12. 贈り物 3
12. 贈り物 3
リーン・リーン・リーン その時、店の電話が鳴った。慌てて振り向く二人を制して、フローラが電話に出る。電話はロジャーからだった。明日、ラベンダーハウスに来る予定になっていたのだ。しかし、電話に出たフローラは傍から見てもわかるほど明らかに動揺していた。
「ロジャーさんなんだって?」ラベンダーが、いつにないフローラの様子を心配して尋ねた。
「それが……」
「なに?どうしたの?」ジンが尋ねると、フローラは少しためらってから口を開いた。
「ジンのお家の方が見つかったって……」
「「ええ~~~?!」」その言葉を受けて、ジンとラベンダーが驚きの声を上げた。
ジンがまだラベンダーハウスに来たばかりの頃、どこかでジンのことを探している人がいるかもしれないからと、ジンをラベンダーハウスで預かっているという情報を流したのだ。ルナはそれを上手く利用して、ジンのことを探し出し当てたことにして明日尋ねてくるらしい。
「お家の人が迎えに来てくれてよかったね」ラベンダーはソファーに座って少し足をブラブラさせながら、ジンの顔を見ずにポツリと言った。
「え?あ。でも、俺まだ帰る気ないし」
「でも、そういうわけにも行かないんじゃないの?迎えに来てくれるわけだし」
「でも、いきなり迎えに来ました、帰りましょうって言われたって、訳わかんないし」
「ジン、まだ全部思い出せないの?」
「え?うん、どうかな?わかんない」
「でも……」
「お姉さんも、明日は挨拶に見えるって言ってたから。直ぐに帰るって事じゃないかもしれないし。それはまた、話し合って決めたらいいわよね?ジン」
「え。あ、はい」
「ね?ラヴァン?ジンにも都合があるんだから」
「ラヴァン。俺、帰らないからまだ」
「だって」
「いいの。まだ俺が帰りたくないの。それよりほら、講義、いいのか?」
「あ、うん」ラベンダーは戸惑いがちな笑顔を見せると、テレビの前に行ってテキストを開き始めた。
翌日、雪を掻き分けるようにしてロジャーがやってきた。
「やあ、ジン!お家の方をお連れしたよ」ロジャーの後ろから顔を出したのは、ルナだった。
「ジン?ジンなの?」ルナの声はやけに芝居がかかっている。
「ん、あ、俺」普段のような調子でジンが答えると、いきなりジンの頭の中にルナの声が響いてきた。
-馬鹿!もうちょっと空気を読みなさいよ!-
-空気ってなんだよ!いきなり訪ねて来たりしてきて、どういうつもりだよ!-
頭の中でルナと会話をしていることが顔に出ないように装いながら、ジンは慌てて驚いた顔をする。
「あなた、本当にジンなのね?!」
-いい?感動の再会なんだから、それらしいせりふを言うのよ!-
頭の中にまたルナの声が響く。
「うっせーな……じゃなかった。あ、姉貴?」
-それだけ?-
-俺に他になにを言えつーんだよ?-
「ううう……」ルナがわざとらしく泣き崩れる声がする。
-おまえの、芝居くっさ~-
ジンは思わず噴出しそうになって、慌てて口元を押さえる。
「ジン……」ジンの仕草を見て泣いているのかと勘違いしたフローラが顔を覗き込んできた。
-だめだ、笑っちゃいそう。もう限界・・・-
ジンは、可笑しくて噴出しそうで背中を丸めてお腹を押さえ、必死に笑いを堪えていた。もう、可笑しすぎて目尻には涙が溜まっていた。
「ジン?大丈夫?」ラベンダーまでもがジンの様子を心配してやってきた。
(ヤバイ。笑ってるのを隠さなきゃ!)
ジンは慌てて顔を背けた。するとラベンダーは、目ざとくジンの目尻に溜まった涙を見つけた。
「ジン泣いてるの?」
ポツリとラベンダーが言った一言で、初めてジンは自分の目尻に涙が溜まっているのに気がつき、指先で拭う。
(げ?やばい……。ほんと限界……)
「お姉さんに会えたんだもん、嬉しいよね……」
切ない眼差しで自分を見つめるラベンダーの顔を見ると罪悪感が沸いてきて、本当のことを伝えたいという気持ちが溢れてしまいそうになるのをジンはグッと堪えた。