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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
12. 贈り物
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12. 贈り物 4

12. 贈り物 4


「そういえば、すっかりご挨拶が遅れてしまって申し訳ありませんでした。私、ジンの姉のルナと申します!弟が大変お世話になり、ありがとうございました」


 ジンの様子を察したルナがとっさに大きな声を出して頭を下げ、その声にみな驚いて振り返った。するとルナはいきなり笑い出した。


「ふふふ」


「姉貴?」ジンが怪訝そうな顔で声をかける。


「突然笑ったりしてごめんなさい。でも、ジンがとっても大事にされているんだなってことが良くわかって、すごく嬉しかったのよ」


「え……あ、うん。みんなすごく良くしてくれてるんだ」ジンは、みんなの顔に、一人一人確かめるように視線を移しながらそういった。


「あの、食事の用意をしてありますの、お姉さんも一緒にこちらへどうぞ」


フローラがルナをテーブルへと促す。ラベンダーとジンは二人でキッチンに食事の用意をしに向かった。


「驚いた、あんたが食事の支度を手伝うなんて……」ルナが呟くように言った。


「え?ん、ああ。まあね」


「ジンは本当にいろんなことを手伝ってくれるんです。薪割りとかもしてくれるんですよ」フローラが言う。


「私の勉強も見てくれるんです」とラベンダーが続けた。


「なんかもう、すっかり家族の一員って感じだよな~」とロジャーも言葉を続けた。


「そうなんですか……」

 ルナには、そこにいる皆が「ジンを連れていかないで」と必死に訴えていることがひしひしと伝わってきて、それ以上の言葉がつむげずにいた。ジンだけは少し俯いて黙ったまま食事をしていた。


 食事を終えてから、ルナを囲んで皆で話をした。


「ジンはね、大学の古代科学文化研究会に所属してて、その研修にシエル山に来て迷ってしまったの」


 ジンが山奥にいた理由を、ルナはそう説明した。古代科学文化研究会ってなんだよ?とジンは思ったがあえて口には出さず、記憶がない振りをしておくことにした。


「そうなんですか……。覚えてないの?ジン?」ラベンダーはジンにそう尋ねた。


「え~、う~ん。わかんね」あいまいに言葉を濁すジン。


「今更、迷った原因なんていいじゃない?」フローラがラベンダーに言う。


「そうだけど」ラベンダーは落ち着かない様子で、次の言葉を捜しているようだった。


「俺まだ帰らないから」唐突にジンが口を開く。


「ジン!」ラベンダーが驚いてジンの顔を見た。


「わかってるわ」ルナは手にしたコーヒーカップに視線を落としながらそういった。


「姉貴?」


「っていうかね、今日は迎えに来たわけじゃないから」


「え?」ルナの言葉にラベンダーが先に反応して声を上げた。


「ちょっと事情があって……、今は帰ってきてもらった困るのよ」


「事情って?」ラベンダーが、ルナの方に乗り出すようにして尋ねた。


「こら、ラヴァン!」慌ててフローラがたしなめるが、ルナがそれを笑顔で制して言葉を続けた。


「実は、家が火事になってしまいまして……」そういうと、ルナは言葉に詰まったように俯いた。


「はぁ?」あまりにもベタな理由に、ジンは思わず間抜けな声を出してルナの顔を見る。ルナは、ジンにだけわかるように少しだけ顔を上げて小さくウインクをすると、また下を向いて話始めた。


「つい先日のことなんですけど、実家が火事になってしまって……。なので、ご迷惑かとは存じますがもう少し弟をココに置いていただくわけにはいかないでしょうか?」


「そんなご事情があるのでしたら、家はいつまでいていただいても構いません。ご実家が落ち着かれるまで、お預かりしますよ」フローラがルナの手を取って頷く。


「そういっていただけると助かります。不束な弟ですが、よろしくお願いいたします」

ルナはそういって頭を下げた。



「まったく、ベタな言い訳しやがって」ジンはルナに苦笑しながらそういった。


これからのことを二人で話したいというルナの希望で、ジンとルナはジンの部屋に来ていた。


「あら、そういわないでよ。これでも必死に理由を考えたのよ?」ルナも、ちょっとまずかったかなというような顔をして言う。


「オンジに聞いたのか?」


「ええ」


「そっか、やっぱり」


「まったく、あんたって子は……」嵐の中でラベンダーを助けたときに、ジンが魔法を使ったことを言っているのだろう、諦めたような眼差しでルナがジンを見た。


「それでさ姉貴。悪いんだけど、俺もうちょっとガキでいてもいいかな?」


「はあ?なに言ってるの?今でも十分ガキだと思うけど?」


「うんそうだけど。でもアイツもさ、ラヴァンも俺と一緒に居る時さ、なんていうか……ものすごくガキ臭い顔して嬉しそうに笑うんだよ」


ジンは、顔をクシャっとゆがませて、嬉しそうに笑うラベンダーの笑顔を思い出しながらそう言った。


「そういうことか」ルナはそう一言呟いてジンを見た。


「それにさ、アイツ、この前親友を亡くしたばかりでさ、今はそばにいてやりたいんだよ。出来れば、大学に合格するのを見届けてやりたいんだ。だめかな?」ジンは縋るような目でルナを見た。


ふぅと大きく息を吐いてからそうルナは、そっかと言うと、暫く黙っていた。


「いいんじゃない。とりあえず、雪解けまでは大丈夫よ」


「雪解け?」


「うん。オンジが降らせてくれた雪が溶けるまでは、ココに居ても大丈夫」


オンジが降らせた雪は、エルドラの魔法を封印する効力が秘められているのだとルナが話した。


「で、大学の合否はいつわかるの?」


「俺もまだ詳しくは知らないんだけど、でも出来れば……」


「わかったわ。それは帰って相談してみるから。また連絡するわね」


「よろしく頼みます」ジンは深々と頭を下げた。




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