1. ステージアップ試験 6
1. ステージアップ試験 6
「どうする?ジン」テレスはそう言いながらジンの方を向くと、ジンはじっと目を閉じ腕を組んで何かを考えているようだった。
「ルシアを3人で囲んで、みんなのバリアを合わせてドーム型にして、それで攻撃を避けながらあそこまで進むのはどう?」 と、マルクが提案する。
「そうね、私もそれしかないかな?と思ってた。岩の飛び方に法則性があるかもしれないから、それによって、進み方考えれば安全だしね」テレスが言うとジンが、いきなり2人の方に振り向いた。
「そんなちんたらしたことできるか!オレに考えがあるから、ちょっとそこで待ってろ」
ジンはそういい残すとみんなを柱の陰に残したまま、一人だけ少し離れた床に降り立ちしゃがみ込む。
「あなたまさか……」
テレスが声を掛けてもジンは答えもせず、指先で床に数人ようやく立てる程度の大きさの正確な円を描き始めた。そして、その円の中に直線や図形らしきものを次々と描き込んでいった。
「あれって……魔法回避のサークルじゃない?」
魔方陣を描き終わり、また柱の陰に戻ってきたジンに向ってテレスが言った。
「いいからサークルに入れ」ジンはテレスの問いかけには答えず、みなにそう声を掛けると先にサークルのところに戻って行く。テレスとマルクは仕方ないといった顔で頷き、ルシアを伴ってサークルのところへ行った。
「いいか、行くぞ」
ジンは皆にそう声をかけるとサークルの中心に立ち、目を閉じて呪文を唱えながら胸の前で小さな丸をつくるような形で両方の手のひらを向かい合わせる。 程なくジンの手のひらの間に小さな緑色の光の球が浮かび上った。光の球は徐々に大きくなって輝きを増し、だんだんと光を放ち始めた。緑の光が、下からジンの顔を照らしだすと、ジンの髪が下からフワリと舞い上がる。
やがてジンの体は徐々に緑色の光に包まれ、足元から魔方陣へと伝わって行く。魔方陣全体に光が及ぶと、光は一本の柱のようになった。サークルの中に立っている者の顔も、サークルから放たれた光で下から照らされ、髪もジンのように下から柔らかな風にあおられるように舞い上がった。
「これからどうしようっていうの?」
テレスがジンを見ながら言うと、ジンはそっと目を開いて口元に不敵な笑いを浮かべた。
「俺がこれから時間を止めるから。その間に、あの扉のところまで行くんだ」
「でも……」 何か言おうとするテレスを制して、ジンが続けた。
「時間を止めると言っても、俺のレベルじゃたいした時間は止めていられない。だが、あの扉へたどり着くぐらいの時間稼ぎにはなる」
そういい残すとジンは、みなを置き去りにしてサークルからさっと飛び出し少し離れたところに降り立つと、今度は前かがみに構えて先ほど同じようにまた呪文を唱える。今度は、胸の前で迎え合わせた手の平の間に青白い光がボウッと浮かび上がった。ジンはその光を両方の手で上に高く放り上げながら叫んだ。
「行くぞ!」
ジンの手から放たれた光はどんどんと大きさを増し、まぶしくて見ていられないほど輝き始めた。光が、空中を飛び交う岩を飲み込むと岩はその場所でピタッとその動きを止めた。光はますます大きさをまし、やがて巨像全てを包み終わる。それ見届けるとジンが叫んだ。
「急げ!」
ジンの掛け声と同時に、テレスとルシアを小脇に抱えたマルクはサークルを飛び出し扉に向かった。扉のところでは先に辿りついたジンが扉を開けてみなを待ち、全員が扉の中に飛び込むと急いで扉を閉めた。
ジンが閉めた途端に、扉の向こうで岩が崩れる大きな音がした。また時間が動き出したのだ。
「案外ちょろかったな」 ジンが扉に向ってそうつぶやくと、いきなり大きなホイッスルの音が鳴り響いた。