13. 幻のファーストキス 11
13. 幻のファーストキス 11
魔方陣から放たれた光の柱の中で、ラベンダーは意識が遠のいていくのを感じながら、出会ったときから今日までのジンの姿が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えていくのをじっと見送っていた。一つずつ自分の中からジンの面影が消えていくたびに、不安と寂しさが募っていき次第に自分のなかにジンのことを忘れたくないという想いが大きくなっていく。ラベンダーの想いが彼女の心の中から溢れそうになったとき、胸元の袋の中の小さな羽根がにわかに光を帯び始め、羽が放つ光は徐々にラベンダーの体を覆っていった。ラベンダーの脳裏に宵待草を手に照れくさそうに笑うジンの顔が浮かんだとき、彼女は思わずその面影に向かって手を差し出し、名前を呼んだ。
「ジン……」
「バカな……、もう意識など無いはずなのに!」ラベンダーの口から発せられた言葉を耳にして、デュークは驚きの声をあげ、ジンは思わず魔方陣の中のラベンダーに駆け寄りラベンダーを抱きしめた。
「ラヴァン!!」ジンの声に、ラベンダーは薄っすらと目を開き、少し視線を彷徨わせてからしっかりとジンのほうに顔を向けた。
「ジン……。私忘れたくない。行かないで……ジン」
「ラヴァン……」
魔法陣の放つ光の中でしっかりと抱き合った二人は、お互いが引き寄せられるようにして唇を重ねた。スッと閉じられたラベンダーの目尻から涙がこぼれる。その涙は、彼女の頬に添えられたジンの手のひらに触れると、小さな蒼い結晶になった。
「ジン……」ジンの腕の中で、ラベンダーは最後に小さくジンの名前を呼ぶと、そのまま意識をなくしてぐったりとジンにもたれかかった。
「ラヴァン!ラヴァン?」
ジンは腕のなかで自分に体を預けたままのラベンダーに向かって何度も呼びかけたが、彼女が目を開くことは無かった。
「諦めろ!もう完全に術が発動したんだ」
ラベンダーを抱きしめたまま呆然と立ちつくすジンに向かってデュークが低い声で言う。ジンは、なにかを振り切るようにグッと目を閉じてから、そっとラベンダーの体を抱き上げてベッドに横たえた。
「終わったな。行くぞ」もう一度デュークがジンに声をかける。
「……」
無言で頷いたジンがふと足元に視線を落とすと、そこにはラベンダーがこぼした涙の結晶が落ちていた。ジンはそれをそっと拾い、手のひらでギュット握り締めた。
- 必ず。俺は必ずまたココに来るから -
ベッドの上のラベンダーの寝顔に向かって、ジンは心の中で強く誓ってラベンダーハウスを後にした。