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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
13. 幻のファーストキス
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13. 幻のファーストキス 7

13. 幻のファーストキス 7


「ラヴァンも知ってるだろ?迷いの森に住む悪魔の話」


「う……ん」


「俺は、その悪魔なんだ。迷いの森に住む悪魔って言うのは、俺たち魔法使いのことなんだ」


「え?うそ、そんなの」


「いきなりこんなこと言っても信じられないのもわかるけど、嘘じゃないんだ……」


「だって……」驚愕の表情を浮かべるラベンダーからうつむいて視線を逸らしていたジンは、少し考えてからおもむろに顔を上げた。


「今、証拠を見せるから」


「しょう……こ?」


「うん。こっちに来て」


 ジンはラベンダーを伴ってベランダへ出る。エルドラの魔導術の影響で異常気象が起き急激に雪解けが進み、つい先日まで雪に覆われていたラベンダーハウスの周りの景色はすっかり春の様相を呈している。そして、その明るくうららかな春の日差しを背にして、ジンはラベンダーの前に立った。


「見てラヴァン。これが俺の本当の姿……」そう言うと、急にジンの顔に魔力を帯びた陰がさす。ゆっくりと開かれた眼差しには力強く鋭い蒼い光が宿っていた。


「……っ」ラベンダーはいつもとは違うジンの顔つきを見た途端、怯んで少し後ずさり、恐怖で思わず目をギュッと瞑ってしまう。


「ラヴァン!」


 バサッっという音とともに小さな風が舞い起こると、ジンはラベンダーに声をかける。その声に、ラベンダーが恐る恐る目を開けると、そこには、全身が青白いオーラに覆われ、背中に大きな羽を携えたジンが立っていた。


「えっ!」ラベンダーは思わず、自分の胸に視線を移してその上に手を当てる。ラベンダーの手の中で、小さな袋の中のものの輝きが少しだけ増したように思えた。


「約束場所に連れて行ってあげるから。宵待草を見に行こう!」


 自分が陰に覆われたことに気がついてラベンダーが顔を上げると、ジンが自分の体を両手で抱きこんで空を見上げながらそう言った。


「……」


「いい?しっかりつかまってて」


 驚きで声も上げられず、微動だにできないままのラベンダーの顔を覗き込むようにして、ジンがそう声をかける。その眼差しはいつもと変わらない優しいジンのものだった。ジンの言葉が聞こえてすぐに、ラベンダーはジンの胸に顔を伏せてギュッとつかまる。いったい何が起きているのか、ラベンダーにはまったく理解できていなかった。すると直ぐに、自分の体がふわりと浮かび上がるのを感じた。


(え?なに?!)その直後のことだ、ラベンダーは自分の脳裏に何かが走るのを感じて、あっと声を上げる。そして思わず目を開いて振り返ってしまった。


「怖い!」咄嗟に口をついて出てきた言葉だった。


 ジンはすでにラベンダーハウスの屋根よりもかなり高いところまで飛び上がっていた。そのために、ラベンダーの視界に入ってきたのは、見たこともないほど高い場所から上空から自分の家を見下ろした景色だったのだ。自分の腕の中で、怖いと短く叫んで身を硬くするラベンダーの姿を見て、ジンは慌ててベランダへと戻る。


「ごめん、怖かった?」


 ベランダに戻ってきてからも、ギュッと目を閉じて身を震わせているラベンダーを見て、ジンは彼女が自分の事を恐れているのだと思った。


「ごめん。怖がらせるつもりじゃなかったんだ。俺……、本当にごめん。怖い思いをさせてごめん」


ラベンダーの頭を抱え込むようにしてジンは必死に彼女をなだめるように謝る。


(そうじゃないの……ちがう)次の言葉を口にしようと、ラベンダーは必死に口を開こうとするが言葉を発することは出来ず、ただ首を横に振ることしか出来ない。するとジンは一瞬少しだけ強く抱きしめてから、すっと後ろに一歩下った。それから力なくラベンダーの体から手を離し、黙ってうつむいたまま背中を向けて部屋の中に入っていった。ベランダに一人取り残されたラベンダーは、がっくりと膝を落として座り込みそのまま顔を覆ってうずくまった。



「ジン?入ってもいい?」


 フローラがジンの部屋にやってきたのは、ジンがラベンダーの部屋から戻って暫く経ってからのことだった。彼女はジンがラベンダーの後を追いかけて行ってから、ずっと二人の様子をうかがっていたのだ。ジンは、背中に羽を携えた姿のまま、ベッドの端に座りうなだれるようにして顔を手で覆ったまま動こうとしなかった。その様子を見て、フローラは無言のままジンの隣にそっと腰掛ける。


「俺……、ラヴァン怖がらせてしまって……。そんなつもりじゃなかったのに、俺……」


フローラがそっとジンの肩を抱き寄せると、ジンはフローラに体を預けてきた。


「大丈夫、あの子だってちゃんとわかってるから。ずっとあなたを見てきたんですもの。少し困惑しているだけよ……」


 フローラは、ジンの髪をそっと撫でる。暫くしてからジンは顔を覆っていた手を下ろし、鳶色の瞳を不安で揺らしながらフローラの顔を見つめた。


「大丈夫だから。ね?」フローラは、いつものように静かにジンに微笑みかける。


「でも……」


「私がもう一度話しをしてみるから。ほら、そんな顔しないの……」フローラは、もう一度優しく微笑みかけるともう一度そっとジンの体を抱きしめた。


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