、この状況で親友を見捨てるつもりか?」
「おい、人聞きの悪いこと言うなよ!別に見捨てるって言ってないだろ?てか、こっちがこんなに早くダッシュしてるのに、あいつらとの距離が離れないって……あいつらすげえな?」
「感心してる場合か?バカ!」
「なんだよジン、バカはないだろ?バカは!」
「ねえ、ちょっと二人とも。喧嘩してる場合じゃないよ!早く逃げないと追いつかれちゃう!」
「え?そりゃあまずい!しょうがねえな。タカヤ、ジグマで時間を稼いでくれ!」
「ジグマ」とは、地属性の魔法の一つで、地面が大きく割れる術のことだ。その術の大きさによっては、その割れた地面からマグマが噴出させることも出来る。しかし、地割れの大きさのコントロールが難しく、使いこなせる者は少ない大技の一つだ。
「はぁ?なんで俺がジグマを使わなきゃいけないんだよ!お前が自分でやればいいだろうが!」タカヤはまだ不機嫌そうに答えた。
「それがそうも行かないんだよ!ほら、早くしないと追いつかれちまう!」
「ん、もう!仕方ねえな……、いいか?お前ら上手く飛べよ!」タカヤは二人に声をかけると、振り向きざまに地面に手をかざして 「ジグマ」と術をかける。タカヤの呪文を合図に、ジンはタカヤとアッシュの腕を取って、高く飛び上がる。すると、地響きを伴って地面が大きく揺れ、地の底まで覗けるのではないかと思うほどの地割れが何十mにも渡ってパックリと大きな口を開けた。
「おっ、さすが!地属性のエース!ありがとな」ジンはタカヤに軽くウインクをしながら声をかける。
「なんだよ、そんな歯の浮くようなお世辞を言う暇があったら、さっさと行こうぜ!」タカヤがそう言うと、あっ!とアッシュが声を上げた。
「わわ……、ジグマを超えてくる子がいる!」
「「え~っ?」」ジンとタカヤが慌てて振り返ると、大きな地割れの上を軽々と跳び越して、こちら側に着地しようとしている数人の姿が目に入った。
「ヤバイ!こうなったらアッシュ!ソリュートで飛んでくれ!頼む」
「ええ~~?ソリュートぉ?だ、だめだよ!こんなところで使ったら怒られちゃうよぉ~」
「ばか、そんなのんきなことを言ってられる状況か?俺だってジグマを出したんだから、お前も協力しろ!」
ソリュートとは、風属性の魔法の中でも大技の一つだ。大きな竜巻を起こし、敵を撒き散らしたり、その竜巻に乗ってどこかに高く飛び去るときなどに使用するのだが、竜巻の大きさのコントロールが難しく、風属性の魔法使いの中でも、使いこなせる者は限られている。アッシュは、その数少ないソリュートの使い手の一人だった。
「なんで僕が怒られなくちゃいけないんだよぉ!もう、仕方がないな~。……ちゃんとつかまっててよ?行くよ?」3人の中で、一番小柄なアッシュの体に、ジンとタカヤがしっかりとつかまったのを確認すると、アッシュは空に向かって大きく両手を広げた。そして、目を閉じて大きく息を吸ってから「ソリュート!」と叫ぶ。すると、一瞬3人の上の空が大きく歪んだようになり、その後猛烈な竜巻が3人の周りで巻き起こる。そして、その竜巻は3人を乗せて、大きな地割れを乗り越えて3人の近くまで追いついていた女学生たちの目の前で、あっと間に空の高みへと3人を運び去って行った。
そうして3人は、遅刻ぎりぎりに教室に滑り込むことが出来たのだが……。
「お?なんだ?出遅れ3人組は、ソリュートまで使って、そろってぎりぎり遅刻セーフか?」アッシュのソリュートの烈風とともに教室に現れた3人は、席に着くなり、講師にそういやみを言われる羽目になった。
講義が終わったあと、タカヤとアッシュはジンを引きずるようにして、空き教室へとやってきた。
「まったく、今朝のは、なんなんだよ!俺やアッシュまで巻き込んで!」タカヤの怒りは頂点に達しているらしい。それもそのはずで、魔法演習場以外の校内で、ジグマやソリュートなどの大技を使ったことで、この後、タカヤとアッシュは教授から呼び出しを受けているのだ。
「そんなこと言ったって仕方ないだろ?文句なら、待ち伏せしてるあいつらに言ってくれ!」ジンはムッとして答える。
「それにしてもすごいよね、あの子達」アッシュは今朝の様子を思い出して、苦笑した。
「な?普通じゃないだろ?タカヤのジグマを超えてくるんだぜ?俺一人で、いままでどれだけ苦労してきたか……。お前たちにもわかっただろ?」
「俺はそんな苦労知りたくなかったね!っていうか、なんでお前、自分で魔法使わないだよ?ジグマだってソリュートだって、お前だって使えるだろ?」
「使えることは使えるけど、やっぱ属性が違うせいか、お前らのと威力が違うんだよな。それと、昨日からこれをつけられちゃってさ」と、おもむろに袖を捲くって二人の前に突き出した。ジンの手首には、なにやら大きな時計のようなものが巻かれていた。
「なんだそれ?」
「なんか。魔波動を測定するものなんだとさ」
「え?なんでそんなものを着けられちゃったの?」
「この前検査で、俺の波動の種類がプラスだって言ってただろ?でも、普段からそのプラスの波動が出てるわけじゃないらしいんだよ」
「へぇ~そうなんだ」
「だから、どんな条件でそのプラスの波動が出るのかを調べたいんだと……。で、魔法を使った状況のこととかを報告しなくちゃいけないんだ。だから、あんまりくだらないことで魔法を使いたいくないんだよ」
「それにしても!」タカヤの怒りはまだ完全には収まっていないらしい。
「うん、それにしても、今朝の彼女達はすごかった……」
「え?ああ、全くだよな~」自分に何か言いたげなタカヤのことは無視して、ジンはアッシュの言葉に飛びつくように反応した。
「あのジグマを超えてきちゃうんだもんね?僕のソリュートだって、もうちょっと発動が遅かったら捕まってたかもね?」
「かもな?でも、あんな連中に捕まったらどうなるかと思うと……恐ろしいな」ジンはブルッと身を震わせる。
「あいつら……。あいつらさ、もしかしたら近衛隊のヤツラよりも、強靭かもな?」ムッと顔を顰めたまま、タカヤが口を開いた。
思いもかけないタカヤの発言に、ジンとアッシュは顔を見合わせる。
「あはは、そうかも!そうだよな。あの子達が近衛隊に入ったら、最強かも!!」アッシュが大きな声を出して笑い出すと、タカヤもつられて噴出した。
しかし大笑いする二人の横で、「まったく他人事だと思って!笑い事じゃないよ……」ジンは疲れた顔で苦笑し、本気でデュークに相談してみようと考えた。




