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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
13. 幻のファーストキス
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13. 幻のファーストキス 4

13. 幻のファーストキス 4


 朝食を終えてソファーでテレビを見ていたジンのところに、片づけを終えたラベンダーがやってきた。


「あのさ、ジン」


「ん?」


「あの……。ごめんなさい」


「え?なに?」


「だから、ここ数日変だったでしょ、私?」


「ん、ああ」


「大学のレポート出したら、なんか『落ちたらどうしよう』とか思って不安で、ちょっと変だったんだ」

ラベンダーは、少し上の方に視線を逸らして言い訳をしながらジンに謝ってきた。


「いいよ、そんなこと。誰だってそういうことあるし……」


 ラベンダーは自分に対して『嘘をつくのが下手だ』とよく言うが、ラベンダーの方がよっぽど嘘をつくのが下手だ、ジンは心のなかで苦笑しながら答えた。


「そ、それでね」


「うん?」


「レポートも終わって、ちょっと暇になったから、どこかに遊びに行こうかな~なんて思ってるんだけど」


「遊びに行くって?」


「ほら、ジンがココに来たときいろいろ忙しくてその後雪が降っちゃったから、ジンはあんまりいろんなところに遊びに行ってないでしょ?この辺りにもね、すごく景色がきれいなところとか一杯あるから案内してあげようって思ったの」


「……」ジンの答えを待たずにラベンダーは地図を広げて、ココの景色がすごくきれいなんだよなどとあちらこちらの説明を始める。


「でね、まず最初に明日はココに行かない?ちょうど今の時期雪が女の子の形に溶け残って、『雪の少女』って呼ばれてるんだ。で、その次はココの滝を見に行こう!それから、その次は……」


「ちょ、ちょっと待って!!」


「ん?」


「次は、次はって何箇所いくつもり?」


「この辺の景色がいいところとか、みんな案内してあげるからさ!」


「みんなって、あのさ……」


「なに?」


「俺、観光に来たみたい」


「そ、そんなつもりじゃないけど」


 ジンにも、ラベンダーがそんなつもりでこの話を始めたのではないことくらいわかっていた。しかし、オンジの降らせてくれた雪による封印が溶け始めている今、むやみに遠出をすることは避けたかったのだ。


「なんかさ、今更お客さん扱いされても嬉しくないし」


「お客さん扱いなんてしてない!ただ」


「ただ?」


「……」黙って次の言葉を紡げずに困ったようにうつむくラベンダーに向かって、ジンはふっと小さく笑った。ジンがもう直ぐここを離れてしまうことを悟ってラベンダーなりに思い出作りをしようとしてくれいることが痛いほどわかっていたからだ。


「あのさ、俺どこかに出かけるのもいいんだけど、出来ればラヴァンとゆっくり話をしたいんだけど。だめかな?」


「え?話?」


「うん」


「わかった。でもさ、一箇所、一箇所だけ行きたいところがあるの、それだけは行ってもいいかな?」


「どこ?」


「今度の新月の次の晩にね、宵待草が咲くの。それを見に行きたいんだ」


「宵待草?」


「うん。毎年ね、見に行ってるんだよ。すごくキレイなの!今年はジンにも見せてあげようって前から思ってたんだ。場所もそんなに遠くないし」


「わかった、じゃあ宵待草は一緒に見に行こう!」


「よかった、約束だよ!」


「OK」ラベンダーは、ほっとしたのか嬉しそうに笑った。


「それで、話ってなにを話すの?」


「え?」


 いきなり話題を振られてジンはギクリとする。自分が魔法使いでありココを離れるときには記憶を消さなくてはいけないことを話さなくてはならないのだが、どうやってそれを切り出したらいいのか、まだ分からなかったからだ。


「どうしたの?」


「い、いや。別に特にあの、話題があるわけじゃないんだけど」


「なーんだ」


「ごめん」


「いいよ謝らなくても。そんなことかと思ってたし」ラベンダーは、そういって意地悪く笑う。


「そうだ、大学受かってるといいな」


「うん。ほんと受かってるといいな~。私の夢だしね」


「そうだな。でも俺、お前はいい小児科の医薬師になると思うよ」


「ほんと?」


「うん。お前面倒見いいところがあるし、優しいからね」


「そうかな~?普通だよ。ま、小さい子は好きだし、メリーベルとも約束したし」


「うん」


 ジンの脳裏にラベンダーの部屋にまだ貼ったままになっている、メリーベルから届いた手紙や絵が浮かんだ。今でもラベンダーの記憶の中では、メリーベルは生きているのだ。人は命がある間だけ生きているのではなく、誰かの心の中に存在することで生きているのかもしれないとジンは思った。


 しかし自分の記憶は、ココから離れるとき、ラベンダーの中から消さなくてはいけないのだ。自分の存在自体をはじめから無かったことにしなければならない。それは、今のジンにとっては辛く耐え難いことだった。


「ん?どうしたの?」思わずうつむいてしまったジンに向かってラベンダーが声をかける。


「ん、いや。メリーベルのことをそんな風に話せるようになってよかったなって思ってさ」


「あ、うん。それもジンのおかげだよ」


「え?」


「ジンが居てくれたからさ。いつまでも悲しんでちゃいけないって思えるようになったんだもん」


「そっか」


「あのさ……私、ジンの事も忘れないから絶対に」


「えっ」


「だからジンも忘れないでね私の事。それでさ、また遊びに来てね!」


「え……、あ、うん」


「なに?嫌なの?」


「え、嫌なわけ無いじゃん!でもさ……」


「でも?」


「ほら、帰ったらいろいろ忙しいかもしれないから、またこれるかどうかわかんないし」


「ぷっ……」ジンの言葉を聞いていきなりラベンダーが噴出した。


「なんだよ、いきなり噴出したりして!」


「だってさ。ジンは真面目なんだな~って思って」


「真面目?」


「うん。普通はさ、来れないかもしれなくたって『絶対来るから』って言うもんでしょ?」


「そ、そかな?」


「そうよ」


「でも、嘘つくようなことしたくなかったし」


「だから真面目だなと思ってさ。てか、嘘つくのも下手だしね?」ラベンダーはジンの顔を覗き込んで、悪戯っ子のようにクククと笑う。それにつられてジンも笑った。



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